スペシャル・トレンドレポート

米独の2年債金利差が縮小、「ユーロ/米ドル」静かに反発へ(竹内 のりひろ氏)

2021年9月3日
NYのシニアディーラー :「こちら、米国の経済指標ですが、コロナ後の景気拡大の一巡感やデルタ株の感染拡大からピークアウト感が鮮明となってきました」
東京支店のチーフディーラー :「物価の上昇はここにきて欧州でも鮮明になってきたね。「ユーロ/米ドル」はどう見ている?」
NYのシニアディーラー :「3月31日(水)の年初来安値1.1704が抜け、8月20日(金)に下値を1.1664まで拡大しましたが反発に転じています。ベアトラップかもしれません」
東京支店のチーフディーラー :「チャート分析するとそうみえるね。米独の金利差も縮小(後述)しているみたいだし、「ユーロ/米ドル」は底入れっぽいね」

この2人の会話から判断する限り、「ユーロ/米ドル」はベアトラップを形成して反発に転じているらしい。米独の金利差も縮小しているようだが、本当に底入れしたのだろうか?

目立った材料等がないなか、8月18日(水)、「ユーロ/米ドル」はそれまでの年初来安値だった1.1704を下抜けた。週末の20日(金)にかけて下値を1.1664まで拡大したが、その後は反発に転じている。本レポート執筆時点(9月1日(水)午後)時点では、1.18の大台を回復している。

チャート:MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

例年、8月下旬には米国のカンザスシティ連銀が主催する会合、ジャクソンホール経済シンポジウムに金融市場の注目が集まる。この会合は金融政策を発表したりする場ではないが、過去、金融政策の方向性や枠組みが「示唆」されたこともあり注目度は高い。

過去に目を転じると、2010年の会合では当時のFRBバーナンキ議長が量的緩和の第2弾の可能性に言及。驚いた当時の日銀の白川総裁は急きょ日程を変更して帰国、臨時の日銀金融政策決定会合を開催して円高対策を打った。ただそうした機会もむなしく、米国から本当に量的緩和の第2弾が発表され、秋口にかけて「米ドル/円」は約5円の下落を演じた。

元FRBバーナンキ議長が大盤振る舞いをしたこともあり、翌年2011年6月のFOMC(注)では、メンバーの外部とのコミュニケーションを一部制約する規則が設定されている。ただ、依然、大多数の金融市場関係者の注目のイベントであることに変わりない。

(注)連邦公開市場委員会、米国で金融政策を話し合う場

今年のジャクソンホール経済シンポジウムは、2年ぶりの対面での開催が春にアナウンスされていたが、デルタ株の感染拡大から急きょオンライン形式に変更、日程も8月27日(金)の一日のみの開催となった。FRBパウエル議長の冒頭の講演に市場の注目が集まった。

まず、「この数か月、労働市場の回復はかなり明るいものとなった」と指摘。「物価の上昇は一時的」との基本認識は変えず、テーパリング(量的緩和の縮小)への条件がそろいつつあることを認めた。テーパリングの開始時期に関しては、「年内に開始するのが適当だろう」と述べ、大規模な金融緩和の修正に踏み切る姿勢をみせた。

ただ、「テーパリングの開始は将来の利上げの時期に関するシグナルではない」ともくぎを刺した。テーパリングが始まっても、現在の低金利環境は当面続き、緩和的な金融政策は維持される。市場が想定していた通りの満額回答で、金融市場の反応は、米金利の低下、株高、為替市場では米ドル売りとなった。

「ユーロ/米ドル」は、パウエル議長の講演中、1.1735まで売られる場面があったが、その後は静かに反発となっている。こうした米金利の低位安定、「ユーロ/米ドル」では底入れ要因となる。

チャート:筆者作成
(ピンクのハイライトがジャクソンホール経済シンポジウム後の動き)

8月30日(月)、31日(火)に相次いで発表されたユーロ圏主要国の8月のCPI(消費者物価指数)は非常に高い伸びをみせた。ドイツでは、東西ドイツの統合から活況に沸いた1993年以来、約28年ぶりの水準となる+3.9%(前年同月比)を記録した。ユーロ圏も+3.0%まで上昇、ECB(欧州中央銀)の目標とする2.0%を上回る。

昨年、新型コロナの感染拡大から、グローバルで経済が委縮、経済は大きな落ち込みをみせた。昨年の4-6月期のように、経済のパイが縮小した時期を前年比で比較した場合、飛び出す数字が大きくなることに異論はない。ただ、景気の回復が始まり、経済活動が再開し始めた8月でも物価はこれだけの過熱をみせる。

9月9日(木)のECB理事会を前に、オランダ中銀のクノット総裁からは「ユーロ圏のインフレは危機モード、ECBの刺激策の即時減速と量的緩和の3月の終了が正当化できる」との発言が飛び出す。前後して、オーストリア中銀のホルツマン総裁からも同様の情報発信があった。

ECBはコロナ後の経済の落ち込みに対処するため、PEPP(パンデミック緊急資産買入れプログラム)に1.85兆ユーロの枠を設定して、ユーロ圏の国債などを買い入れている。期限は2022年3月までで、すでにこの枠のなかで1.325兆ユーロを使っている(8月27日(金)現在)。

8月の買い入れはここまで52.9億ユーロにとどまり、この水準に近い買入れ額で終わった場合、金融市場にはステルス・テーパリングと映る可能性がある。

チャート:ユーロ圏主要国の統計局などから筆者作成

図表:ECBより筆者作成

こうしたユーロ圏の物価の上昇、ECBのテーパリングの開始観測からユーロ圏の金利は静かに上昇に転じている。各国の政策金利の動向を反映する2年債の金利でみた場合、米独の2年債金利差は縮小しつつある。年初の1月6日(水)、「ユーロ/米ドル」は年初来高値1.2349まで上りつめたが、こちらの原動力となったのは、米独の金利差の縮小からだった。

すでに欧州の複数の投資銀行は、長らく続いたユーロ圏の低金利の終わりを予想して、顧客に欧州債の売り(=金利は上昇)を勧めている。パラダイムチェンジを予想していることになり、ユーロ圏の金利は静かに反発の時期をむかえようとしている。

以上をまとめると、物価の過熱からECBのテーパリングはすぐそばに迫る。米独の2年債金利差の縮小傾向は「ユーロ/米ドル」では買い要因だった。8月に年初来安値を更新した「ユーロ/米ドル」だが、静かに反発の時をむかえようとしている。

チャート:筆者作成
※米独の2年債金利差は軸を反転

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年9月3日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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