あけましておめでとうございます。本年もコラムを通じて、ヨーロッパからのニュースをお伝えしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
まだまだ未解決の部分が残ったが、Brexit交渉がひとまず合意に至った。サービス面での交渉は今後も継続するが、今年は久しぶりに「Brexit」という単語から解放され、それ以外のイベントに集中できるようになる。
今年のヨーロッパにおける2大イベントは、5月のスコットランド自治政府選挙と、9月のドイツ連邦議会選挙であることは、疑いの余地がない。
今回のコラムでは、今年引退が決まったメルケル首相の後任人事について書いてみたい。
どうして、今 党首選なのか?
2018年12月にCDU(キリスト教民主同盟)党首を辞任したメルケル首相。その直後にCDU党の党首選が実施され、アンネグレート・クランプ・カレンバウァー(以下、AKK)元幹事長が当選した。メルケル首相が最も強く支持した人であり、メルケル路線継承は間違いなしと言われていた。
AKK氏が党首になれば、長期に渡るメルケル首相率いるCDU党に新しい風を取り入れると思われたが、結果は全く違っており、同党の支持者が緑の党に移る動きが見られ始めた。そして、2019年に実施された欧州議会選挙で、AKK氏が言論の自由を制限する内容の発言をしたことが致命傷となり、メルケル首相は、AKK氏は将来のドイツの首相にはふさわしくないと判断。
2020年2月にAKK氏は、「次期総選挙では首相の座を争う気はなく、今年の夏にCDU党首の座も引き渡す。」と発表。
CUD党の党首選
上記のAKK氏の発言を受け、2020年4月に予定されていたCDU党首選は、パンデミックの影響で12月党大会まで延期された。しかし、その党大会もさらに延期となり、今年1月15/16日にバーチャル党大会として実施が決定された。この大会で、新党首選出の投票が実施され、結果は1月22日に発表されるようだ。
現時点では、3名が立候補している。
党首選立候補者
早速、3名の立候補者を簡単に紹介しよう。
① Friedrich Merz(フリードリヒ メルツ)
かつてのメルケル首相の宿敵。2018年にAKK氏が党首に選出された党首選でも、最後まで残った人物。
以前は、CDU党の国会議員団長の地位まで上り詰め、次期党首と揶揄された時期もあったが、10数年前に政界から退いた。経済専門家としての評価は高く、政界からの引退後は米ブラックロックのドイツ支部顧問に就任。
メルツ氏はメルケル首相率いるCDU党はあまりにも中道左派寄りであることを攻撃している。そのため、この人が党首となればCDU党は右寄りとなる可能性高く、AfD党(ドイツのための選択肢)の票を奪いたいとも公言している。
2002年にメルケル首相の手で院内総務から引き摺り下ろされたので、メルケル首相に対する恨みが強いといわれている。院内総務の経験は2年間だけであり、3人の候補者の中では、最も政治的経験年数が少ない。
自身を、「中級よりやや上のクラスに属している」と語り、年収はおおよそ100万ユーロであることを公表。
② Armin Laschet(アルミン ラシェット)
ノルトライン・ヴェストファーレン州の首相。
現時点では、①③候補よりも支持率が低いと言われている。しかし、後ほど紹介するが、現在ドイツの政治家で人気No.1のシュパーン保健相とペアを組み、党首選のキャンペーンを行っているため、まだまだどうなるかはわからない。
ラシェット氏はキャンペーンで、気候変動と通商部門ではアメリカとより密接な関係を築くことを主張している。EUについては、決定スピードを早めるためにも、全会一致での決定を多数決に変更することを要求している。
一緒にキャンペーンをしているシュパーン保健相は、反メルケル派として知られているが、ラシェット氏も同様であるかは、不明。(一緒にキャンペーンをやっているからには、同じ考えだとは思うが・・・)
③ Norbert Roettgen(ノルベルト レットゲン)
政府外務委員会委員長、外交政策のエキスパート。
コロナ対策について、現政権を批判している。
もし自身が党首となり、9月の連邦議会選挙に向けて、CDU/CSU党としての統一首相候補を選出する場合には、規模の大きいCDU党からの立候補者に絞らず、CSU党からの候補者とも柔軟に話し合いたいとしている。
シュパーン(Jens Spahn)人気
簡単にシュパーン氏について紹介したい。
38歳の保健相。同性愛者であるが、同時にカソリック教徒でもある。はっきり物を言う人物で、党内でも人気があり、メルケル批判派の旗手。移民/難民の受け入れには、猛反対。トランプ大統領の大ファン。
メルケル首相から閣僚に任命されたにもかかわらず、メルケル政治が中道左派寄りであることを、公に攻撃している。
パンデミック 拡大後、シュパーン氏は保健相として活躍をし、有権者の間で人気がうなぎ登りになっている。そのため、CDU党の議員の中には、ラシェット氏ではなく、シュパーン氏の立候補を推す意見がかなり多いとも言われている。
2020年12月27日に実施された独Bild紙のKantar社による世論調査では、有権者による支持率で、なんとメルケル首相を追い抜いた!と報道された。
https://www.bild.de/bild-plus/politik/inland/politik-inland/erste-umfrage-fuer-2021-schauen-sie-mal-wer-jetzt-beliebter-als-merkel-ist-74627552,view=conversionToLogin.bild.html
実際の支持率は、以下の通りとなっており、( )内の数字は、1年前と比較した変化。
シュパーン氏 52% (+28%)
メルケル首相 51% (+11%)
非常に驚きの結果である。
ここからのユーロ
どの候補が党首となっても、メルケル首相が9月末に引退することに変わりない。冷静に考えると、これはユーロにとってネガティブな材料となるが、マーケットは既にこれを織り込んでいるようだ。
私は、今年は少なくとも上半期は、ユーロ高/ドル安を予想しているが、ユーロ実効レートを見ると、心穏やかではない。
これは、1999年ユーロ誕生以来のユーロ実効レートであるが、現在はかなり「ユーロ高ゾーン」に突入しており、過去の口先介入レベルを悉く突き破り上昇している。

出典: 欧州中銀
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html
ユーロは政治的な通貨であり、EU基本条約でもユーロ加盟国の財務相が為替政策について、一般的な指針を策定することが許されている。つまり、加盟各国政府の関与が許されているとも受け取れる。
そのため、ここまでユーロ高となっている今、いつどのような発言が出てくるか、非常に神経質にならざるを得ない。
ひとまず今年の高値ターゲットとして、1.26台を想定している。

松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。
本記事は2021年1月6日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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