スペシャル・トレンドレポート

欧州中銀金融政策理事会の見所は4つ(松崎 美子氏)

2020年9月9日

9月10日に欧州中銀(以下、ECB)金融政策理事会が開催される。いつも注目度は高いが、今回は夏休み中にユーロが1.20手前まで上昇したため、ユーロ高についてのECBの態度に注目が集まっている。

今回のコラムでは、その中でも特に私が注目している4点を挙げ、説明していきたい。その4点とは、①ユーロ高に対する見解、②FRBの「平均インフレ率目標(AIT)」に対するECBの考えや感想、③スタッフ予想でのインフレ見通しの下方修正幅、④PEPP枠の解釈の仕方である。

ユーロ高についてのECB理事達の発言

まず本題に入る前に、ユーロに対するECB関係者の発言をまとめてみたい。

9月1日、ECBレーン主席エコノミスト氏が、ユーロ高について牽制発言をした。この日の午前中には、ユーロ圏8月のインフレ率が発表され、4年ぶりに-0.2%とマイナス圏に落ち込んだ。

マーケットではレーン氏の牽制発言ばかり取り上げているが、ここ10日間くらいの間で、ユーロに対するECB関係者の発言はいくつか出ている。

シュナーベル専務理事

8月31日にロイターのインタビューに答えたシュナーベル専務理事。

https://uk.reuters.com/article/us-ecb-policy-schnabel-text-idUKKBN25R1OL

ここで同氏は最近のユーロ高について、こう述べている。

「為替レートはECBの政策手段ではないが、いつもチェックしている。(ユーロ高が) インフレ率に与える影響については、よくわからない。為替レートだけを取り上げて、その影響を語ることには気をつけるべきだと感じている。リサーチによると、ドル安は世界の貿易と成長を促す効果がある。そのため、ユーロ圏の企業にとってのユーロ高は、競争力において不利になるかもしれないが、世界的な貿易/成長率の向上の恩恵を受けることで、相殺されるだろう。現時点では為替市場での動きについては特に心配していない。」

レーン主席エコノミスト

9月1日に、「ECBは為替レートを政策ターゲットには していない。しかし、ユーロ/ドルのレートは、重要である。」と、ECB関係者からはじめてのユーロ高に対する懸念発言が出た。

FT紙の記事

9月4日に、3名の匿名ECB理事の発言をまとめている。相反する発言が出ており、かなり悩ましい。

https://www.ft.com/content/c986281c-7154-48ac-939d-50e46d64c0ee

1人の理事は、「ここ数週間で、ユーロが強くなってきた。現在のように需要が弱い状況で、世界の需要を当てにしているユーロ圏経済にとっては、(通貨高はいつも)心配の種である。」と語り、今すぐにでもユーロ高の是正を希望するような意見を述べている。

残り2名のうち、1人は「最近のユーロ高は頭痛の種であるが、にっちもさっちも行かないほどではない。今後もこのトレンドが継続するかについて、我々は監視しなければならない。」と語っている。もう1人は、「ユーロが対ドルで強くなっているが、そもそも今までユーロは対ドルで、過小評価されすぎていた。現在はそれほど問題ではないが、このままずっとユーロ高が続けば、問題となるだろう。」とやや強気な意見である。

たぶんインタビューを受けた匿名の理事には、ハト派とタカ派両方がいることが想像される。

3人の共通した意見だと思われるが、「ジャクソンホール・シンポジウムでパウエルFRB議長が平均インフレ率目標(AIT)を発表して以来、ユーロ高は加速した。ECBも独自の金融政策の枠組みの見直しを早め、出来れば年末までに発表したいと考える。」ということで、ECBも新たな枠組み発表を年末までに行なうようだ。

① ユーロ高についての見解

上述のように、ECB理事達の間でも、最近のユーロ高については意見が分かれているようだ。もし大多数の理事達が懸念を抱いているのであれば、20時45分に発表される声明文の中に、明記されると予想している。その場合は、「最近のユーロ高によりユーロを取り巻く環境は引き締め気味である」という当たり障りのない内容となるのか、或いはもう一歩踏み込み、「ユーロ高により引き締め気味であるため、ECBはいつでも対応する準備がある」と踏み込むのかは、わからない。

もし、なにも明記されなければ、21時30分からスタートするラガルド総裁記者会見で、記者たちから質問が出るであろう。

個人的には、ラガルド総裁はレーン主席エコノミストの考えと同じで、ユーロ高になんらかの懸念を示すのが自然だと思う。常識的に考えても、逆の意見は言えないはずである。もし、全く懸念を示さなければ、マーケットはユーロを買い上げるだろう。

最も厄介なのは、総裁がどのような言葉で懸念を示すかであろう。言葉に説得力がなかったり、記者から想定外の質問が出てしまい、総裁が失言をしたり、選ぶ言葉を間違えれば、ユーロはもっと上昇してしまうリスクもあろう。

やはり前任のドラギ氏のように中銀のトップに立つだけの経験がないだけに、木曜日の記者会見はラガルド氏にとっては、最大の難関となると私は考えている。

② FRBのAITについての見解

上述のFT紙でECB関係者が語っているように、ジャクソンホール・シンポジウムでパウエルFRB議長が発表した平均インフレ率目標(AIT)は、ハト派的内容であった。ECBも年末までに、金融政策の枠組みの見直しを行なうのであれば、どのようなアプローチを取るのか?ラガルド総裁自身、FRBのAITについてどのように感じたのか? たくさんの質問が出てくると予想している。

③ スタッフ予想でのインフレ見通しの下方修正幅

主要国中央銀行は3ヶ月に一度、マクロ経済予想を発表する。ECBの場合は、3・6・9・12月の理事会で発表され、「スタッフ予想」と呼ばれている。

前回6月に発表されたスタッフ予想は、以下の通りである。今回は特に赤い丸をした2022年インフレ見通しの数字に注意したい。

出典: ECB 2020年6月スタッフ予想
https://www.ecb.europa.eu/pub/projections/html/index.en.html

6月の理事会から今週の理事会までの間に、ユーロ実効レートは、3.4%強くなった。

出典: ECB
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

2014年3月6日のECB理事会で、当時のドラギ総裁は、「as a rule of thumb, each 10% permanent effective exchange rate appreciation lowers inflation by around 40 to 50 basis points.ユーロ実効レートが10%上昇すると、インフレ率を0.4~0.5%押し下げる」と語っている。

https://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2014/html/is140306.en.html

これを当てはめると、3.4%のユーロ高であれば、インフレ率は0.13~0.17%の押し下げ要因となる。つまり、6月時点での2022年インフレ見通しは+1.3%であったが、今回の発表では、1.15%前後に変更されると考えるのが妥当であろう。

万が一、この数字が1%を切った場合は、追加緩和実施観測が台頭するため、ユーロ下落の動きには注意したい。

④ PEPP枠の解釈の仕方

PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)は、6月の理事会で6000億ユーロ増額され、総額が1兆.3500億ユーロとなった。

市場で意見が割れているのが、この「1兆3500億ユーロ」という数字は、「上限」なのか?それとも、「あくまでもターゲット」なのか?である。「上限」であれば、1兆3500億ユーロまでECBはPEPPを実施する。あくまでも「ターゲット」であれば、無理に全額購入に充てる必要はない。

ここからのユーロ

最近のユーロやポンドの上昇は、ドル安の裏返しと言われている。そもそもどうしてドル安が目立つのか?最初の頃は、コロナ感染率が「アメリカ>ヨーロッパ」となったことが、理由として挙げられていた。

最近では、実質金利(特に長期金利)に私は注目している。実質長期金利とは、利回りから期待インフレ率を引いた数字である。

最初に5年先期待インフレ率のチャートをチェックしてみよう。4月に底をつけてから大きく改善している。

出典: 米セントルイス連銀 https://fred.stlouisfed.org/series/T5YIFR#0

次は、実質長期金利である。ここではTIPS(米国物価連動国債)の利回りを参考にしている。上の5年先期待インフレ率の上昇を受け、TIPSは下落。つまり、インフレ率を差し引いた金利水準は、大きくマイナス圏に突入しており、これがドル安を加速させたと私は考える。

分かりやすいようにドル・インデックスを同じチャートに載せたが、TIPSの下落と歩調を合わせ、ドルも下落しているのが確認できる。

出典: 米セントルイス連銀 https://fred.stlouisfed.org/series/DTWEXBGS
https://fred.stlouisfed.org/series/DFII10#0

ここからは、(10年物国債利回り動向にも左右されるが、横ばい推移という前提では)

① 5年先期待インフレ率が上昇 → 実質金利下落 → ドル安
② 5年先期待インフレ率が下落 → 実質金利上昇 → ドル高

こういう関係になる。

ラガルド総裁のユーロ高への考えや、今後の追加緩和の有無でユーロは大きく動くことは分かっているが、ECBが身体を張ってとことんユーロ高を阻止してこない限り、ドルの動向を無視してポジションを取っても、そのトレンドは長続きしないかもしれない。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年9月9日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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