スペシャル・トレンドレポート

米独の金利差大幅縮小もあり、 「ユーロ/米ドル」ゆるやかに底入れへ(竹内 のりひろ氏)

2020年7月3日
チーフディーラー :「今年もはや後半戦、コロナショック時の動揺を除けば今年も為替市場は相場らしい相場もない。「ユーロ/米ドル」、この先の見通しはどう?」
アシスタント・マネージャー :「欧州復興基金の設立も、実現の道のりも遠いですね。ただ欧州と米国の金利差縮小という点では、ユーロ買いに大きな援軍となります」
チーフディーラー :「具体的には?」
アシスタント・マネージャー :「政策金利のすう勢を反映する米独の2年債の金利差は、2018年11月には約30年ぶりの水準まで拡大(注)していましたが、足元で大幅に縮小、こちらは「ユーロ/米ドル」の買い要因となります」

(注)米独の金利差の拡大は、米ドルの買い要因、一方で縮小は逆にユーロの買い要因。後半部分で詳細に。

今年5月、ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領が、コロナ後の欧州景気を下支えするために復興基金の設立を提案した。しかし、6月18日(木)~19日(金)に開催されたEU首脳会議では、北部欧州の倹約4か国といわれるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンが反対しており、一枚岩と呼べる状態に程遠い。

「ユーロ/米ドル」は、早期の復興基金の設立を織り込み、6月10日(水)には、3月10日(火)以来の高値1.1422まで上昇する場面もみられたが、その後はさえない。6月第2週以降は、それまでの急速なユーロ買いの反動で調整局面入りとなった。「ユーロ/米ドル」、はこのところ相場らしい相場がないが、市場のマグマは上下どちらの方向に蓄積しているのだろうか。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

欧州復興基金をめぐる行方、現実的には、財政的に余裕のある北部欧州の国から、財政的に厳しいスペインやイタリアなど南欧諸国への所得移転という側面が非常に強い。さらにこの復興基金、返済を要する融資ではなく、返済義務のない財政支援であることから、上述の倹約4か国などからの反発を招いている。基金の設立には、加盟国(注)全ての同意が必要で、実現のハードルは高い。

(注)2020年に英国が離脱、現在の加盟国は27か国。

ただ、7月以降の展開を考えると、議長国がドイツとなりメルケル首相が議長となり振出しに戻る。メルケル首相はすでに引退を表明していて、この「債務の共同化」に最後の政治生命をかける。ここにきて、7月の会合での合意に向け、複数のEU首脳から前向きな発言が出てきたことは援軍で、基金の配分等を調整しながら、最終的には合意に至る可能性は高い。

市場は、それまでに発表される可能性の高い欧州委員会の修正案や、反対国の説得や意見集約に注目する。これまで、最終的な合意を織り込むかたちで、欧州で一番信用力の高いドイツの10年国債とイタリアの10年国債の金利差は縮小(注)傾向で、こちらは「ユーロ/米ドル」では買い要因となる。

(注)金利差の縮小はユーロ圏域内の信用格差の縮小からユーロ買い要因、一方で、拡大は信用格差の拡大からユーロ売り要因。

チャート:筆者作成
※独と伊の10年債金利差は軸を反転

米国の中央銀行であるFRBは、6月9日(火)~10日(水)に開催したFOMC(注)でマイナス金利の採用は見送ったものの、少なくとも2020年末まで、事実上のゼロ金利政策を維持すると発表した。同時に、2月以降の金融市場の混乱に直面したことで決定した無制限の量的緩和の継続も表明していて、前例のない資金供給が続く。

(注)連邦公開市場委員会、米国の金融政策を話し合う会合。

未曽有の金融危機をまねいたリーマンショック後の経済の混乱に対応するため、FRBは2008年に量的緩和を開始、約3兆ドルの国債や住宅ローン担保証券などを買い入れるのに約5年を要した。今回のコロナショック後の量的緩和では、約3兆ドルを買い入れるのに要した期間はわずか4か月あまりと、空前絶後の規模で量的緩和が進行する。

一方で、欧州で金融政策をになうECB(欧州中央銀)も緩和モードを強めるが、すでにマイナス金利は十分深掘りしていて、ここからの緩和余力は小さい。かつてRBNZ(NZ準備銀)に在籍したレオ・クリップナー氏が公開する「影の政策金利」からは、ECBの緩和余力はほぼ無く、この先のFRBの緩和余力に大きく見劣りする。

こうした緩和余力の差は、「金融政策の限界」が意識されることから、どうしてもこの先「ユーロ/米ドル」には上昇圧力がかかることになる。

チャート:FRBより筆者作成

チャート:レオ・クリップナー氏のHPより筆者作成

米国では、約3兆ドルの新型コロナの経済対策を発表済みで、この先、この資金をねん出するため、大幅な国債の増発に踏み切る。多額の国債の発行から、債券価格には下落圧力、結果、金利には上昇圧力がかかりやすい。こうしたなかで、FRBは日銀が採用するYCC(イールドカーブ・コントロール)の議論を開始している。

中長期の金利に上限を設ける政策で、マイナス金利の採用を繰り返し否定しているだけに、この先の政策手段としては有力視されている。ただ足元では、5年債金利では政策金利付近まで低下していて、この年限にYCCを採用したのでは政策効果は限られる。仮に10年債に導入するとなると、誘導水準にもよるが、大きな政策効果が見込まれる。

すでに、政策金利のすう勢を反映する米独の2年債の金利差は、2018年11月には約30年ぶりの水準である3.59%まで拡大していたが、足元では0.85%と大幅な縮小をみせる。3.59%とは、立派にキャリートレードが成立する金利差で、2018年以降の「ユーロ/米ドル」の下落の原動力となるものであった。しかし、今はその巻き戻し局面の真っただ中となっている。

以上をまとめると、欧州復興基金の設立には、この先の紆余曲折も想定されるが、助成金の割合の引き下げや配分の内容などを調整して、合意に至る可能性が高い。FRBとECBの緩和余力の差から、米独の金利差は拡大局面にはなく、この先一段の縮小が見込まれる。「ユーロ/米ドル」は、緩やかに底入れの時をむかえようとしている。

チャート:BOEより筆者作成
※米独の2年債金利差は軸を反転

竹内 のりひろ氏プロフィール

竹内 のりひろ(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年7月3日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内のりひろ氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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