スペシャル・トレンドレポート

米ドルの劣化は続く、 米ドル/円は引き続き100円への下落の過程に(西原 宏一氏)

2020年7月29日

1)PPP ローンと米ドル安

7月に入っての米ドルは総じて下落。

今月のドルインデックスのオープンは97.38で7月24日の週の終値は94.43と急落。

ユーロドルは1.1234から1.1656へと急騰(米ドル急落)。

AUDドルは0.6903から0.7105へ急騰(米ドル急落)。

ポンドドルは1.2401から1.2794へと急騰(米ドル急落)。

そして米ドル/円も107.93円から106.14円へと下落。

米ドル全面安。

この米ドル安はもちろん、FRBが実施している金融緩和による米金利の低下が引き起こしているのだが、もうひとつ筆者が注目しているのがPPPローン。

PPPローンとは、PAYCHECK PROTECTION PROGRAMの略で要するに新型コロナウイルスの救済ローンである。

これは基本的に従業員の雇用継続、再雇用促進を目的とする融資。

つまり、コロナにより、営業を停止している米企業が従業員を解雇しないように救済するローン。

基本的には月平均給与の2.5倍を借りることができる。

例えば、給与が毎月3,000ドルだとすると、7,500ドルを借りることができるというものである。

そしてPPPローンの重要なポイントとなるのが、ある一定の基準を満たせば返済しなくてもいいということ。

そのため、多くの企業から申し込みが殺到しており企業によっては億単位で銀行からドルを借り入れ、それを従業員に支払うことができる。

(アメリカの友人によれば企業は間違いなく、従業員に給与を支払っているわけだが、現金を受け取った従業員が米株を買っている可能性はかなりあり、それが米株を押し上げた要因のひとつではないか?とのこと。)

つまりPPPローンという名のもとに巨額なお金がマーケットに投下され、それが米ドルのマーケットをジャブジャブにしているので、結果米ドルの価値を劣化させているのではないか?と推定している。

こうしたことから、今月の米ドルは総じて下落しており、この傾向は当面続くのではないかと想定している。

2)中国指導部の「暴政」を批判、米株が調整局面に入れば、米ドル/円は100円への過程に。

この米ドル全面安の中で、唯一下落が緩慢なのが、米ドル/円。

前述したように今月の米ドル/円は本稿執筆時点でわずか2円弱下落したのみであり、他の主要通貨に対する米ドル急落と比較すると大きく出遅れている。

その要因は、米株の動き。

(NYダウ日足 Bloombergより筆者作成)

米株が底堅く推移している間は「株高、米ドル安、円安」、つまり「risk on相場」が続くため、どうしても米ドル/円の下落は緩慢になる。

見方を変えれば、ひとたび米株が下落に転じると、一転して米ドル/円の下落も加速するということになる。

そして7月も後半になって米株の上値を抑える報道が立て続けに出てきた。

その中身は米中関係の悪化。

まず、米国側ではポンペオ米国務長官の中国批判。

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米国務長官、中国指導部の「暴政」批判-米中関係緊張高まる

ポンペオ米国務長官は23日にカリフォルニア州で演説し、中国指導者を世界的覇権を目指す暴君と位置付け、米中関係緊迫化の中で中国の方向性を批判した。

ポンペオ長官は演説で中国の習近平国家主席について、「われわれが許さない限り、中国の国内外で暴政を行う運命にはない」と述べ、「われわれの自由を中国共産党から守ることが現代の使命だ」と強調した。

さらに、「今ひざまずけば、われわれの子孫は、中国共産党の言いなりになる。共産党の行動は今の自由世界にとって主な挑戦となっている」と指摘し、「自由世界はこの新たな暴政に勝利しなくてはならない」と訴えた。

出所 Bloomberg

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これは2018年10月4日にペンス副大統領がハドソン研究所で行った「中国との冷戦」を宣言した内容に近しいものといえる。特に今回は一昨年の副大統領に続き国務長官もが同様の趣旨の発言をしている点が重要である。

そして、中国側では成都にある米国総領事館の閉鎖。

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中国、米国に成都の総領事館閉鎖を要求-ヒューストン閉鎖に対抗

中国政府は米国に対し、中国南部の四川省成都にある総領事館を閉鎖するよう要求した。中国外務省が24日に声明で明らかにした。米政府が中国にテキサス州ヒューストンの総領事館閉鎖を迫ったことに対抗する措置。

中国外務省は声明で、「中国が講じた措置は、米国の不当な行為に対する正当かつ必要な対応だ」と主張した。中国の報復は想定されており、ヒューストンの総領事館が撤収期限を迎える数時間前に発表された。米国務省はヒューストンの総領事館がスパイ活動や情報活動の拠点になっていたと非難している。

出所 Bloomberg

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マーケットのコンセンサスは、米大統領選を控え、トランプ大統領は米株を反落させるような行動は控えるのではないか?というのが主流だが、こうした報道が続くと、米株は調整を深める可能性が高まる。

筆者が7月に入ってから一貫して、米株は調整の可能性が高くなっていると考えるのは、ナスダック総合指数が史上最高値を更新しているにも関わらず、S&P500指数とNYダウは史上最高値までほど遠い状態にあるからである。

つまり、米株は市場間でダイバージェンスが起きている。

これまでは、ナスダック総合指数が下落して調整される傾向が強く、今回も同様になると想定しているため(つまり、ベアリッシュ・ダイバージェンス)、このダイバージェンスを解消するためには、NYダウが前回の高値29,568ドルを抜いていかなければならない。

しかし、本稿執筆時点(7月25日)のNYダウは26,469ドルで引けており、これを上抜いていくのは、かなり難しいのではないかと想定している。

また米株については米大手米銀のモルガン・スタンレーもリスク資産への投資に対して警告している。

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向こう2カ月間に市場に迫るリスクに対し、投資家は不用心過ぎる可能性があると、モルガン・スタンレーのストラテジストらが指摘した。

アンドルー・シーツ氏率いるモルガン・スタンレーのストラテジストは17日付のリポートで、株やクレジットにとって季節的に低迷する8ー9月の「危険ゾーン」に備え、投資を縮小するよう助言した。この時期は米大統領選挙への注目も高まるほか、経済の前向きなサプライズが発表される「異例な」状況が緩やかになる可能性も高いという。

同リポートは「今後2カ月間は前向きな材料が先細り、季節的にもかんばしくない。さらに短期的なリスクも表面化する」と指摘、現金保有の引き上げや債券市場でのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)指数の保証購入を推奨した。さらに欧州資産がアウトパフォームする可能性がより高いとして、これに注目するよう助言した。

出所 Bloomberg

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このように米株を取り巻く環境は徐々に悪化しており、米株が反落に転じると、これまで下げ渋っていた米ドル/円も一気に反落に転じると考えている。

ここで米ドル/円の日足チャートをチェックしてみよう。

(米ドル/円日足 Bloombergより筆者作成)

今年の米ドル/円は新型コロナの感染拡大で急落し、3月には一時101.19円まで急落しているが、チャートの重要な節目は104.00円レベル。

というのも、3月初旬に104円を割り込んだことから、米ドル/円は101円まで急落したが、その後は急反発。104円台を回復すると米ドル買い戻しが殺到し、1週間ちょっとで111円台まで急反発している。

このため、今回の米ドル下落相場もまず104.00円を割り込むのに一定の時間を要するかもしれないが、割り込むと一気に100円台へと急落する可能性が高まっており要注意である。

新型コロナ対策のPPPローンの拡大や、米中関係の緊迫化による米株の重さなど、米ドルを取り巻く環境は日に日に悪化しており、米ドルの下値は拡大したままである。100円への下落の過程にある米ドル/円の動向に注目。

西原 宏一氏プロフィール

西原 宏一(にしはら こういち)
株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。

本記事は2020年7月29日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、西原宏一氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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