スペシャル・トレンドレポート

日米の実質金利差拡大から、米ドル/円、下値模索の展開へ(竹内 のりひろ氏)

2021年1月8日
東京支店のチーフディーラー :「明けましておめでとう。年明けのそちらの金融市場や為替市場の見方はどうなの?」
NYのシニアディーラー :「明けましておめでとうございます。一言で申し上げれば、金余り。株高に加えビットコインまで上昇。ドル安も継続でしょうか」
東京支店のチーフディーラー :「そういえば、年末に遅れていた為替報告書(注)がようやく公開されたけど…」
NYのシニアディーラー :「そうですね。細部まで読み解くと、やはり米ドルの水準に不満を表明するような文言が見受けられます」

(注)米国の財務省は、半期に一度、通常4月と10月に米議会に対して為替報告書を公開する。このなかでは、主要貿易相手国の経済政策や為替政策等を包括的に分析して、不正な為替操作などが存在しないかを報告する。後述。

昨年1年間の主要7通貨の対米ドルでの騰落は、全ての通貨が上昇と米ドル安が顕著となった。各通貨のパフォーマンスを比較すると、上昇上位より豪ドル(+9.61%)、スイスフラン(+9.18%)、ユーロ(+8.97%)、NZドル(+6.63%)、円(+5.17%)と続いている。この上昇上位にほぼ共通するのは経常黒字国(圏)通貨という点だ。

図表:筆者作成

通常、為替の水準を決めるという点で重要になるのは、「金利」、「需給」、「投機」の3要素でほぼ説明がつく。このなかで、昨年は新型コロナの感染拡大から、各国中銀が利下げに転じ、主要国から金利が消え、主要通貨間に大きな金利差はない。「投機」は輸出入や貿易を伴わない事実上の差金決済でもあり、長期でのインパクトは乏しい。

図表:筆者作成

中長期の為替相場の水準を決定するという点では、経常赤字、経常黒字といった「需給」の側面の方が重要だ。昨年の場合は、金利がなくなった経常赤字国の米ドルが経常黒字国(圏)通貨に対し減価するという教科書通りの結果となった。現在市場で発生しているのは、リスクセンチメントの改善からの株高、商品への見直し買い、ドル安だが、このトレンド、当面続く可能性が高い。

昨年末、12月15日(火)~16日(水)に開催されたFOMC(注)では、米国債で月額800億米ドル、MBS(住宅ローン担保証券)で同400億米ドルの量的緩和策が維持された。今回の会合では、これまで「数か月」とだけ表記してきた買入れ期間を「完全雇用と物価の安定が達成できるまで」と事実上の長期戦を宣言している。

(注)米国で金融政策を話し合う会合

米国の中央銀行であるFRBは、昨年8月に長期的なインフレ目標を「長期にわたり2%が達成できるように」と物価のオーバーシュートを容認する政策へと変更している。2021年に入り、新型コロナワクチンの普及により、経済活動がフルに再開し、正常化に向かう可能性が一段と高くなる。ただ、足元では失業率は6.7%まで低下したものの、コロナ前の3%半ばには程遠い。

チャート:米労働省より筆者作成

足元でのFRBのゼロ金利政策と量的緩和は長期化する可能性が高く、市場には行き場を失った余剰資金があふれる。今や金利がなくなった基軸通貨の米ドル、通貨としての魅力は後退し、世界中で米ドルを手放す動きが継続、ここまで米ドルは減価という道をたどっている。この米ドル売りの受け皿は、引き続き、上述の経常黒字国通貨である「円」などが主導する可能性が高い。

こうした背景もあり、年明けの「米ドル/円」は、1月5日(火)には安値102.61円まで下値を拡大している(本レポートは1月6日(水)午前執筆)。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
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12月16日(水)、米国の財務省より為替報告書が公開された。通常この為替報告書、4月と10月の半期に一度、主要貿易相手国の経済状態や為替の水準など、不正に操作されていないか複数の水準から判断している。これに逸脱した場合、為替操作国や要監視国にリストアップして、是正措置などを求め、改善がみられない場合、高関税など報復措置を取ってきた。

日本は対米貿易黒字額などが抵触し、不名誉な要監視国の常連となっている。今回、新たにベトナムとスイスがランクイン、前者が中国からの迂回生産地となり、貿易黒字が急拡大、今やその額は実に日本を上回る。後者はスイスフラン高に対し、中央銀行であるSNB(スイス・ナショナル・バンク)の継続的な米ドル買い介入が基準を超えた。

今回の為替報告書を詳細に読み解くと、足元での米ドルの水準に関する考察に行き着くが、その見解は「米ドルの水準は依然高い」と評す。具体的に、米ドルの実質実効為替レートでは、過去20年平均に照らして依然7%高いとしていて、一段の調整を望んでいるようにも見受けられる。

さらに「円」に対しては、「こうした最近の米ドル安にも関わらず、依然割安」と記載し、前回の昨年1月の為替報告書から変化はない。この為替報告書が直接の「ドル安円高」要因とはみていないが、こうした報告書から伝わるメッセージを読み解けば、米政権の基本的な見方は、2014年以降進んだ「米ドル高」の是正であることは明らかだ。

チャート:BIS(国際決済銀行)より筆者作成

チャート:BIS(国際決済銀行)より筆者作成

昨年の春以降のFRBによる事実上のゼロ金利政策や量的緩和の効果もあり、ここまで米株は史上最高値を更新と堅調さを維持する。米国では、依然新型コロナの感染の収束は見通せないが、昨年末よりコロナワクチンの接種が始まっていて、2021年度の経済活動のフルの再開も一部視野に入る可能性がある。

こうしたなかで、金利の市場に目を転じると、将来の景気回復や物価の上昇を織り込み、10年先の期待インフレ率(物価上昇率が)が上昇に転じ、年明け早々、2.0%の大台を回復した。この結果、10年先の実質金利(注)が-1.1%まで低下、一方、日本では携帯電話料金の値下げやGo To トラベルの影響もあり物価は低迷、実質金利は高止まる。今や両者の金利差は、マイナス圏に埋没する。

(注)実質金利=名目金利-期待インフレ率

「米ドル/円」が浮上しない最大の要因とされ、米国で利上げが遠のくなか、物価の上昇が続く場合、実質金利差の一段の拡大につながる可能性がある。以上をまとめると、年明けに102円台まで下値を拡大した「米ドル/円」だが、日米の当面底入れは見通せず、下値模索の動きは続きそうだ。

チャート:筆者作成

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2021年1月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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