スペシャル・トレンドレポート

イタリア政局動向(松崎 美子氏)

2021年2月3日

今年に入りユーロ加盟19ヶ国のうち、オランダとイタリアが無政府状態(暫定政権が政策運営中)となっている。オランダはもともと4年に一度の総選挙が3月に予定されているので、あと少しの辛抱であるが、イタリアの場合はそうは行かない。

日本でもぼちぼちイタリアの政治危機について報道されているが、今回のコラムでまとめてみたいと思う。

事の発端

イタリアで最後の総選挙が実施されたのが、2018年3月であった。そこでは、ポピュリズム政党の5つ星運動と、極右・反移民政党の同盟が連立を組むことになったが、政権運営の経験がはじめての政党同士であり、考え方にかなり隔たりがあるため、なにかのきっかけで連立解消もあるだろうというのが、大方の見方であった。

そして、2019年8月7日、議会が夏休みに入る前日に、フランスとイタリアを結ぶ高速鉄道計画に関する採決が行われ、連立のひとつである5つ星運動が工事による環境保護への影響を懸念して反対票を投じた。これに対し、同盟は、大型工事による雇用機会創出を重視し、賛成票を投じた。この意見の食い違いが発端となり、同盟は連立を脱退。

約3週間後に大統領の仲介で、5つ星運動と伝統的2大政党の1つで中道左派の民主党(以下、PD党)が中心となり、イタリア・ビバ党と独立系などの議員に声をかけ、328議席の連立が誕生。下院総議席数:630であるため、過半数を上回る安定与党としてのスタートを切った。

EU復興基金の使用目的で食い違い

昨年決定したパンデミック支援を目的としたEU復興基金の使用方法を、EU加盟各国はEUに提出する義務がある。その決定を巡り、与党に参加しているイタリア・ビバ党が待ったをかけた。

この党は、元PD党の議員が集まって作った新党で、党首はレンツィ元首相。

同党首はコンテ首相が発表した復興基金の使い道について不満の意を表明。とうとう内閣不信任案決議の採決実施という運びとなった。

内閣不信任案決議

採決は、1月18日に下院で、19日に上院で実施された。イタリアは他の国と違い、上院はお飾りではなく、下院とほぼ同じ権限を持つだけに、両方の採決結果にマーケットの注目が集まった。

結果は、以下の通りである。

①1月18日 下院採決

内閣支持 321
内閣府支持 259

下院 630議席
絶対過半数 316議席達成

②1月19日 上院採決

内閣支持 156
内閣府支持 140

上院 321議席
絶対過半数 161議席達成できず

イタリア・ビバ党、連立から離脱

コンテ首相の復興基金使用方法に反対したレンツィさん率いるイタリア・ビバ党は下院連立から離脱。

連立与党328議席からイタリア・ビバ党の30議席がなくなり298議席へ。過半数316を割ってしまい、マイノリティー政府となった。

そのため、イタリア政府はマイノリティー政権で次の総選挙まで生き延びるか?連立の組みなおしをするかなどの選択を迫られた。

コンテ首相辞任

1月26日、コンテ首相が辞表を提出した。どうしてこのタイミングでの辞任となったかについては、この2日後に司法報告書に対する議会採決が予定されていた。もしここで否決されれば、コンテ氏は責任を取り辞めるべきだという意見が優勢となり、同氏は負けを認める前に自主的に辞任という運びとなった。

ここからのシナリオ

いろいろな意見が出ているが、私が考えるメインシナリオ4つを紹介したい。

シナリオ1:コンテ首相再指名

今までマッタレーラ大統領は、2度にわたりコンテさんを首相に指名している。今回もまた、コンテさんを指名し、第3次コンテ内閣の誕生となるという予想。今までの連立相手である5つ星運動とPD党は第3次コンテ内閣に参加すると表明している。しかしこれでは、過半数に届かないため、数合わせが必要となる。

アクロバット的なアイデアであるが、ベルルスコーニさん率いるフォルツァ・イタリアに声をかける可能性を指摘する政治専門家が出てきているほどだ。ただし、その場合、5つ星運動が反対に廻るだろう。

シナリオ2:コンテさん以外の首相

もしコンテさんが組閣に失敗した場合、或いは最初からコンテさん以外の他の議員を指名し、その人が政権樹立に動くシナリオ。

既に3名の候補者が出ているが、全てPD党となっている。

まず、ニコラ ジンガレッティ (PD党の党首)
次が、前文化相のダリオ・フランチェスキーニ
最後が、前防衛庁長官のロレンゾ・グエリーニ

シナリオ3:テクノクラート内閣

3つ目のシナリオは、イタリアお得意のテクノクラート内閣。この場合は、欧州懐疑派の党は完全に除外されるはず。

このシナリオの問題点は、どの党を中心に組閣するかであろう。伝統的な(昔からの)政党をメインにする場合は、フォルツァ・イタリアの名前が上がる。そうなれば、同党の姉妹党という位置づけであった同盟が一緒に政策運営と言いたいところであるが、欧州懐疑派であるため、組閣には参加できない。そうなると、数合わせの意味から 5つ星運動とフォルツァ・イタリアが組んで与党となるのが手っ取り早いが、5つ星運動は伝統的な政党との連立は受け入れない方針を、今のところ示している。

このシナリオでは、首相候補として、ドラギ前ECB総裁の名前が挙がっている。

シナリオ4:解散総選挙

私の中で最も起こり得ないシナリオが、解散総選挙である。理由は4つある。

1つ目は、パンデミックで時間が足りない今、政治に時間を使うことを有権者は絶対に支持しないこと。7割の国民がパンデミック対策を優先し、解散総選挙などに時間を割いて欲しくないと考えているという世論調査結果が出ている。

2つ目は、大統領任期切れの6ヶ月前には解散総選挙が法律的に不可能であるため(憲法88条)、もしこのシナリオを選ぶと、今年8月3日までに総選挙を実施しなければいけなくなる。

3つ目は、昨年実施された国民投票では政府の歳出削減目的で、「小さな内閣」を目指すことに決定した。その結果、現在の945人の議員数が、600人にまで減る。そうなると、落選する議員が増えるため、政治家は誰もこのシナリオを望まないだろう。

最後の4つ目は、万が一解散総選挙となれば、現在最も支持率が高い欧州懐疑派: 同盟が勝ち、サルビーニ首相誕生などと言うことにもなりかねない。

実際、連立から抜けたイタリア・ビバ党のレンツィ党首の本音としても、解散総選挙を実施することは得策ではないと考えているようだ。

ここからのユーロ

この記事が読者の皆様の目に触れるころには、新政権誕生となっているかもしれない。というのは、マッタレーラ大統領は下院議長に対し、2月2日夜までに首相となるリーダーを選出し、組閣を行なうよう要請したからである。

実際にそれだけ短期間で組閣が可能かはわからないが、パンデミックによる支援金の使用方法を議会で決定しなければ、既に決定済みの他の加盟国が、支援金を受け取れないというジレンマが生じる。

さて、通貨に目を戻すと、このようなイタリアやオランダでの政治危機や、最近のユーロ高への口先介入などが重なっている割に、ユーロは意外とこじっかりした動きとなっている。

出典:欧州中銀(ECB)
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

これは欧州中銀(ECB)が毎日公開しているユーロ実効レートであるが、過去の動きを見ると、サポートを抜けると一旦下落するものの、最終的にまた戻り、そこから大きく上昇するパターンが続いている。今回の唯一の違いは、実効レートベースではユーロ誕生以降最も「ユーロ高」となっている点である。

果たしてこのユーロ高がどの程度ECB各理事の頭を悩ませているのかは一旦置いておき、今ヨーロッパで起きていることに目を向けると、やはりワクチン接種が思うように進んでいない「ツケ」をどういう形で払わされるかが非常に気になる。これ以上遅れると、米英との経済回復地合いの比較で、欧州は大きく遅れを取ることにもなろう。

ひとまず目先の動きとしては、ネガティブ要因が多いユーロが、そこそこ堅調に推移しているのは、ポンド/ドルの上昇にユーロ/ドルが釣られていることが大きいように感じている。

もう1つは、ドルの動きだ。いったいドルは買いなのか?売りなのか?誰も正確に答えられないだろう。

私がまだロンドンの銀行で働いていた当時に習ったことは、ユーロ/ドルとドル/スイスフランは反対に動くので、どちらか片方がサポート/レジスタンスを抜ければ、もう片方も反対方向に抜ける確率が意外と高いということであった。

チャート:筆者作成

果たしてその時に教わったことが現在のマーケットでも通用するかは定かでないが、こちらのユーロ/ドルとドル/スイスフラン日足チャートに、それぞれのサポートとレジスタンスを入れてみた。

ドル/スイスは、赤いレジスタンスを抜け、ピンクのところでもぞもぞしているところだ。ユーロ/ドルは黄緑のサポートが抜けそうで抜けていない。

もしユーロ/ドルの黄緑と、ドル/スイスのピンク両方が抜ければ、ドル高の動きとなるのか?そこに注意しようと思っている。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2021年2月3日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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