スペシャル・トレンドレポート

「クロス円」一段高の可能性も、高値波乱に要警戒(竹内 のりひろ氏)

2021年5月14日
東京支店のチーフディーラー :「3月に急上昇した米金利だが、その後は低下、金融市場はゴルディロックス(注)の様相だが、死角はないの?」
NYのシニアディーラー :「カナダドル、英ポンド、豪ドル、NZドルなど多くの通貨が対円で年初来高値を更新してきましたが、株式市場の高値波乱だけは要注意ですね」
東京支店のチーフディーラー :「先週の米国の4月の雇用統計は弱い内容だったが、実態を反映していないと思う」
NYのシニアディーラー :「わたしもそう思います。経済対策や失業保険が充実し過ぎて失業者が求職していないだけで、末端ではすでに雇用のひっ迫が指摘されています」

(注)適温相場。英国の童話、「三匹の熊」に登場するゴルディロックスという少女の名からつけられた。少女が熊の家で飲んだスープは、熱すぎず冷たすぎずちょうど良い温度だった。経済を過熱させることも、冷やすこともない緩やかな経済成長と比較的低い金利状態が続く、極めて理想的な金融環境のこと。

この二人の会話をまとめると、年初来高値を更新してきた多くのクロス円だが、株式市場の高値波乱には要警戒だという。

昨年末から現在まで(本レポートは5月12日(水)午後執筆)の主要通貨の対米ドルでの騰落を計測すると、上昇上位からカナダドル(+4.74%)、英ポンド(+3.32%)、豪ドル(+1.31%)、NZドル(+0.71%)と続いた。一方で、下落通貨でも同様に、円(-5.37%)、スイスフラン(-2.42%)、ユーロ(-0.76%)と続いている。

下落3通貨に共通するのは、中央銀行がマイナス金利の政策を続けているという点だ。市中金利も低く、キャリートレード(注)をする際には、広くファンディング(資金調達)通貨として機能する。ただ、このなかでも円は最弱で、ここに取りあげた円以外の全ての通貨にパフォーマンスで劣り、クロス円ではすべての通貨が年初から上昇していることになる。

(注)金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買い建てることで金利差を狙うトレード。

図表:筆者作成

4月21日(水)、BOC(カナダ中銀)が金融政策を発表、過去最低の0.25%の政策金利を据え置く一方で、量的緩和である週間の国債買い入れの額を40億カナダドルから30億カナダドルへの縮小を発表した。俗にいうテーパリングで、量的緩和の縮小を決定した。コロナからの出口がみえてきたということで、主要国では一番早く政策変更にかじを切った。

同時に発表した声明文のなかで、「スラック(要は経済の需要と供給のバランス)の均衡は2022年になる」として、従来の見解である2023年から前倒した。あくまで、今後の経済状態次第となるが、これにより、2022年の利上げが視野に入ってきた。

BOCは前回の会合で、ややタカ派の声明を発表していて、今回のテーパリングを予想する声は多かった。ただ、主要国で一番先にテーパリングを決定したインパクトは大きく、政策変更を発表した当日以降、主要通貨に対してカナダドルは大きく上昇した。「カナダドル/円」では、当日の85円台のミドル付近から5月に入り90円台を回復と上昇の勢いが止まらず、一段高の様相すらある。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
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コロナ感染が拡大し、ジョンソン首相まで新型コロナに感染したのが英国だ。度重なるロックダウン(都市封鎖)から、経済が大きく委縮したことで、中央銀行であるBOE(イングランド銀行)は、今年の年初にかけてマイナス金利の採用を検討していた。

ただ、足元では、コロナワクチンの接種が進み、オックスフォード大学が運営するサイト、“Our World in Data”によれば、5月9日(日)時点で、1回以上接種を受けた成人の割合は52.25%に達する。先進国のなかでは、先頭を走り、経済の再開が視野に入ってきた。

5月10日(月)、英国政府から、ここまでのコロナ規制に関して17日(月)からの段階的な緩和方針が示された。パブなどの屋内営業を皮切りに、映画館や博物館も営業再開が順次始まる。BOEのマイナス金利の採用の可能性が遠ざかり、英ポンドには見直し買いが集まる。

2016年6月のEU離脱を問う国民投票で、まさかのEU離脱にかじを切り、その後も離脱のプロセスがみえず、英ポンドは長期低迷してきた。経済再開という久々に明るいニュースから、「英ポンド/円」も5月10日(月)には年初来高値154.03円を示現、一段高もありそうだ。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

今、こうしたコロナ後の金融緩和の縮小やコロナワクチンの接種が進む地域の通貨が選好されている。さらに、オセアニアに目を転じてみると、コロナ後の金融緩和が行き過ぎて、不動産価格の高騰が目立ち始めている。金融緩和からの副作用であることは明白で、NZなどでは、直近1年間の不動産の上昇率が20%を超え、バブルの様相を強める。

NZなどでは、政府が不動産の高騰を危惧し、年明けから融資規制を導入、中央銀行であるRBNZ(NZ準備銀)に対し、今後の金融政策の決定に不動産市場の動向を加味する様にとの通達を出している。豪州、NZ共に先進国のなかでは、比較的コロナ感染者も少なく、資源国通貨の一角でもあり、一次産品の価格上昇の追い風を受ける。

鉄鉱石価格は、昨年春の2倍以上に高騰していて、豪州の輸出採算の改善に寄与する。「豪ドル/円」、「NZドル/円」もここまで年初来高値を更新、一段高の様相を帯びる。

こうした主要通貨の動きのなかで、最弱となっているのは円の存在だ。日本のワクチン接種率は、5月10日(月)時点でわずかに2.77%にとどまり、新興国どころか、アフリカの小国ジンバブエの3.54%にも劣る。コロナ後の正常化が視野に入る国の通貨に対して完全に後塵を拝し、クロス円の上昇というのは極めてイメージしやすい。

以上をまとめると、通貨の強弱、カナダドル>英ポンド>豪ドル=NZドル>ユーロ=スイスフラン>円という構図は当面変わらないだろう。要注意なのは、経済の過熱からの高値圏で推移する世界の株価の大幅調整だ。リスク回避の局面では、クロス円は一番先に巻き戻しの影響を受ける。あくまでサブシナリオだが、念のため注意しておきたい。

チャート:筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年5月14日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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