スペシャル・トレンドレポート

「ユーロ/米ドル」の上昇は継続、 2021年のレンジを1.15~1.28と予想(竹内 のりひろ氏)

2020年12月4日
チーフディーラー :「米国の大統領選挙以降、米ドル安が顕著なのだが、来年へ向けての展望は?」
NYのシニアディーラー :「四面楚歌という訳はないのですが、基軸通貨の米ドルが実質ゼロ金利となっていますので…。」
チーフディーラー :「珍しく歯切れが悪いじゃないか。どうした」
NYのシニアディーラー :「いや、妄想等ではなくて、場合によっては来年、大きく米ドル安が進む可能性もあるかなと思いまして」
チーフディーラー :「…。」

NYのシニアディーラーの話では、2021年、米ドル安が大きく進む可能性があるという。

米国の大統領選挙を通過した11月の主要通貨の騰落を計測すると、対米ドルで上昇上位からNZドル(+6.05%)、豪ドル(+4.44%)、英ポンド(+2.83%)、カナダドル(2.44%)、ユーロ(+2.36%)と続き、全ての通貨が上昇となった。背景は不透明が後退、待機資金がリスク資産である株や、リスク通貨であるオセアニア通貨などに戻ってきたことが理由だ。

「ユーロ/米ドル」も米国大統領選開票の11月4日(水)、現職のトランプ大統領有利と伝わり、全般米ドルが買い進まれるなか、1.1603の安値をつける場面がみられたが、その後は大きく反発している。30日(月)には、為替市場に月末のリバランスが持ち込まれる「ユーロ/米ドル」は一段高、12月1日(火)には年初来高値を更新する1.2077まで上値を伸ばした。

年初来高値を更新してきた「ユーロ/米ドル」だが、今年の値動き、特に上伸をみせた後半の値動きを振り返り、2021年を展望してみる。

図表:筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

新型コロナの感染拡大から欧州経済は大きく落ち込んだ。2020年後半の「ユーロ」の上昇要因は、ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領が主導した欧州復興基金の設立が原動力だった。通貨統合はなされたものの、各国の利害調整に難航して財政統合は二の次であった。特に財政の厳しい南欧への支援は、財政が比較的豊かな北欧が反対する構図が鮮明だった。

返済不要の補助金が提案され、これまでばらばらだった財政の統合が意識されたことが大きい。財政基盤の弱い南欧国債が大きく買い進まれ金利が大幅に低下、欧州で一番信用度の高いドイツ国債との金利差は大きく縮小した(注)。イタリアの10年国債の対ドイツ国債の金利差は、コロナショックの3月には2.84%まで拡大していたが、足元で1.13%へと大きく縮小している。

(注)ドイツ国債との金利差の縮小は、域内での信用格差の縮小から、ユーロの買い要因。一方で、金利差の拡大は域内での信用格差の拡大から、ユーロの売り要因。

以下のチャートを見れば明々白々、金利差の縮小は「ユーロ/米ドル」の買い要因に他ならない。さらに夏場にかけて、早期の経済活動の再開に動いたこともあり、景気の2番底を回避、景況感は一旦大きく改善した。

チャート:筆者作成
※イタリアとドイツの10年債金利差は軸を反転

ただ、「ユーロ/米ドル」は9月以降に大きな反落をみせたが、①大きく買い持ちに傾いたポジションの巻き戻し、②欧州での新型コロナの再拡大からの景況感の大幅の悪化が背景だった。シカゴの通貨先物の残高でみると、8月25日(火)には、ネットのユーロの買い残は過去最高水準の211,752枚の買い越しを記録していた。

その後は、投機筋は買い残を処分する動きに転じたことから、買い残は順調に減少、これに伴い、「ユーロ/米ドル」は1.16割れ寸前まで売られた。足元では買い残は14万枚弱となり、買入れ余力は復活している。

チャート:CFTCのデータより筆者作成

新型コロナの新規感染者の急増から、ドイツがレストランの営業禁止、さらにメルケル首相がスキーリゾートのこの冬の閉鎖を求めた。フランスでは段階的なロックダウンの解除がアナウンスされたものの、依然夜間の外出禁止令を敷く。欧州の景況感を示すとされる製造業PMI(注)でみると、ユーロ圏が10月の54.4より11月は53.6へと低下している。

フランスに至ってはロックダウンの影響が大きく、10月の51.0より、11月は好不況の分かれ目である50を下回る49.1まで低下、11月上旬にかけてのユーロ売りの1つの背景でもあった。

(注)購買担当者景気指数、企業の購買担当者への聞き取り調査等をまとめたもの。景気指標ではソフトデータ、景気の先行指標。

チャート:Markitより筆者作成

米ドルの相対的な強弱を示す実質実効為替レート(注)でみると、ここまで米ドルは歴史的な高値圏より反転下落、足元では再び下げ足を速めている。背景にあるのが、新型コロナの感染拡大によって、米国では3月の大幅利下げから金利が消えたことだ。さらに、中央銀行であるFRBはこの先2023年まで利上げはせず、物価の一時的なオーバーシュートも容認としている。

(注)消費者物価や貿易量を加味、より経済実態を反映した米ドルの強弱を測る指標。

物価のオーバーシュートを容認したことで、米国では10年期の物価上昇率が静かに上昇、再び実質金利(注)がマイナス1%付近まで低下してきた。実質金利がマイナスとは、預金や債券投資をしていた場合、その間の物価上昇率が預金金利などを上回り、実質、預金が目減りしていることを意味する。預金などしている場合ではなく、米ドル建てで借り入れをするのが得策ということになる。

(注)実質金利=名目金利-予想物価上昇率

次に、米国が慢性的な経常赤字国であることを踏まえれば、海外からの継続的な資金流入がないと、資金流失から自然と通貨安に向かう。その米国では今、ほぼ金利がなくなり、投資妙味という点では乏しい。こうしたなかでは、対経常黒字国(圏)通貨である、ユーロ、円、スイスフランなどに対して米ドル安が続く可能性が極めて高い。

さらに、バイデン前副大統領は閣僚人事を着々と進め、財務長官に元FRBイエレン議長を任命している。イエレン氏は、労働市場にも精通した経済学者で「高圧経済」を持論とする。イエレン氏の通貨政策自体は不明だが、一つ明確なことは、「低金利の長期化」が一層意識され始めたことだ。

以上をまとめると、経常赤字国通貨の米国、経常黒字圏のユーロ、こうした構図は2021年には一層鮮明となり、「ユーロ高」がさらに進み、「ユーロ/米ドル」の年間レンジを1.15~1.28と予想する。

チャート:BIS(国際決済銀行)より筆者作成

チャート:筆者作成

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年12月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について竹内のりひろ氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN