スペシャル・トレンドレポート

仮想通貨暴落がrisk offのトリガーか。~ユーロ円の反落に警戒~(西原 宏一氏)

2021年5月26日

1)今年前半のマーケットのテーマを確認

はやいもので、本稿執筆時点(5月22日)で5月も終わりに近づいて来た。

来月6月の終了とともに、今年の半分が終わることになる。

そこで今回は今年のここまでの為替相場のテーマを確認してみようと思う。

現在金融市場のテーマは「ポストコロナ」。

では、ポストコロナとは為替市場で具体的にどういうことがテーマになっていたのかを考察。

■BOCに続きテーパリングに踏み切るところはどこだ?

※BOC=Bank of Canada=カナダ銀行=カナダの中央銀行

※テーパリング=tapering=英語では先細りを意味し、金融では量的緩和政策による資産買い取りを徐々に減少(先細り)させる事。

ポストコロナで注目されているのは、主要国による金融緩和からの脱却。つまり、中央銀行のテーパリングとなる。

このテーパリングにいち早く動いたのがBOC。

BOCがテーパリングにいち早く動いたことで4月下旬からカナダドルは急騰。

そこで次にテーパリングに動く通貨として、4月以降ユーロやポンドが注目され、これら欧州通貨も買われてきた。

■商品市場の活況で利するところはどこだ?

商品市況が続伸しており、為替市場に影響を及ぼしている。

木材相場の上昇がカナダドル買い要因に、鉄鉱石相場の急騰が豪ドル買いをサポートしている。

■ワクチン供給がうまくいっているところはどこだ?

新型コロナウイルス対策の要であるワクチン接種では、英国のワクチン供給が順調に進んでおり、英ポンドの買い要因となっている。

為替市場では、上記3つ材料が交互にテーマとなり、通貨が動いている展開が続いている。また、こうした要因に加え、主要国のロックダウンによる金余りがBitcoinを筆頭とした仮想通貨の急騰を誘引してきたことも挙げられる。

2)木材に続き、仮想通貨が暴落

5月中旬に様々な金融商品で本年のここまでの動きが調整に入り始め、それが加速してきている。

まず、lumber(木材先物市場)。

添付図は木材先物の日足。

今月に入って木材価格が急騰し、「ウッドショック」といわれるほど、暴騰していたlumberだが一気に急落。

一時1,711ドルまで急騰していたが、5月19日に一気に1,327ドルまで暴落。

この木材の急落によりカナダドルの続伸は急停止。

5月21日には、一時1,453ドルまで値を戻しているが、一度相場が崩れているため、当面木材相場は神経質に推移する公算が高くなっており、カナダドル買いのサポート要因の一つが不安定になったといえる。

そしてもうひとつ大きく調整したのが仮想通貨。

5月13日にテスラ創業者で世界2位の大富豪であるイーロン・マスク氏がビットコインによる支払い受け入れを停止したことを明らかにし、Bitcoinは調整を開始していたが、その時点ではまだ大きな値幅はともなっていなかった。

しかし、今週に入ってlumberが大きく値を崩したと同時に、仮想通貨の調整も加速。19日のBitcoinは一時lumberの下落率を上回る30%もの急落。仮想通貨交換取引業種バイナンスがネットワークの混雑を理由にイーサリアムの引き出しを一時停止するなど、複数の主要取引プラットフォームで混乱が生じたこともあり、イーサリアムも大きく値を下げた。

こうしたlumberや仮想通貨の混乱が直接株や為替に影響があるわけではないのだが、何かの市場が大きく崩れると、損失補填のため、他の金融プロダクツで利益確定をする動きになるのはよくあることである。

特に仮想通貨は、世界的なロックダウンによる金余りと相まって資金が仮想通貨に過剰に流れていたこともあり、その調整が他の金融市場へ与える影響が懸念されている。

仮に仮想通貨の暴落がrisk offへと傾斜すれば、今年はどんな時間軸をとっても円安が顕著であったわけだが、このトレンドに変化が起きる可能性があるため、要注意。

3)ECBのテーパリング予想後退からユーロ反落に警戒

前述したようにカナダドルはBOCのテーパリングに加え、木材の急騰もあり、大きく値をあげていたが、lumberの急反落で上昇停止。

ワクチン供給が順調に進んでいるということもあり、ポンドドル、ユーロドルは続伸していたが、19日に失速。

きっかけは19日に発表されたFOMC議事要旨で、当局者らが米景気回復について慎重ながらも楽観的な見方を示し、一部は債券購入規模の縮小について「いずれかの時点で」協議することを否定しない姿勢を示したこと。

つまりカナダの次にテーパリングに踏み切るところの候補に再びFRBが浮上し、ドル高に振れているわけである。

ドルが買われているので、結果、ユーロドル、ポンドドルは失速。

木材の反落により、kiwiを中心とした資源国通貨も反落。

仮想通貨の混乱は、マーケット参加者にriskを抑えようとするスタンスになりがちなため、クロス円も失速という展開になっている。

そうした中での注目はユーロドルとユーロ円。

ユーロドルはECBのテーパリングの噂とワクチン供給が順調に進んでいることもあり、続伸(ユーロ買い)していたが、前述のFOMC議事要旨によるドル高の影響で 失速。

加えて21日には、下記のECBラガルド総裁コメントでユーロの上値がさらに重くなってきている。

=====

ECB緊急購入策、縮小の討議は尚早=ラガルド総裁

[リスボン 21日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は21日、1兆8500億ユーロのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の縮小について討議するのは尚早との考えを示した。

ラガルド総裁はリスボンで開かれたユーロ圏財務相(ユーログループ)会合後の記者会見で「PEPPの枠組みを利用して資金調達環境を良好に維持することにコミットしている。こうした姿勢を少なくとも2022年3月まで継続する」とし、「長期事項に関する討議はまだ極めて尚早で、その必要もない。6月の理事会では、経済全般、およびすべての産業部門の良好な資金調達環境に焦点が置かれる」と述べた。

市場では、6月10日の次回理事会でPEPPの買い入れペース減速について少なくとも討議されるのではないかとの観測が台頭。新型コロナウイルスワクチン接種の進展でユーロ圏でも景気回復が進んでおり、クノット・オランダ中銀総裁ら一部のECB当局者も緊急措置の縮小の開始を示唆し始めている。

出所ロイター

=====

このコメントを受け、ECBのテーパリングへの憶測が後退し、ユーロは対ドル、対ポンド、対円で値をさげている。(ユーロ売り)

添付図はユーロドルの日足。

今年(2021年)のユーロドルは1月6日に1.2349を高値にして続落。そしてちょうど3月31日の節目の日に1.1704のボトムをつけ反発。

その後はECBのテーパリング期待を背景に値をあげ、5月19日に一時1.2245の高値をつけるものの、2月25日の高値である1.2243ドルをこの局面でも越えられず調整の公算が高くなっている。

そして次のチャートはユーロ円の日足。

ユーロ円は1月18日に125.09円という今年の安値に到達して以来、一貫して上昇を演じ。5月19日には133.44円の高値に到達している。

ただその後ラガルト総裁のコメントもあり、ユーロ円の利益確定の動きが続く可能性も高まるため要注意。

特に今年は、「仮想通貨の上昇」と「どの通貨ペアに対しても円の軟調さ」が際立っていたため、仮想通貨の調整と同時に円安の調整が起きる可能性もあるため警戒している。

ECBよりもFRBにテーパリングの可能性が浮上し 上値が重くなってきたユーロドル。

そして今年は仮想通貨の上昇と歩みをあわせるように、どの主要通貨に対しても軟調に推移していきたい日本円だが、仮想通貨の調整と同時にこれまでの円安の調整が起きる可能性も高まるためユーロ円の反落にも警戒である。

西原 宏一氏プロフィール

西原 宏一(にしはら こういち)
株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。

本記事は2021年5月26日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、西原宏一氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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