1)2021年のトップリスク
例年、1月はその年のトップリスクが取り上げられ注目を集める。
例えば、2020年はトップに「トランプ大統領の落選」を挙げていたアナリストがいたが、それが現実になったことに驚かされた。
そこで今回のレポートでは、まず例年マーケットで話題になるユーラシア・グループの2021年のトップリスクを紹介しようと思う。
今年、イアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ社長)が発表したリスクの中で興味深いのは、トップに上げられたのがCovid-19ではなく、バイデン大統領になってからの米国の分断。
米大統領戦前後に米国ロスアンジェルスの友人が、家族の安全を守るために銃の購入を考えていると言っていたが、現在の米国ではどちらの政党が勝とうが、米国の分断は避けられないことが、新型コロナよりも危険なリスクとなっているようだ。
確かに今回の大統領選において、多くの共和党サポーターはバイデン陣営が不正を働いたと考えているようで、それが米国の分断を鮮明にしている。
その米国の分断が2021年のリスクのトップにあげられており、それが金融市場を大きく揺るがす事になるのではないか?と個人的にも懸念している。
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2021年のトップリスク(ユーラシア・グループ)
1.米国の分断
トランプ大統領の選挙結果受け入れ拒否が米国の深い分断を浮き彫りにしている。Covid-19ワクチン接種がスムーズに進み、パンデミックが抑制されれば、バイデン氏が共和党からも一定の政治的評価を得る可能性があるものの、厳しい課題が続く。
2.コロナ問題長期化
Covid-19ワクチンは世界が21年に正常化に向かうことに寄与するが、「各国がワクチン接種のスケジュール達成に苦しみ、パンデミックが高水準の公的債務や離職者、信頼の喪失という負の遺産を残す」とユーラシアは予想している。
3.グリーン化
米国はバイデン政権下で炭素排出の実質ゼロ目標など気候変動のイニシアチブに再び参加しようとしているが、「より野心的な気候変動対策による企業や投資家のコスト」と各国・地域の計画協調を「過大評価することによるリスク」があるとユーラシアは指摘した。中国や欧州連合(EU)、英国、日本、韓国、カナダも国内・地域経済をより環境に優しいものにすると表明している。
4.米中緊張関係の波及
米中間の経済関係は今年、これまでほど対立的ではなくなるだろうが、米国から同盟国へのストレス波及や他国へのワクチン配布での競争、グリーンテクノロジーに関する競合により、緊張が再燃する可能性がある。
5.データ競争
国境を越えたデジタル情報の流れが鈍るに伴い米中間の競争が最重要となり、データに依存する企業の重しになるだろう。中国政府は恐らく国外技術への依存を減らし続け、米国は国民の個人情報を安全に保つ取り組みを進める。
6.サイバーリスク
自宅からテクノロジーにアクセスする人々が増える中で、サイバースペースにおける国家の行動に関する世界的ルール作成で政府・民間部門の両方でほとんど前進が見られず、攻撃やデータ盗難の可能性が高まっている。
7.トルコ
ユーラシアによると、トルコは昨年、危機を回避することができたが、21年に入っても脆弱(ぜいじゃく)なままだ。エルドアン大統領は4-6月(第2四半期)に再び圧力に見舞われ、景気拡大を促そうとするかもしれないが、そうすることで社会的緊張をあおる恐れがある。
8.産油国にとって厳しい年に
中東・北アフリカのエネルギー生産国で抗議活動が激化し、改革が遅れる可能性がある。歳入の大半を石油から得るイラクは基本支出予算の確保や自国通貨安の阻止に苦しむ公算が大きい。
9.ドイツのメルケル首相退陣
ドイツのメルケル首相は欧州で最も重要なリーダーであり、同首相が去れば欧州のリーダーシップが弱まることから、今年後半のメルケル首相退陣が欧州最大のリスクだとユーラシアは分析している。
10.中南米が抱える問題
中南米諸国がパンデミック以前に直面していた政治・社会・経済問題が、一段と厳しくなるリスクがある。アルゼンチンとメキシコでは議会選挙が行われ、エクアドルとペルー、チリは大統領選挙を控えている。ポピュリズムに訴える候補者が増え、特にエクアドルでは同国の国際通貨基金(IMF)プログラムと経済安定を危うくする可能性がある。
出所 Bloomberg
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ポストコロナになるはずの今年2021年は、サプライズな出来事が続きそうなので、こうしたトップリスクはマーケットでさらに注目されそうだ。
そしてスタートした2021年の金融マーケットでは、イアン・ブレマー氏が8位にピックアップしている欧州情勢が懸念となる。
2)欧州で相次ぐ政局不安、ユーロドルは調整局面入り?
今年に入って、欧州では、コロナ禍が深刻化。
ドイツではロックダウンが強化され、医療用マスクが義務づけられる事態に。単にマスク着用が義務化ではなく、医療用である点が注目で、それだけ欧州ではコロナ禍が深刻で誰もが非常に神経質になっているということだ。
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ドイツ、ロックダウンを強化 医療用マスク義務づけ
ドイツのメルケル首相は19日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、ロックダウン(都市封鎖)を強化すると発表した。商店やレストラン、学校の閉鎖を続けるほか、買い物や公共交通機関で医療用マスクの着用を義務づける。感染力の高い変異種の脅威が高まっており、メルケル首相は「今行動しなければならない」と訴えた。連邦政府と各州が19日夜(日本時間20日朝)に合意した。ロックダウンの期間はこれまで1月末までとしていたが、少なくとも2月14日まで延長する。
出所 日経新聞
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一方、政治不安も表面化している。
ドイツ与党・キリスト教民主党同盟の新党首こそメルケル氏に近いラシェット氏にすんなり決まったが、オランダ、ルッテ内閣が総辞職、エストニアでも首相が辞任を表明。
さらにイタリアでもレンツィ元首相率いる政党が連立内閣から離脱し、与党は過半数割れとなった。
そして、イギリスでは3度目のロックダウンが夏まで継続されるとジョンソン首相が示唆。
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ジョンソン首相、3度目の英ロックダウンは夏まで継続も-罰則を強化
新型コロナウイルスの感染拡大予防対策として英国が実施している3度目のロックダウン(都市封鎖)は長引く様相だ。政府は制限緩和を考え始めるのは時期尚早だとして警戒感を示している。
英国では大規模な新型コロナワクチン接種計画が進行中で、これまで約500万人が接種したが、ジョンソン英首相とパテル内相は従来から繰り返してきた4月までには通常に戻れるとの見通しを示すことをやめた。
今も制限ルールを無視する人が続出し、感染拡大を封じ込めることが一層困難になっているとの懸念から、政府は現在の制限措置の順守を強化する方針に転換した。
パテル内相は、個人宅でパーティーが開かれた場合には参加者に警察が800ポンド(約11万3000円)の罰金を新たに科すと発表した。夏の旅行を予約していいだろうかとの質問に、現時点の助言は自宅にとどまるようにということだと内相は答え、「制限措置を解除できる時期について話す、もしくは推測することさえ今は全くもって時期尚早だ」と発言。「英国は今もコロナ禍にある」と続けた。
これより先、ロックダウンを夏まで続ける必要があるかとの問いに対しジョンソン首相は、その可能性を排除せず、新型コロナ変異種は「極めて感染力が強く」、英国は「間違いなく、この先数週間は厳しい状況になる」と警告した。
出所 Bloomberg
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このように欧州では相次ぐ政局不安とロックダウンの長期化により、欧州通貨の上値が徐々に重くなってきており調整局面入りが濃厚。
このユーロドルの下値余地の拡大は他の主要通貨の対ドル相場の行方にも少なからず影響を与えます。筆者が注目している豪ドルドルもその影響を受けそうだ。
3)米10年債利回りからくる米株の調整とユーロドルの反落は、豪ドル買いの好機に
ここで、視点は為替から少し離れるが、今年に入ってアジア市場で話題になっているのが電力。
寒さが厳しくなるにつれ、アジア市場では電力不足が顕著になっている。
この影響でLNG(液化天然ガス)が高騰。
アジアのLNGのスポット価格は、一か月で約3倍になっているようだ。
LNGといえば、筆者が連想するのが、2020年に中東のカタールを抜いて世界最大のLNG輸出国になったオーストラリア。
一方、豪州産の石炭輸入を禁止した中国では、国内の電力不足が悪化し、信号やエレベーターなどあらゆるものに影響が及んでいるようだ。
友人によれば、中国最大の国営発電所が「豪州の石炭でなければ著しく発電出力低下、代替はない」と本音を漏らしたとの報道が出回っているようだ。
オーストラリアは金(ゴールド)の生産も今年(2021年)世界一になるという報道もあり、LNGも世界一、石炭の品質も良質、そして、鉄鉱石の輸出量も巨額。
地面を掘れば、良質なものがポンポン出てくる豪州という国は、日本にとってうらやましい限りである。
そして筆者が注目している豪ドルだが、豪ドル円の強さは今年になっても変わらず。
あっさり節目の80円台にのせてきた。
添付図はYJFXさんのMT4チャートで、豪ドルドル(AUDUSD)と豪ドル円(AUDJPY)のいずれも週足。
3月のコロナショックからずっと上昇しており、これまでの当レポートでご案内の通り、豪ドルが買われている。

(ワイジェイFX MT4より筆者作成)
ただ前述のようにユーロドルの上値が重くなり調整局面入りの公算が高くなるにつれ、豪ドルドルも上昇一服。
0.8000に向けて続伸していたが、ユーロドルの上値の重さに連動して、豪ドルドルも0.7820をトップに調整する可能性が高くなってきた。
そしてもうひとつの注目は、米10年債利回りの急騰。
添付図は米10年債利回りの週足の推移。

(米10年債金利 Bloombergより筆者作成)
Covid-19の影響で昨年3月に一時0.3137%まで急落していた10年最利回りですが、その後反発。
今年に入って 節目の1.00%を超えてきました。
米国の財政赤字拡大への思惑で、米10年債利回りが1.5%を超えて続伸するようなことがあれば、米株高を支えていた低金利の継続という前提が崩れる。結果、ユーロドルの調整が深くなり、米株も反落。それは豪ドルドルや豪ドル円も調整局面入りすることを意味している。
しかし前述のように豪ドルには好材料が多い事に加えて、豪10年債利回りも1.13%と米10年債利回りを上まわっており中期の上昇トレンドは変わらず。
そのため米株やユーロドルの下落に連れ、豪ドルが調整に入れば、それは多くの参加者にとって、もう一度豪ドル円をロングにする好機になるのではないかと想定している。
底堅く推移している米10年債利回りの上昇からくる米株の調整、そして豪ドルドル、そして豪ドル円の動向に注目。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。