スペシャル・トレンドレポート

欧州中銀金融政策理事会に向けて(松崎 美子氏)

2020年12月2日

今年最後の欧州中銀(以下、ECB)金融政策理事会が、12月10日に開催される。前回の理事会で、12月には何らかの追加緩和策を実施することを約束しているので、注目度は高いであろう。

果たしてどのような追加がなされるのか?今回のコラムではそれについて考えてみたいと思う。

前回のECB理事会

10月29日に開催されたECB理事会で発表された声明文では、こういう記述があった。

「New round of projections in December will allow a thorough reassessment of the economic outlook and the balance of risks. On the basis of this updated assessment, the Governing Council will recalibrate its instruments, as appropriate, to respond to the unfolding situation
12月の理事会では、3ヶ月に一度のマクロ経済予想(スタッフ予想)を発表する。その時の分析結果を使い、ユーロ圏のおかれている経済見通しや先行きのリスクを見直す。それらをベースとして、12月の理事会で現在の金融政策の整合性について話し合う。」

これは言い換えれば、「金融政策の変更や追加をやる可能性が高いですよ!」と、事前通達したようなものである。そのため、今回の理事会への注目度は、高い。

https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2020/html/ecb.mp201029~4392a355f4.en.html

10月29日理事会の議事要旨

11月26日に公開された10月29日の理事会議事要旨。ユーロ圏を取り巻く環境が予想以上に悪いという言及が多数見られる。

https://www.ecb.europa.eu/press/accounts/2020/html/ecb.mg201126~20e838e857.en.html

私の目に止まった内容として、以下2つをご紹介したい。

・ Incoming data and survey results signaled that the euro area economic recovery was losing momentum more rapidly than expected.
発表された経済指標やサーベイ結果を見る限り、ユーロ圏の経済回復は予想していたよりも早くモメンタムを失っている。

・ members widely agreed that, given the sharper slowdown in growth momentum and the weakening of underlying inflation dynamics compared with what had previously been expected, as well as the deterioration in the balance of risks, it would be warranted to recalibrate the monetary policy instruments in December. It was noted that taking monetary policy decisions in December would be consistent with prevailing market expectations.
ユーロ加盟国の間で広く認識されていることとしては、景気回復のモメンタムが急速に衰え、インフレ見通しも過去の予想と比べると大幅に弱まってきたことを考えると、12月の金融政策理事会で金融政策内容を再調整することは、正当化されたとも言えるだろう。

ユーロ圏が抱えている問題

ヨーロッパではコロナ第2波が深刻化したため、今年2回目の大規模ロックダウンを強いられた。そこに、Brexit交渉の先行き不安が加わる。ここまでは英国も同様であるが、ユーロ圏だけが抱えているもう1つの問題が残っている。

それは、マイナス・インフレ率(デフレ)である。11月30日に発表されたユーロ加盟国の11月分・消費者物価指数速報値を見ると、引き続きインフレ率はマイナス圏での推移が確認された。

ここではイタリアを例に挙げて話しを進めよう。こちらに添付したチャートは、イタリアのインフレ率(前年比)である。

出典: イタリア統計局 (2020年11月30日)
https://www.istat.it/it/files//2020/11/Consumer-prices_Prov_November2020.pdf

これを見ると、赤い線で描かれたインフレ率は、今年に入りずっとマイナス圏での推移。これはたぶん、パンデミックの拡大により経済活動が完全にストップしてしまったことも、大きく影響しているだろう。

しかし、グレーの棒グラフで描かれたコア・インフレを見ると、状況は一変する。私もこのチャートを見て、とにかく驚いた。そして過去のインフレ率発表時に、きちんと毎月コア・インフレ率をチェックしなかったことを悔いた。

チャートで示されているように、コア・インフレがプラス圏で、インフレ率がマイナス圏での推移が続いているということは、エネルギーや食品価格の低下が著しいことに他ならない。

そこで今年に入ってからのブレント原油価格のチャートをチェックしてみると、たしかに3月のロックダウン突入時期から急落し、ここにきて徐々に戻し始めているところだ。

来年、ワクチンが一般普及し世界的な景気回復期待が高まれば、原油価格は上昇するだろう。もちろんワクチン普及と実際の景気回復までには、時差が生じるだろうし、景気回復基調次第では、インフレが一緒に上昇しないリスクも残る。それに加え、ヨーロッパでは特に、CO2を排出しない再生可能エネルギーへの乗り換えが進むことも考えられる。

しかし、かなり低い可能性かもしれないが、来年後半以降は金融緩和からの脱出というシナリオも、1つの選択肢として残しておこうと考えている。相場に絶対は、ない。

出典: Stockcharts    https://stockcharts.com/h-sc/ui

ユーロ加盟国の国債利回りのマイナス化

先週の欧州マーケットで話題となったのは、11月26日の欧州時間に、ポルトガルの10年物国債利回り(長期金利)が、一瞬だがマイナス圏に入ったことである。コラム読者の皆さんは2009年から始まったギリシャ債務危機を経験されていらっしゃらないと思うが、当時は債務残高が高い南欧州各国の国債利回りが高騰し、ポルトガルの長期金利は15%を越えた。

こういう事情を知っている市場関係者にとって、ドイツやオランダの長期金利がマイナス圏に突入することには違和感はないが、あれだけ苦しんだ南欧州のポルトガルまでがマイナス圏に入ったことに、驚いたのである。

このマイナス圏への突入の背景には、12月のECB金融政策理事会で、国債購入プログラムが更に拡大されることへの期待感が大きい。現在、1兆3500億ユーロ規模のPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)は、コロナ第2波による経済打撃を少しでも緩和するため、5000億ユーロの拡大が予想されている。

議事要旨のところでも書いたが、将来の景気見通しの脆弱さに理事達は懸念を示しており、ここからの景気の足取りは確実に下降気味であるとしている。そこでECBは今後も加盟国の国債購入を継続し、特にドイツとのイールド・スプレッド(利回り格差)が大きい国々(=南欧州各国)の国債を優先して購入することが期待されている。

ECBの国債購入により、ギリシャ危機時のような「北ヨーロッパ 対 南ヨーロッパ」という線引きがなくなったことも、長期金利のマイナス化の実現に一役買っているとも言えるだろう。

今週のECB理事会での見所

最後に、私が考える理事会での見所について、書いてみたいと思う。

  • 1兆3500億ユーロ規模のPEPPの5000億ユーロ拡大が、コンセンサスとなっている

  • 今回の緩和策の目的は、2度目のロックダウンで傷んだ経済の立て直しに加え、金融市場のタイトニング緩和の意味もある
  • 一部のユーロ加盟国では、W字のリセッション・リスクが台頭しており、3ヶ月ごとに発表されるマクロ経済予想(スタッフ予想)では、GDPとインフレ見通しの下方修正が予想される

  • 民間銀行による企業融資条件が引き締められており、融資の需要が減退している。その部分に対して、なにか対策を出すか?

  • EU復興基金が未だに承認されていないことに対するECBの考えについて、記者からの質問が出ると予想

ここからのユーロ

執筆時のユーロ/ドルは、1.1975を挟む展開となっている。このコラムが公開される水曜日までに、ユーロ/ドルは1.2000を超えているかもしれない。

今年に入ってからのドル・インデックスとユーロ実効レートのチャートを見比べると、ドル安とユーロ高が同時進行しているのが分かる。つまり、ユーロ高/ドル安はこのトレンドが変わらない限り、継続するという意味でもあろう。

それでは、どんなきっかけでトレンドが変わるのか?一番分かりやすいのは、ECBがインフレ率低下要因となるユーロ高に対し牽制発言をすること。或いは、アメリカの次期財務長官となるイエレン氏が、ドル安について何らかの言及をすること。Brexit交渉が泣き別れとなり、ポンドもユーロもダメージを受けること。年末需要として、基軸通貨のドルが買われることなどが考えられる。ただし、最後のドル需要については、一過性のものであり、来年に入れば状況は変わると考える。

出典: Stockcharts
https://stockcharts.com/h-sc/ui
欧州中銀
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

これはユーロ/ドル週足に200週SMAを載せたチャートであるが、短いピンクの線が引いてある1.1880/90台がサポートされる限り、ユーロ/ドルの1.2000超えは避けられないと考えている。問題は、抜けた後、どこまで伸びるかである。ECBのユーロ高牽制発言が、木曜日の理事会で出ないとは限らない。引き続き、注意が必要である。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年12月2日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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