スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」、日米金利差の再拡大から 再上昇へカウントダウン(竹内 のりひろ氏)

2021年4月9日
東京支店のチーフディーラー :「米金利の上昇一服から、「米ドル/円」は、先週の高値110.96円で一旦天井をつけてしまったかな?」
NYのシニアディーラー :「やはり、米金利の反転低下の影響は大きいですね。金利のトピックはこのところ、当地でももちきりです」
東京支店のチーフディーラー :「日本からみていると、細部がみえてこない。その米金利だが、いずれまた反転上昇にみえるけど…」
NYのシニアディーラー :「そうですね。米景気の回復基調は揺るぎないでしょうから、いずれ上昇に転じるでしょうが、一旦は調整局面かもしれません」

この二人の会話をまとめると、米金利の上昇を背景とした「米ドル/円」の買いは一旦調整入りらしい(後述)。

現地時間の3月16日(火)~17日(水)の日程で開催されたFOMC(注)では、事実上のゼロ金利政策を今後3年は続ける方針を示し、市場の金融緩和の縮小観測を退けた。会合後に記者会見したFRBパウエル議長は、「景気の回復は想定より早い。ワクチンの接種や経済刺激策が奏功している」と景気の持ち直しに自信をみせた。

(注)米国で今後の金融政策を話し合う会合

米国では、コロナ後では第5弾となる1.9兆米ドルの経済対策が議会を通過、コロナワクチンの接種も急速に進んでいて、経済の全面再開が視野に入る。バイデン大統領は、その後もインフラ投資計画を提示するなど、経済への刺激策は十分に出そろってきた。こうしたことから、金融市場は将来の景気回復、さらに経済の過熱を織り込み、年初より米金利が急上昇している。

為替市場に目を戻すと、米国の低金利や量的緩和の長期化を背景とした昨年からの米ドル売りが続き、年明けの1月6日(水)、「米ドル/円」は年初来安値の102.60円まで下落した。ただ、その後は、上述のような背景もあり、「米ドル/円」は一本調子で上昇基調をたどり、3月31日(水)には、年初来高値の110.96円まで上りつめた。

この米ドル高の動きだが、この先も続くのだろうか? 高値示現後の「米ドル/円」だが、本レポート執筆時点(4月7日(水)午後)では反落となり、109円台での推移が続いている。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

4月1日(木)に米国で発表となった3月ISM製造業景気指数は、64.7となり市場予想を大きく上回ったばかりか、1983年12月以来、約37年ぶりの高水準を記録した。このISM製造業景気指数だが、全米約350社に聞き取り調査をして、その景況感をまとめたもので、米国景気の代理変数ともいわれている。好不況の分かれ目が50となり、数字が大きいほど、この先の米景気が強いと読める。

米国では昨年春、新型コロナウイルスの感染拡大から、多くの商店やレストランが休業を余儀なくされ、多くの労働者がレイオフ(一時解雇)となり、失業者があふれた。こうしたことから、昨年4月には失業率は、14.7%と目を疑うような水準まで上昇していた。その後は低金利政策や経済対策の効果もあり雇用は順調に回復、4月2日(金)に発表された3月の雇用統計では、失業率はコロナ後の最低水準である6.0%まで低下した。

景気の動向を敏感に反映するとされるNFP(非農業部門雇用者数)も91.6万人増となり、順調な雇用の回復を裏付ける。ただ、こうした急速な景気の回復が確認できたにもかかわらず、その後、米金利は低下に転じている。こうした好結果をすでに織り込むかたちで、金利は上昇してきたわけで、ある意味、材料出尽くしとなったわけだ。

「米ドル/円」も結局、3月末の高値を超えることができず、109円台への反落となり、同様に経済指標の好結果を織り込んでいたことになる。

チャート:米供給管理協会より筆者作成

チャート:米国の労働省より筆者作成

チャート:米国の労働省より筆者作成

米金利の上昇に伴い、連れ高となってきた「米ドル/円」だが、その水準は、日米の10年国債金利差の動きとも非常に強い相関が存在する。足元では、米金利の頭打ちから金利差の拡大は一巡していて、「米ドル/円」の頭を重くする。そもそもここまでの米金利の上昇が急であったわけで、単なるスピード調整との認識だ。

バイデン大統領は、7月の独立記念日までに、希望する全ての成人にコロナワクチンの接種できるように段取りをつける。獲得免疫が視野に入ることで、経済の全面再開がすぐそこに迫る。商店やレストランの再オープンは直ぐそこで、航空需要も遠からずに戻る。この先は、雇用回復どころか景気の過熱まで意識され、米金利は再度上昇に転じる可能性が極めて高い。

日米金利差がいずれ再拡大に転じることで、「米ドル/円」の再上昇が目前に迫る。

チャート:筆者作成

CFTC(米商品先物取引委員会)は、各取引所に週に1度の建玉の残高の開示を求める。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の通貨先物市場での円の建玉は、昨年からのドル安のトレンドもあり、年初の1月12日(火)には、50,520枚の買い残まで増加していた。

その後は、「米ドル/円」の上昇から、買い残は減少に転じ、3月16日(火)には売り残に転じ、直近では売り残は59,481枚まで拡大する。以下のチャートをご覧いただければ明々白々だが、建玉の残高はトレンドを形成する。ただ、この残高には、国際金融市場で大きな資金を動かすヘッジファンドの建玉は、反映されていない。

残高の推移は、シカゴで長年生き残った地場の猛者たちの戦果の縮図である。筆者は特にこの増減を強く意識して日々トレードにはげむほど、この建玉の推移を重視している。今回の「米ドル/円」の上昇局面で、円が売り残に転じた意味は大きく、「米ドル/円」は、調整一巡後は、再度上昇に転じる可能性が高い。

以上をまとめると、ここまでの米金利の急上昇が一巡したことで、「米ドル/円」の上昇も一旦小休止するとみる。ただ、夏場に向けて、米国では経済活動のフルの再開が目の前に迫り、景気回復どころか経済が過熱に向かうかもしれない。米金利の上昇は半ば必然で、日米金利差も拡大する可能性が高い。「米ドル/円」も調整後は再上昇に向け、視界は良好と判断出来そうだ。

チャート:CFTCのデータより筆者作成
※建玉の残高は軸を反転

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年4月9日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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