スペシャル・トレンドレポート

英中銀 Super Thursdayに向けて(松崎 美子氏)

2021年8月4日

8月5日、四半期に一度のマクロ経済予想と総裁記者会見が続く英中銀Super Thursdayが開催される。ロックダウンも完全に解除された英国で、中銀はここからの経済について、どのような見解を持っているのか、ポンド取引をする人にとっては、非常に重要な1日となるだろう。

そこで今回のコラムでは、私の予想を書いてみたいと思う。

英中銀Super Thursdayとは?

米英欧それぞれの中央銀行は、独自のタイミングで金融政策理事会とマクロ経済予想発表、総裁の記者会見などをしている。その中でも特に英国の中央銀行は、政策金利・議事要旨・マクロ経済指標をまとめた金融政策報告書の発表を、それぞれ違うタイミングで行なっていた。これではあまりにも混乱しやすいということで、2015年 8 月に金融政策判断に関する情報提供手段のタイミングを変更、全て同じ日に発表することとなった。

マーケットは、この新しいシステムを「Super Thursday(スーパー・サーズデー)」と呼んでいる。「Super Thursday」は、2・5・8・11月に開催される金融政策理事会(MPC Monetary Policy Committee)のことを指し、この日には① 政策金利とQE策などの発表と投票配分、② 議事要旨、③ 四半期金融政策報告書、④報告書に関する総裁/副総裁による記者会見が実施され、まさに「Super ハード」な1日となる。

8月5日予想 : 政策金利とQE策、据え置き

この予想は、あくまでも私の独断であり、メディア予想とは違うかもしれないため、その点はご理解頂きたい。

一点だけ先にお断りするが、通常MPCは9名の理事で構成されるが、ホールデン主席エコノミストが6月末で任期満了を待たずに退任し、その後任が未だ決まっていない。そのため、今回は8名での会合となる。

https://www.bankofengland.co.uk/about/people/monetary-policy-committee

① 政策金利

0.1%据え置き。

投票は8対0の全会一致を予想。

② QE枠

8,950億ポンド(内訳:国債 8,750億ポンド、社債 200億ポンド)で据え置き。

投票配分は8対0か、7対1かで悩んでいる。もし、7対1となれば、ソーンダース理事がQE策縮小に1票を投じると予想。

8月5日予想 : 声明文

政策金利の引き上げ時期についてのヒントは、一切ないと予想。

QE策の早期終了/縮小についてもヒントはないだろうが、ものすごく小さな可能性としては排除できないのかもしれない。これについては、後ほどもう一度説明する。

労働市場の緩みについての文言も要注意。英中銀の声明文では、「although it is likely that labour market slack has remained higher than implied by this measure.  労働市場の緩みは、失業率の数字で表わされている以上に深刻であると考えられる。」と書かれているが、この文言が少しでも変更されれば、ポンドは素直に反応するだろう。

https://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-summary-and-minutes/2021/june-2021

8月5日予想 : テーパリング

前回5月のSuper Thursdayでは、資産購入プログラム(QE策)における毎回の購入額の減額について「Market Notice」が発行された。

https://www.bankofengland.co.uk/markets/market-notices/2021/may/asset-purchase-facility-gilt-purchases-may-2021

「2. The Bank intends to purchase evenly across the three gilt maturity sectors. For operations scheduled between 10 May 2021 and 4 August 2021 the planned size of auctions will be £1.147bn for each maturity sector. This auction size includes the reinvestment of the £16.4bn cash flows associated with the maturity on 7 June 2021 of a gilt owned by the APF.」

赤いハイライト部分を訳すと、

「5月10日から(次回英中銀のSuper Thursdayが開催される前日の)8月4日に限り、毎回の国債購入オペでは、11億4700万ポンドの実施となる。」

どういうことかと言うと、英中銀はそれまでの週44億4,000万ポンドの資産買い入れを、5月10日から8月4日に限定し、週34億4,100万ポンドに減額するということである。

しかし、これは「テーパリング」ではないと、声明文と議事要旨で主張。

「60 (略) This operational decision should not be interpreted as a change in the stance of monetary policy. As measured by the target stock of purchased assets, that stance remained unchanged.  今回のオペレーション内容の変更決定は、金融政策スタンスの変更と受け止めるべきではない。」

https://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-summary-and-minutes/2021/may-2021

https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/monetary-policy-summary-and-minutes/2021/may-2021.pdf

購入額を減額したのにテーパリングではないとは、どういう意味なのか?これは、毎週の購入額を減額しただけで、英中銀のQE枠:8,950億ポンドはそのまま据え置きなので、テーパリングとは呼ばないという理屈である。

8月5日予想 : マクロ経済予想

インフレ見通しと失業率に特に注意。ただし、それ以外にもコロナ感染の今後の影響などへの見解にも注意が必要。

インフレ見通し

ロックダウン解除後のサプライチェーンの逼迫と原油高による物価上昇を受け、インフレ見通しの上方修正を予想。

前回5月の予想では、2021年インフレ見通しを2.5%としていたが、今回は3.5%くらいまで修正されるのではないか?

失業率

私が最も興味を持っているのが、失業率。前回5月は、2021年失業率を5%としていた。最新の7月・失業率は4.8%となっており、予想以上に改善している。ただし、9月末で政府による給与80%補償制度が終了すると、新たな失業者が急増するという予想もあり、英中銀はこのあたりをどう見ているのかが気になる。

https://www.ons.gov.uk/employmentandlabourmarket/peopleinwork/employmentandemployeetypes/bulletins/uklabourmarket/july2021

この補償終了以降も失業者が増えないという考えであれば、ブリハ理事が講演で話したように、来年第2四半期あたりに利上げ実施という発想となり、ポンドは上昇するであろう。

逆に補償終了以降、失業率がぐんと上昇(悪化)するという予想であれば、利上げなど無理となり、ポンドの頭は押さえられるに違いない。

私が注意している点

次は、今回のSuper Thursdayで、私が非常に注意している点を書いてみようと思う。

政策金利の引き上げについて

前回5月のSuper Thursday以降、MPC8名の理事のうち、3名が予想以上に早期の利上げの可能性について言及したため、テーパリングを通り越し、英中銀の利上げ観測が聞こえてくるようになった。

私は先ほど、「今回は」利上げのヒントはないと書いたが、そう考えた理由を挙げてみよう。

理由1 : デルタ変異種の影響と今後のコロナ対策

7月に入り、EURO2020サッカー選手権を境にして、感染者数も死者数も増加に転じている。今後、デルタ変異種以外の新しい変異種が出ないとも限らず、9月の新学期スタートと同時にもう一段の感染者数増は避けられない。そうなれば、秋以降の景気予想や雇用面への楽観論が鳴りを潜めやすくなり、それが消費にも影響するかもしれない。

https://coronavirus.data.gov.uk/

理由2 : 雇用市場の立ち直りが不安定

ブロードベント副総裁が話していたが、雇用市場でのミスマッチが続いており、思った以上に改善には時間がかかるリスク。それについては、上述のように、労働市場の緩みについての文言変更があるかが鍵。

理由3 : MPC理事達の発言

5月以降、MPC理事達の発言が続き、その内容は真っ二つに分かれる。

引き締めは予想以上に早いかもしれないと語った「タカ派」は、ソーンダース理事・ラムズデン副総裁・ブリハ理事(8月末に退任)。

それに対し、インフレ上昇は一時的と繰り返す「ハト派」は、ベイリー総裁・ブロードベント副総裁・ハスケル理事、マン理事(ブリハ理事の後任。9月1日就任)。

カンリフ副総裁は、インフレ上昇は一時的とは語っていないが、発言内容はハト派であった。テンレイロ理事は、発言機会がなかったが、彼女もハト派であろう。

そうなると、数の上ではハト派が優勢となる。英中銀は総裁に決定権限がなく、1人1票と対等な扱いであるため、マーケットが期待している以上に利上げまでの道のりは遠いのかもしれない。

QE策の縮小/終了についてのヒント

半数以上の理事がインフレ上昇は一時的と考えている以上、QE策の早期終了の可能性は、いまのところ低い。QE枠縮小についても、同様のことが言えるだろう。

それとは逆に、秋以降デルタ変異種や新たな変異種が拡大し、新たなロックダウンの可能性が出てくれば、QE策の増額という話しにもなりかねないので、厄介である。

これは意外と知らない人が多いが、アメリカのFRBとは違い、英中銀はテーパリング経験がない。2008年の金融危機以降のQE策についても、ずっと残高をそのまま維持し、今回のパンデミックで増額したという経緯があり、縮小は未経験なのである。

未経験となった大きな理由は、英中銀はずっと、「QE策縮小は政策金利水準が1.5%になったら」という条件を設定していたからである。つまり、その金利水準にならなかったので、残高をそのまま維持したとも言えるだろう。

https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/paper/2018/boe-future-balance-sheet-and-framework-for-controlling-interest-rates.pdf

現在は総裁が変わったため、ガイダンスの見直しに入っており、変更の可能性が浮上してきた。万が一、この条件が変更され、政策金利を上げる前にテーパリング実施という形になれば、アメリカのように毎月の減額というテーパリングではなく、再投資を中止するという形から始めるようなイメージを私は抱いている。

ここからのポンド

ポンドを取り巻く環境は、良い部分と悪い部分が入り乱れており、判断が難しい。1つだけ懸念していることがあるのだが、7月末の米FOMCの時のように、今回のSuper Thursday に対してもマーケットが過度の期待を寄せているのであれば、その後の反動が恐い。上述のように、英中銀MPC8名の理事のうち、半数以上が「インフレ上昇は一時的」と考えているのである。そこは忘れないようにしたい。

唯一のサプライズは、記者会見でベイリー総裁が意見を大きく変えて、「最近のインフレ率の上昇には、懸念を抱いている。」というタカ派寄りの発言をすることであろう。しかし、個人的にはこの可能性は低いと感じている。

最後に、英中銀発表のポンド実効レートをチェックしてみよう。年初来の高値を上に抜けてはいるものの、急騰というような勢いは感じられない。

出典 : 英中銀

https://www.bankofengland.co.uk/boeapps/database/fromshowcolumns.asp?Travel=NIxAZxSUx&FromSeries=1&ToSeries=50&DAT=RNG&FD=1&FM=Jan&FY=2010&TD=11&TM=May&TY=2025&FNY=Y&CSVF=TT&html.x=66&html.y=26&SeriesCodes=XUDLBK67&UsingCodes=Y&Filter=N&title=XUDLBK67&VPD=Y

このチャートはポンド/ドル 4時間足にベガス・トンネル(144/169EMA)を載せたものであるが、木曜日の英中銀Super Thursdayまでは、ベガス・トンネルを挟んだ赤い枠部分(1.37ミドル~1.39ミドル)での推移を予想。もしSuper Thursdayで特筆すべき発表がなければ、そのレンジ内での動きが週1杯続くと予想している。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話を聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2021年8月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について松崎美子氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN