スコットランド自治政府総選挙は5月であり、コラム記事にするにはまだ早すぎるかもしれない。しかし、スコットランドではスタージョン自治政府首相辞任という事態が起きないとも限らず、あまり安心しすぎてもいけないだろう。
今回はスコットランド政局でいったい何が起きているのか?それがどうスコットランド独立に影響するのか、それについて書いてみたいと思う。
サモンド前自治政府首相のプロフィール
本題に入る前に、スタージョン自治政府首相(以下、スタージョン首相)の前任であるサモンド前自治政府首相のプロフィールを、簡単に載せておこう。
名前:アレックス・サモンド
2004年9月 スコットランド国民党(以下、SNP)の党首に就任
2007年5月 スコットランド自治政府首相に就任
2014年9月18日 スコットランド独立の住民投票実施
独立が否決された責任を取り、翌日(9月19日)辞任
その後を継いだのが、スタージョン新自治政府首相である。
サモンド氏、セクハラ疑惑問題
そもそも事の始まりは、2018年まで遡る。同年8月スコットランド自治政府は、サモンド前首相時代に2人が同氏によりセクハラを受けたという通報を受け取り、調査をスタート。その時、サモンド氏は容疑を否定し、その後の裁判で無罪判決となった。
しかし、#Me Tooの動きが台頭してきたことなどもあり、スタージョン自治政府首相は、2人のセクハラ疑惑よりもう少し過去に遡り、調査再開を決定。これに対し、サモンド氏はこの調査そのものが公平性に欠けていたとして司法審査を求め、2019年1月に自治政府は手続きに誤りがあったことを認め、サモンド氏は無罪釈放となった。そして、この裁判にかかった費用:50万ポンドは政府が支払うことにもなった。
その後の動き
無罪釈放後、問題の矛先は、スタージョン首相とスコットランド政府そのものに向かった。
と言うのも、サモンド氏は自身の名誉を傷つけるために政府と首相が動き、首相は調査過程で嘘もついていたと主張し、自分を陥れた関係者の名前を挙げているが、そこにはスタージョン首相の夫でSNP党幹部のピーター・マレル氏の名前もあった。
裁判所は、1番最初の2人のセクハラ容疑に関する自治政府の調査方法や、スタージョン首相の動きについて調べ始めた。その中でも特に、スタージョン首相の調査のやり方や指示が議員権限を越えたものでないかについて念入りに調べ始めている。
サモンド氏はその後、政府とスタージョン首相に対し、今回のセクハラ容疑は事実無根であり、同氏を陥れるためのやらせであるとし、2つの書類を提出。そこには、同氏が集めた、やらせ証拠が載っているらしいが、公開された書類からは、500文字以上の部分が削除されていたことも判明している。
https://www.parliament.scot/HarassmentComplaintsCommittee/General%20documents/Alex_Salmond_Final_Submission.pdf
https://www.parliament.scot/HarassmentComplaintsCommittee/General%20documents/Alex_Salmond_Submission_(Judicial_Review).pdf
総選挙前の大混乱
この問題はまだ終っておらず、今後は2つの点に絞って調査が継続するようだ。
1つ目は、最初の「2人に対するセクハラ容疑」の調査において、スタージョン首相が議員権限を越えた調査を指示していたのか?
もししていたのであれば、同首相が辞任に追い込まれる可能性が出てくる。特に5月に自治政府総選挙を控えているだけに、スコットランド独立の動きにも、かげりが出てくることは間違いない。
後ほど世論調査結果をご紹介するが、このスタージョン/サモンド問題を巡りスタージョン首相の支持率が若干低下、独立支持率も小幅ではあるものの低下している。そのため、仮にスタージョン首相の過去の調査は議員権限を越えていないと判断された場合でも、今回のSNP党内部の争いを「なかったこと」には出来ないだろう。
2つ目は、スコットランド政府はサモンド氏のセクハラ疑惑を公正に扱ったのか?という点であろう。一部には陰謀説も出ているが、総選挙を控えているだけに、SNP党としては事を荒立てたくないことは間違いない。
総選挙に向けて
スタージョン首相率いるスコットランド政府が、信用に値する政府であるか?総選挙ではここを有権者は判断するであろう。スコットランド国民はパンデミック時の同首相の決定に満足しており、支持率も下がったとは言え依然として高い。もしパンデミックがなければ、同首相はとっくに辞任していたかもしれないので、彼女はパンデミックに救われたとも言える。
そこで、最近の世論調査結果を参考に、独立気運の変化やスタージョン首相の人気についてチェックしてみようと思う。
まず、最初は独立気運。
Ipsos MORI スコットランド世論調査結果
https://www.ipsos.com/ipsos-mori/en-uk/support-scottish-independence-falls-back
https://twitter.com/IpsosMORIScot/status/1364893399564881921
独立賛成 52% (昨年11月と比較して、-4%)
独立反対 48% (昨年11月と比較して、+4%)

出典:Ipsos MORIスコットランド公式Twitter
https://twitter.com/IpsosMORIScot/status/1364893399564881921
Survation世論調査結果
https://twitter.com/Survation/status/1365977146183843844/photo/1
最初の数字は、今回
( )内は前回1月中旬時調査結果との差
独立賛成 50% (-1%)
独立反対 50% (+1%)

出典:Survation公式Twitter
https://twitter.com/Survation/status/1365977146183843844/photo/1
次は、スタージョン首相の支持率。
Ipsos MORI スコットランド世論調査結果
https://twitter.com/IpsosMORIScot/status/1364894377462628353
https://twitter.com/IpsosMORIScot/status/1364894377462628353/photo/2
最初の数字が2020年10月調査時。→の後が、今回の調査結果。
①スタージョン自治政府首相
満足 72% → 64%
わからない 4% → 4%
不満 24% → 32%
②ボリス・ジョンソン首相
満足 19% → 26%
わからない 5% → 5%
不満 76% → 69%
③スターマー英労働党党首
満足 44% → 38%
わからない 29% → 27%
不満 27% → 35%

2020年10月時よりも満足度は低下しているものの、スタージョン首相には未だに64%の支持がある。
最後は、その他の調査結果。
Ipsos MORI スコットランド世論調査結果
https://www.ipsos.com/ipsos-mori/en-uk/support-scottish-independence-falls-back
①5月の総選挙では、どの党に投票するか?
SNP党 52%
スコットランド保守党 23%
スコットランド労働党 15%
②総選挙での重要項目
スコットランド独立 44%
教育 32%
医療 25%
コロナ感染 20%
③サモンド氏を巡る一連の疑惑事件により
SNP党のことをあまり好きでなくなった 36%
全く関係ない。未だにSNP党が好きである 58%
ここからのポンド
先週2月25日に実施された米7年物国債入札結果が良くないことが発端となり、米長期金利が急上昇。これをきっかけに投資家の益出しが加速し、先週は米株式指数の下落や、為替ではファンディング通貨で売られていたユーロの買い戻し/新興国通貨の売りなどが続いた。
https://www.treasurydirect.gov/instit/annceresult/press/preanre/2021/R_20210225_3.pdf
ポンドも調整は避けられず、最初の目標としていた1.42台達成後、下落を余儀なくされている。3月に入り、期末・財政年度末などのファンダメンタルズ無視のフローが予想されるため、益出し目的の売りは執拗に入ってくることが予想される。ただし、それらの売りが一巡すれば、私は、ポンドはまだ買いで見ている。
これはポンド実効レートのチャートであるが、2月24日に直近高値:82.0316に限りなく近い81.9641をつけて、やや下落してきた。3月中の益出しが加速した場合、青い点線で描いた三角持ちあいの上限辺りまでの下落があってもおかしくないだろう。
しかし、一旦調整が終れば、水色の線を引いた87付近までの上昇を期待している。

松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。