スペシャル・トレンドレポート

FOMCはタカ派に転換、 「米ドル/円」一段の上昇余地(竹内 のりひろ氏)

2021年7月2日
東京支店のチーフディーラー :「「米ドル/円」は、年初来高値を更新後は、やや上昇一服感がみられるけど、トレンドはもう終わってしまったの?」
NYのシニアディーラー :「確かに111円台に一旦乗せたことで達成感はありますが、ここから積極的に売る理由もないでしょう」
東京支店のチーフディーラー :「日本では、日銀が終わりの見えない金融緩和を続けているわけだし、日米で金融政策の方向性が真逆になってきたからね」
NYのシニアディーラー :「FOMC(注1)がタカ派(注2)に転じ、米国の金融の正常化が見えてきた以上、やはり流れは米ドル買いに変わってしまったのだと思います。再度、年初来高値を試すのではないでしょうか」

(注1)米国で金融政策を話し合う定期的な会合

(注2)金融政策に関して、この先の引き締めを支持すること

この2人の会話をまとめると、日米の金融政策の方向性の違いから、「米ドル/円」は再度、年初来高値を試す可能性が高いという。

昨年春、新型コロナウイルスの感染拡大から、米国ではロックダウン(都市封鎖)が敷かれた。小売店や飲食店は、休業を余儀なくされ、街から人の波が消えた。繁華街は一転、ゴーストタウンのような状態になり、多くの労働者が職を失い路頭に迷った。米国政府は今年の初めまで第5弾の経済対策を打ち、中央銀行であるFRBは大規模な金融緩和にかじを切った。

こうした一連の対策の効果もあり、米経済は底入れ、米国を代表する株価指数であるダウは底値から2倍となった。金融緩和の影響で米国から金利がなくなったことが嫌気され、今年の年初にかけて米ドルは売られ、「米ドル/円」も年明けに102.60円の安値をつけていた。その後は、景気の回復からの金利の上昇を背景に底入れ、3月下旬には高値110.96円までの回復をみせていた。

4月以降は、これまでの年間レンジの上限での横ばい推移が続いていたが、6月24日(木)には年初来高値の111.11円まで上値を伸ばしてきた。現地時間の6月15日(火)~16日(水)にかけて開催されたFOMCで、利上げの前倒しの方針が示されたからだった。以下、「米ドル/円」のこの先を展望してみる。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

FRBのパウエル議長はこれまで、「物価の上昇は一時的、完全雇用を視野に現在の低金利を2023年まで忍耐強く続ける」と明言してきた。米国の労働省から6月10日(木)に発表された5月のCPI(消費者物価指数)は、前年同月比で+5.0%までの急上昇をみせた。この上昇幅は、2008年8月以来の伸びで、コロナワクチンの接種が進み、経済活動の再開が理由だった。

米国では、求人が急拡大する一方で、求職する人が少ないという雇用のミスマッチが浮き彫りとなっている。手厚い失業給付から求職しない、学校の再開の遅れから子供のケアのために職場に戻れない、さらに接客業やサービス業を中心に感染リスクのある仕事などが敬遠されている現状がある。6月8日(火)に発表された4月の雇用動向調査によれば、求人数が928.6万件となり、統計開始以来の高水準を記録した。

半導体不足から、新車の生産が遅れ完成車の生産に遅れが生じている。市場の需要が中古車に集中して、中古車価格の高騰も物価の上昇を後押しする。もはや、物価の上昇は、一時的では片づけられない状況になってきた

チャート:米国の労働省より筆者作成

チャート:米国の労働省より筆者作成

6月15日(火)~16日(水)にかけて開催されたFOMCでは、前回までの会合の見通しに比べ、利上げの前倒しの方針が示された。2023年の利上げを見込むメンバーは前回3月の7人から13人まで増加した。2022年でも同様に、4人から7人に変化した。FOMC後の記者会見でFRBパウエル議長は、「メンバー個人の予想であり、利上げの議論ではない」としたが、見通しの上方修正は明らかだ。

この先、全米で失業給付の打ち切りが9月に迫るなか、夏場にかけて新規雇用が急加速する可能性がある。さらに、上述の半導体不足からの新車の生産の停滞だが、仮に不足が解消された場合でも、新車の生産がもとの軌道に戻り、消費者の手元に届くまでにはタイムラグが発生する。このように考えてみると、物価の上昇は一時的でないと考えられる。

そもそも、現在の緩和的な金融政策が昨年春に発表された前提は、①ロックダウンしか感染拡大を防げない、②コロナワクチンの開発が未知数、③労働市場が壊滅的な状況下では物価は上がらないことだった。ワクチン接種の加速、経済活動の全面再開が視野に入るなかでは、現在の緩和的な政策はもはや過去のものとなるはずだ。

緩和の縮小や利上げが視野に入ると、どうしてもこれまでの政策の巻き戻しが意識されやすい。緩和の縮小に伴い、金融緩和で世界にばらまかれた米ドルは、この先に時間の経過で米ドル買いとなって本国に戻ることになる。

図表:FRBより筆者作成

CFTC(全米先物取引委員会)は、米国内の各取引所にそれぞれの商品先物の建玉の公表を義務付けている。各取引所は、毎週火曜日の取引終了後の建玉数をCFTCに報告する。シカゴ通貨先物市場の建玉残高はこうした経路をたどり、米国時間のその週の金曜の午後に公開されている。

こちらの残高の意味だが、金融機関と相対で大口の取引をするヘッジファンドの取引残高ではない。CFTCの残高は、シカゴの投機筋のなかで、長年生き残った猛者たちの建玉で、ある程度市場の方向性を示唆している。CFTCの残高から、円の建玉の推移を振り返ってみると、「米ドル/円」が年初来安値をつけた1月にはその買い残高は50,520枚まで拡大していた。

その後は、「米ドル/円」の反転上昇に伴い、3月には売り残に転じ、3月23日(火)、売り残は53,525枚まで拡大した。直近の6月22日(火)でも売り残は53,862枚とほぼ変わりなく、投機筋の円売り余力は十分といったところだ。

以上をまとめると、金融引き締めや利上げが前倒し予想される米国の通貨である米ドルには一段の上昇余地がありそうだ。「米ドル/円」も再度上伸、年初来高値を更新してくるとみている。

チャート:CFTCの建玉残高より筆者作成
※残高は軸を反転

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年7月2日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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