スペシャル・トレンドレポート

ECB金融政策理事会に向けての注意事項(松崎 美子氏)

2021年6月2日

早いものでもう6月。英国では、6月21日にロックダウンの完全解除が予定されていたが、インド変異種拡大の影響で、もしかしたら解除が数週間遅れるかもしれない。国民は6月21日を心待ちにしており、この約束を首相が果たせなければ大きな政治危機となるという報道陣もいるようだが、既に16ヶ月近くロックダウンやTierシステムで行動制限を強いられてきた私にとって、数週間の遅れは気にならない。

5月は、再度ロックダウンに突入する国もあれば、英国のように解除が加速した国もあった。日本を除く先進国ではワクチン接種が進んでおり、経済回復期待が独り歩きしている。それもあって、金融政策面では超緩和からの出口戦略の話題が絶えない。

そこで今回のコラムでは、6月の欧州中銀(以下、ECB)について私なりの考えを書いてみようと思う。

ECB金融政策理事会

6月10日(木曜日)にECB金融政策理事会が開催され、ラガルド総裁の記者会見が実施される。マーケットはカナダやニュージーランドに続く緩和からの出口国を探しているが、私はECBからテーパリングの発表があるとは考えていない。

ECB関係者の発言

最初にこの一ヶ月ほどのECB関係者の発言をまとめてみよう。テーパリング開始については消極的な意見が多い中、興味深いのは③フィンランド中銀レーン総裁の発言で、一昨年から続いている金融政策の枠組みについてヒントがあるかもしれない点であろう。

① 5月3日 デギンドス副総裁

ユーロ圏のワクチン接種にスピード感が出てくれば、接種率70%は夏にも達成可能である。そうなれば景気回復に弾みがつくため、緊急措置の対応について協議が可能。

② 5月7日 ラトビア中銀カザークス総裁

6月にPEPPの減速を決定することは可能。PEPP以外にも緩和策としてマイナス金利やTLTRO 3、PSPPなど多数の政策が残っている。

③ 5月10日 フィンランド中銀レーン総裁

長年の鈍い物価の伸びに対応するため、政策を変更し、インフレ目標のオーバーシュートを受け入れるべきだ。

④ 5月10日 レーン主席エコノミスト

景気回復をサポートするためにも、財政政策と金融政策両方が必要とされている。6月のECB理事会で、PEPPについて判断する。購入額の増減両方の可能性がある。

⑤ 5月11日 オランダ中銀ノット総裁

ユーロ圏景気はペントアップ需要が強く、予想以上にインフレが上昇するリスクがある。

⑥ 5月19日 デギンドス副総裁

緩和策の解除は非常に慎重に行なうべき。慎重すぎて失敗するほうが、積極的に行い失敗するよりマシ。

⑦ 5月27日 ドイツ連銀バイトマン総裁

中央銀行の金融政策は、政府の財政政策のサポートをするためにある訳ではないことを、皆が再確認するべきだ。政府が景気をサポートするために過去に例をみないほどの財政支援をしているが、これはあくまで危機時の対応に限られ、この過度のサポートが「新しいノーマル」となるべきではない。

⑧ 5月27日 スペイン中銀デ・コス総裁

現在のインフレ率上昇は、一時的な現象である。

⑨ 5月28日 シュナーベル専務理事

ECBはPEPPのサイズや、緊急措置の解除について、いつか必ず話し合うことになるが、6月はその時期ではない。まだ早すぎる。

⑩ 5月28日 パネッタ専務理事

ユーロ圏のインフレ率が上向きにシフトしている兆候は、ない。現状では、PEPPのペースを縮小することは正当化されないし、規模縮小について話し合うことは、あまりにも早すぎる

私が6月10日にテーパリングを期待していない理由

中央銀行がテーパリングや政策金利の引き上げなどの引き締め策に移行するということは、パンデミックで大きく増えてしまった経済/労働市場の緩みを使い切ることが1つの条件となる。厄介なことに、どの国も緩みのサイズを定期的に公表しておらず、そもそもそれを測る手段の有無についても不明である。

そこでマーケットがたどり着いた結論は、労働市場の緩みは、雇用統計を丁寧に調べるしかないということである。私はその中でも特に失業率と賃金上昇率には拘っている。詳しいことは省略するが、失業率の改善は、就業率との兼ね合いなども見るため、ひたすらに失業率をチェックしていても片手落ちとも言える。

各国の雇用統計を見て感じるのは、ヨーロッパの失業率の高さであろう。パンデミック発覚前からアメリカや英国と比較し、圧倒的に高かった。そして若年層については、目が飛び出るほどの高さである。

ちなみに、最新のアメリカの失業率は6.1%、英国は4.8%。それに比べ、ユーロ圏は8.1%である。社会構造や雇用市場、パンデミック対策、統計内容なども違うので、単純な数字の比較は意味がないことは判っているが、2008年世界的金融危機の直前には7%台まで低下していたユーロ圏失業率を考えると、雇用市場の緩みの解消はまだまだ道半ばであることは間違いない。

金融政策の枠組み変更

フィンランド中銀レーン総裁の発言を見る限り、6月に変更の発表があってもおかしくないだろう。これだけユーロ圏インフレ率が中銀のインフレ目標を越えている時期が続けば、アメリカが導入したような平均インフレ率目標(AIT)をそのままECBも導入する可能性はないとは言えない。

スタッフ予想

6月10日のECB理事会では、3ヵ月に一度のマクロ経済予想「スタッフ予想」が発表される。前回発表された3月とは違いワクチン接種率がかなり進んでいることを考えると、少なくとも今年のGDPとインフレ見通しは上方修正されて当然。問題は、2023年の予想かもしれない。

3月のスタッフ予想を自分でまとめて表にしたが、この時のシナリオでは2023年になってもインフレ率はECBのインフレ目標からはほど遠く、現在の超緩和策の継続が意識されていた。ワクチン接種が進んだからと言って、6月10日の理事会ではせいぜい2021年と22年の数字をいじるくらいで、2023年は1.5%くらいに落ち着くのが関の山のような気がしている。

気になる2023年の失業率予想も、出来れば7%以下の数字を期待したいが、下手すると7.5%を切るのが精一杯かもしれない。

唯一かなりの修正を期待しているのが、10年物国債利回り予想である。この数字はユーロ加盟19ヶ国の長期金利をそれぞれの国別ウェイトで算出したものである。ドイツ国債利回りを見ても、3月のスタッフ予想が発表された3月10日は、-0.313%。執筆時は、-0.167%まで上昇している。そう考えると、この数字はそれなりの上方修正があってしかるべきであろうが、だからと言ってそれがユーロ買いに直結するとは、考えていない。

PEPP購入額について

3月のECB理事会では、第2四半期の間、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)における加盟国の国債購入額の増額を発表した。

声明文では、
「First, the Governing Council will continue to conduct net asset purchases under the pandemic emergency purchase programme (PEPP) with a total envelope of €1,850 billion until at least the end of March 2022 and, in any case, until it judges that the coronavirus crisis phase is over. Based on a joint assessment of financing conditions and the inflation outlook, the Governing Council expects purchases under the PEPP over the next quarter to be conducted at a significantly higher pace than during the first months of this year.

ECB理事会は、引き続きPEPPを実施する。PEPPは、1兆8500億ユーロの枠組みで、少なくとも2022年3月まで、またはパンデミック危機が収束したと判断されるまで継続する。最近の金融環境の状況とインフレ見通しについて意見交換をした結果、理事会は、来期(第2四半期)は、年初の数ヶ月よりもPEPPでの(加盟国の国債)購入ペースを相当大規模に早める(増やす)ことになるという結果となった。」

出典:ECB理事会 声明文(2021年3月)
https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2021/html/ecb.mp210311~35ba71f535.en.html

この決定は、長期金利上昇による資金調達時の金利上昇や、それに伴う金融環境の引き締めに警鐘を鳴らす意味合いが大きかったと思う。わざわざ「a significantly higher pace」というややアグレッシブな単語を引用しているところがその証拠であろう。

一部の銀行では、最近の長期金利上昇を受け、PEPPでの購入ペースの増額を第3四半期も継続ということを6月10日に発表するというレポートを出しているところもあるようだ。

個人的には、PEPPは名前の通り、「緊急措置」であり、ワクチン接種が完了に向かう第3四半期にまで購入額を増やすことは、到底認められるべきではないと考える。

ここからのユーロ

ユーロは選ぶ通貨ペアによって見える景色が変わってくる。その中で私が最も注目しているユーロ通貨ペアは、ユーロ円である。

こちらのチャートは、週足に200週SMAを載せ、そこからの乖離をチャート下段に示したものである。

チャート:筆者作成

最近の値動きを拡大したものを右側に添付したが、黒い丸のハイライトで囲んだ部分に注意して欲しい。過去にこの紫の横線を越えた部分には黄緑でハイライトを入れてみたが、どの時もユーロ円はかなり激しく上昇していることが分かる。

今回もまだ誤差の範囲ではあるが、乖離幅は点線を上に抜けてきた。このまま行けばユーロ円の一段の上昇が期待できそうである。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話を聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2021年6月2日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について松崎美子氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN