スペシャル・トレンドレポート

10月8日発表のECB議事要旨に注目(松崎 美子氏)

2020年10月7日

欧州中銀(以下、ECB)内の意見の対立が、夏休み以降報道されている。特に、パンデミック対策として今年3月に導入されたパンデミック緊急購入プログラム(Pandemic Emergency Purchase Programme、以下 PEPP)継続の是非を巡る対立のようだ。

今回のコラムでは、これについて書いてみよう。

PEPPとは?

本題に入る前に、PEPPについて簡単に説明したい。

https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2020/html/ecb.pr200318_1~3949d6f266.en.html

今年に入りコロナ感染の拡大により、ユーロ加盟国の経済が大きな打撃を受けたことに対する支援策的な政策。一時的措置として、ECBはPEPPを通じ、加盟国の国債や社債などを購入する。

ECBは既にPSPP(Public Sector Purchase Programme、公的部門購入プログラム)を使い、加盟各国の国債購入を実施しているが、恒久措置のPSPPと、時限措置であるPEPPとの最大の違いは、加盟国の国債購入額に対する上限の有無となっている。

詳しく説明すると、PSPPはスタート当初、各国の発行残高25%を上限として購入を開始した。その後、2015年9月には、この上限を33%に引き上げ現在に至る。

https://www.ecb.europa.eu/mopo/implement/omt/html/pspp-qa.en.html

これに対して、PEPPには、購入上限がない。

https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2020/html/ecb.pr200318_1~3949d6f266.en.html

財政ファイナンスに抵触リスクがあるPEPP

PSPPを通じての加盟国の国債購入決定過程で、2011年10月末に任期が切れるトリシェ元総裁の後継本命候補とされていた当時のドイツ連銀ウェーバー総裁や、同じくECB主席エコノミストを務めていたドイツ人のシュタルク専務理事がともに、PSPPが財政ファイナンスに抵触するという考えで、任期途中で退任している。

その後も、ドイツ憲法裁ではPSPPの合憲性について、裁判が何回か実施されている。

この財政ファイナンスに対する考え方は、ECB理事のタカ派/ハト派の違いに加え、出身国によっても、かなり違いが出るようだ。

7月理事会議事要旨でのPEPPについての記述

7月15/16日に開催されたECB金融政策理事会での議事要旨に、PEPPについて以下のような記述があった。

https://www.ecb.europa.eu/press/accounts/2020/html/ecb.mg200820~c30e2e26b9.en.html

「The argument was also made that the flexibility of the PEPP suggested that the net purchase envelope should be considered a ceiling rather than a target.

理事会では、PEPPの柔軟性についても話し合われた。それは、PEPP枠の1兆3500億ユーロについては、全額使用する必要はなく、この額はあくまで上限と捉えるべきという意見である。」

この頃、マーケット関係者の間では、PEPPの1兆3500億ユーロという枠を、ECBは全額使い切るつもりなのか?それとも、これはあくまでも目安で、全額使い切るつもりはないのか?そういう議論が盛んであった。これに対し、ECBは議事要旨で「あくまでも上限」という回答をした。

PEPP見直し観測

この議事要旨が発表された約1ヶ月後に、FT紙にある観測記事が載った。

https://amp.ft.com/content/8ff55eff-ed3a-49db-b26a-2f49fa7822d4?__twitter_impression=true

タイトルは、

「ECB to review flagship bond-buying tool in fighting Covid crisis
コロナ感染危機対策の代表的な国債購入プログラムの見直しに入ったECB」

サブタイトルとして、

「Debate on length of €1.35tn PEPP programme and on transferring its flexibility to other asset-purchase schemes
1兆3500億ユーロ規模のPEPPの期間と、(PEPPの柔軟性を)他の資産購入プログラムに適用可能かについて協議」

記事を読み進んでいくと、「ECBはコロナ感染対策で使用した金融政策ツールの見直しに入った。見直しの結果、既存の資産購入プログラムに大きな影響が出るかもしれず、理事会で論争の種となるかもしれない。今回の見直しは特に、コロナ危機対策で登場したPEPPにインパクトを与えるだろう。2人の理事会関係者の話によると、見直しで最も大事な点は、①PEPPの実施期間、②PEPPで導入された柔軟な条件を、既存の資産購入プログラムにも適用することが妥当か?である。やはりPEPPのように条件が厳格ではない政策は、EU法で禁止されている財政ファイナンスに抵触するリスクがあり、過去にドイツでは憲法裁判所への訴訟が起きている。PEPPは時限措置であり、延長が重なると、『緊急時に導入された一時的なプログラム』と言う大義名分を失ってしまう恐れがある。」と書かれていた。

PEPPに対する意見の対立

PEPP見直し観測が記事となった1週間後に、今度は他の通信社から新たな観測記事が出た。

それによると、コロナ第2波のリスクを受け、ECB理事達の間で、PEPPへの対応に違いが出てきており、調整上手のラガルド総裁も、困っているという内容であった。

そこには、タカ派/ハト派の考え方が載っていた。

タカ派の考え方

ECBはネガティブな部分ばかりに注目し、予想以上に良好なニュースから目をそらしている。ECBが9月に発表した3ヶ月に一度のスタッフ予想では、EU復興基金に代表される財政面からのヘルプをきちんと反映しておらず、かなり悲観色の強い内容となっている。「緊急時のみ」の政策であるPEPPは恒久化させず、必要となれば、また再開すれば良い。これ以上の増額は、必要なし。

ハト派の考え方

ここからの経済先行きリスクや最近のユーロ高について、ECBは過小評価しすぎている。ユーロ圏のインフレ率は恐ろしいほど低く、このまま放置するなど、考えられない。QEを増額するなどの対応は不可欠である。

9月理事会議事要旨に注意

今週木曜日、現地時間13時30分(日本時間 20:30)に発表される9月9/10日の議事要旨には、注意が必要である。

https://www.ecb.europa.eu/press/calendars/weekly/html/index.en.html

これだけ多くの観測記事が出ているということは、理事達の意見の対立は、かなり深いと見て間違いなさそうだ。

全員の意見を聞いてコンセンサスを重視するラガルド総裁であるが、対立が深化しすぎると、コンセンサスが取れない。

万が一、タカ派勢力が強くなり、PEPPの増額や延長の可能性がなくなったとマーケットが判断すれば、真っ先に影響を受けるのは、イタリア国債利回りと、独伊イールドスプレッドである。そうなると、当然であるがユーロにも影響を与える。

ここからのユーロ

米大統領選が近づいてきたこともあり、溜まっているドル・ショートの動きに大きく左右されそうなユーロ/ドルとポンド/ドル。

ただし、ユーロについては木曜日の議事要旨で、PEPPになんらかの制限を設けるような内容が一つでもあれば、下落のイメージを持っている。「財政ファイナンスに抵触するリスクが和らぐのであれば、ユーロ買いなのでは?」という意見もあるだろうが、やはり独伊イールドスプレッドの拡大が起きる内容であれば、私は、ユーロ下落は避けられないと考える。

出典: ECB
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

最後にECBが毎日発表しているユーロ実効レートのチャートを見てみよう。赤い丸で囲んだ部分は、狭いレンジで動いた時期である。このレンジ相場の後には、必ず下落/上昇の動きが待っている。最近は7月下旬からずっとレンジ相場が続いている。そろそろどちらかに動く時期が近いと思われ、それが木曜日の議事要旨がきっかけとなる可能性もあろう。十分な注意が必要だ。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年10月7日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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