スペシャル・トレンドレポート

パンデミック後の経済、 ヨーロッパの1人勝ちとなるのか?(松崎 美子氏)

2020年7月8日

私が住む英国では、7月4日から一部のホスピタリティー産業を除くほとんどの店がオープンした。ロンドン中心部のパブは午前6時からオープンし、店に入りきれない客が道路にあふれ出し、車の通り抜け出来ない道路がいくつも出たと報道されている。

英国より1ヶ月以上早くロックダウン解除に動いたヨーロッパ。今年後半は、ヨーロッパ経済の1人勝ちを予想するエコノミストが増えてきている。今回のコラムでは、そのあたりに焦点を絞って調べてみたい。

財政支援の実現?

5月18日に突如として、メルケル首相とマクロン大統領との共同記者会見で発表されたEU復興基金案。6月中旬に開催されたEUサミットでは合意できず、7月17/18日の臨時EUサミットで、あらためて協議される。

この案は、パンデミックで困っている国への直接的な金銭支援ということだけでなく、「欧州全体で債務の共有に踏み切る」最初の一歩となることが重要である。パンデミックが悪化した頃に話題となったコロナ共同債(ユーロ債)とは仕組みが違うが、広義の債務の共有という位置づけでは同じであり、実現すれば欧州の連邦化に向け大きな1歩になると私は考えている。

臨時EUサミット

https://www.consilium.europa.eu/en/meetings/european-council/2020/07/17-18/

7月17/18日に臨時EUサミットが開催される。今年の2月以降初めて、テレ・カンファレンスではなく、全員が会場に集まるサミットとなるようだ。

欧州委員会フォンデアライエン委員長は、このサミットでEU復興基金と7年間に及ぶ中期予算案の概要で合意しなければ、7月にもう一度 臨時サミット開催の可能性をほのめかしている。

7年間の中期予算案とは?

2009年のギリシャ債務危機を経験したヨーロッパは、毎年の予算案に加え、7年間にわたる中期予算案も同時に設定している。

現在は2014〜20年の7年間予算の最後の部分であり、次は2021〜27年の予算案に移行。そのため、遅くても今年の秋頃までに中期予算案の全内容で合意し、欧州議会で承認。その後、年末までに加盟国全てが批准作業を終了し、晴れて2021年から新しい7年間がスタートするという仕組みである。

同委員長によると、今回のEU復興基金は2021〜27年の中期予算案に組み込まれるため、遅くとも夏休みに入るまでに合意することが重要であると強調しており、7月17/18日のサミットで合意できなければ、7月中に2回目の臨時サミット開催の必要性を訴えた。

EU復興基金に反対する国々

この復興基金は、一部を金銭としての直接支援。一部を融資という形で構成されている。オランダ・オーストリア・スウェーデン・デンマークの4ヶ国は、金銭支援の部分に反対している。スウェーデンに至っては、パンデミック支援を必要としているのは、ユーロ加盟国であり、どうしてユーロに加盟していない自分達がわざわざ金銭的に支援しなければいけないのか、納得がいかない様子である。

この基金は、EU27ヶ国全ての合意が必要であり、この4ヶ国が首を縦に振らない限り、実現は不可能。そのため、7月中のEUの合意作業からは目が離せない。

欧州中銀、超緩和金融政策の継続

2008年の世界的金融危機以降、ヨーロッパ経済を支えてきたのは欧州中銀(以下、ECB)の緩和策である。そしてパンデミック発覚以降も、ECBはあらゆる手段を使い、経済を支えてきた。その中でも賛否両論分かれているのが、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)である。

PEPPは、以前から継続しているPSPP(公的部門買入プログラム)とほぼ同じ内容であるが、決定的な違いがある。

それは、PSPPはキャピタル・キー*を順守して実施されているが、PEPPはこれを無視して行なわれている点である。

https://www.ecb.europa.eu/mopo/implement/pepp/html/pepp-qa.en.html

*キャピタル・キーとは?

https://www.ecb.europa.eu/ecb/orga/capital/html/index.en.html

ECBが実施しているQE策での債券買い入れでは、加盟各国のECBへの出資比率に基づき行なわれるという規定

緊急時だから仕方ないだろう…ということで今まで来たが、最近の経済指標改善を受け、一部のECB理事達が異議申し立てを始めていることが、6月のECB金融政策会合議事要旨で判明した。たぶんこの理事会の分裂について、7月16日のECB理事会でのラガルド総裁記者会見でも、記者から質問が出ることが予想される。

理事達の分裂は大雑把にいうと2つに分かれている。一部の理事達は、キャピタル・キーを無視して無制限で加盟国の国債を購入することになれば、EU法で定められている「財政ファイナンス・ルール」に抵触するリスクが出てくるという意見。しかし、他の理事達の間では、戦後最大の緊急時であるため、柔軟性を重視しなければ、共倒れになってしまうという考えのようだ。

米株売り/欧州株買い

6月末くらいから、アメリカではコロナ感染の第2波と思われる動きが出てきた。コロナ初期では、イタリアやスペイン、英国での感染が酷かったが、最近のアメリカでは全人口の40%が住む州で、新たなロックダウン突入ということである。

そこで第2波の影響を受けず、金融政策だけでなく財政支援への期待感が高いヨーロッパに、投資家達は目を向けたようだ。

6月末、世界最大の資産運用会社:ブラックロックは、半期見通しにおける投資戦略の変更を発表。そこでは、アメリカ株をニュートラルとし、欧州株をオーバーウェイトに格上げしている。

アメリカをニュートラルに下げた理由として、財政刺激策がそろそろ時間切れとなる点。コロナ第2波のリスク。そして米中問題を挙げていた。

欧州株をオーバーウェイトにした理由は、ロックダウン解除後の景気浮揚に対する期待感。サイクル分析でも景気回復期待が大きそうである。

大手銀行、ヨーロッパいちおし推奨

ヨーロッパをいちおししたのは、ブラックロックだけではない。他の金融機関も、EU復興基金が実現し、コロナ第2波の影響が少ないヨーロッパが、今後は1人勝ちするだろう。だからユーロは上昇するという予想を、顧客に伝え始めたようだ。

果たしてこの予想通りとなるのか?今年下半期が楽しみである。

レーンECB主席エコノミスト、慎重姿勢崩さず

これらの金融機関のヨーロッパいちおし予想と比較すると、ECBのレーン主席エコノミストが、ロイター社のインタビューに答えた内容が、やけに慎重である。

レーン氏によると、最近発表される経済指標がV字回復となっているが、戦後最悪の落ち込みを見せた後は、良くなって当たり前であり、改善された数字が本来の姿を映し出しているのかは、まだまだわからないと語っている。

そして、これだけ経済が縮小すると、危機以前のレベルに戻るには、相当長い時間がかかるだろうとしており、その理由の1つとしてソーシャルディスタンシングによる制約などが、需要とサプライ両方の重石となり、景気復興の妨げになるという考えであった。

このように未だ楽観できない状況下では、財政面からの大型支援策となるEU復興基金が実現されれば、消費者の信頼感に良い影響を及ぼし、今後のユーロ圏経済に与える影響は計り知れないとも語っていた。

ここからのユーロ

金融政策、財政面両方から大規模な支援への期待。そして、コロナ感染第2波のリスクが低いのであれば、当然投資資金はヨーロッパに集まってくるだろう。

私も素直にその波に乗りたいのは山々であるが、過去のECB理事達のユーロ高けん制発言が頭に浮かび、なかなか素直になれない。

これは、一番最近のユーロ高けん制発言であるが、2018年の年初早々、数名の理事達が100を超えたあたりで発言していた。

出典: ECB
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

これ以降、総裁も代わりECB内部のユーロの価値に関する考えも変化したかもしれないので、あまり臆病にならない方がよいのかも?と自分に言い聞かせている。

ユーロ/ドルの週足チャートで見ると、執筆時は青い線で描いた200週SMAで何度か頭を押さえられており、これが綺麗に上抜けすると、ユーロ実効レートも101台に近くなるようなイメージである。

もしユーロ買い/ドル売りをするのであれば、損切りは1.11ミドルの下を意識し、最初のターゲットは、水色の線を引いた1.15台であろうか?

強気の銀行は、年末までに1.20を予想し始めているようだ。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年7月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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