スペシャル・トレンドレポート

10月が新たな「交渉期限」となるのか?(松崎 美子氏)

2020年6月10日

英国に住む身として、今月はなんとなく落ち着かない。パンデミックのロックダウン一部解除後の自分の生活も気になるが、やはりBrexit交渉の行方が最も心配だ。

今回のコラムでは、6月末の交渉期間延長要請期限に向け、どのような動きが予想されるのかに焦点を当ててみたい。

6月末までのタイムライン

まず最初は、今月末までのタイムラインを紹介しよう。

パンデミックが起こるまでは、6月19日は「Brexitサミット」という認識であった。しかし、ヨーロッパでのパンデミック後の復興基金案が出てからというもの、このサミットはすっかり「EU復興基金サミット」と化している。

同時に、このサミットは6月18/19日の2日間に渡り開催される予定であったが、つい最近になり、6月19日のみに変更された。

https://www.consilium.europa.eu/en/meetings/european-council/2020/06/19/

たった1日だけのテレ・カンファレンスで、果たしてどのくらいの時間をBrexitに割いてもらえるかは不明であり、私は全く楽観していない。実際、EUの対英関係担当部署の報道官も、「サミットでの重要事項は、Brexitではない。」という趣旨の発言をしている。

唯一の希望は、交渉官同士の交渉では全く前進がないため、政治的解決に向け、サミット後にボリス・ジョンソン首相(以下、ボリス)はブリュッセルに飛び、フォンデアライエン委員長、そしてミシェルEU大統領も加わり、対面での協議を行なうという話しが出てきている。

昨年10月にも、ある朝突然、ボリスとアイルランドのバラッカー首相が2者会談をし、Brexitの期間延長に合意した事実があるため、今回のボリスの動きには注意が必要である。

あるシンクタンクの調査結果

the UK In A Changing Europe という英国とEUとの関係をメインに研究しているシンクタンクが、5月19日に行った調査結果を紹介しよう。

https://ukandeu.ac.uk/research-papers/anticipating-and-meeting-new-multilevel-governance-challenges-in-northern-ireland-after-brexit/

100名の社会科学者を対象に行なわれた調査では、

  • 71%が、年内に合意すると思わない

  • 53%が、最終的になんらかの延長が行なわれると予想

  • もし期間延長がなされなければ、80%が、英国が受ける打撃は予想以上に大きいと考える

  • 76%が、今後10年間で、英国に続いてEUを離脱する国が出るとは思わない

驚くことに、71%の社会科学者は、年内合意はないと見ている。

このシンクタンクは、昨年10月にも同様の調査をしており、その時には、「10月末の離脱時期は、必ず延長される」と予想し、見事にその通りになった。そのため、今回もこの調査結果への注目度は高い。

合意なき離脱に備えよ!

6月2日夕方、英中銀ベイリー総裁は英国大手銀行のトップを集め、テレ・カンファレンスを行なった。そこで同総裁は、「合意なき離脱の場合に備え、きちんと計画し準備をするよう」通達したそうである。

ここで言う準備とは、いざと言う時の場合に備えた資本増強と言うよりも、金融パスポートがなくなり英国の銀行・保険業界・投資顧問などの営業が難しくなることに備えた準備。そして、実際に合意なき離脱となれば、マーケットのボラティリティーが高まることが考えられるため、それに対する準備ということであろう。

コンセンサスとしては、資本増強と金融パスポート問題については、既に準備に動いているが、マーケットのボラティリティーをうまく乗り切れるかについては、定かでない。

このニュースが出たのは6月2日夜であったが、この日はEUと英国の貿易交渉スタート初日であり、マーケット関係者の間では、「今回の交渉も、あまりうまく行かないのだろう・・・」 という憶測が出て、一瞬ボンドが緩んだ。

Brexit交渉、最大の問題点

最近になり、EUも英国も若干の譲歩を見せはじめている。例えば、今回の交渉のメイン・トピックであった漁業権についても、徐々に歩み寄りを見せているという話しが聞こえてくる。

これはあくまでも私の個人的な見解であるが、EUと英国が絶対的に合意できないのは、「法律問題」ではないか?

今年1月末にEUを離脱した英国にとっては、英国最高裁の判決が全てであり、欧州憲法裁の影響は受けないとしている。

しかし、EUとしては、今後英国との間で何か問題が起きた場合、どうしても欧州憲法裁の出番があるため、この点は柔軟に対応して欲しいという意見である。

ここがきちんと解決されない限り、いざ問題が起きた時に解決方法がない。貿易も関税も漁業権も金融パスポートも、問題があれば誰がそれを裁くのか?この決定がない限り、本当の合意と呼べるのかは、個人的に疑問である。

英国は期間延長を要請するのか?

昨年12月の総選挙で、ボリス率いる保守党は大勝した。この直後に、政府は既存のEU離脱協定法案に、①移行期間の延長なし、②英国の裁判所は、EU憲法裁の判決を破棄する権限がある。この2項目を加えた。そのため、交渉期間延長を要請するのであれば、最初にこのEU離脱協定法案の改正が必要となる。

もちろん、保守党は80議席のマジョリティがあるので、法改正は簡単にできると思われるかもしれないが、話しはそこまで簡単ではないだろう。保守党議員のうち、約30~45名が「Brexit強硬派」と呼ばれる人たちで、これらの議員は延長にはNOを突きつけることが予想される。

問題は、昨年総選挙で立候補する保守党議員全員が、「当選したら、ボリスの政策には、必ず従う」という条件を受け入れた。つまり、次の総選挙が実施される5年後まで、全ての法案での採決で党議拘束(Whip)がかかり、保守党議員たちはボリスが望む内容に「賛成票」を投じなければならない。

もし、ボリスが最後の最後で延長に合意し、EU離脱協定法案の改正案が議会に提出された時、果たして強硬派議員は、保守党議員として残ることを選ぶのか?それとも、Brexit強硬派として信念を貫くのか?非常に興味深い事態が起きるだろう。

万が一、彼らが保守党を離党してでも強硬派としての信念を貫くのであれば、ボリス率いる保守党のマジョリティは、ゼロとなるリスクがあり、新たな政局不安が英国を襲うことになりかねない。

新たな期限:10月中旬/下旬?

最近、EUと英国両方の関係者発言や報道で目に付くのが、「7月以降もこのまま協議を継続し、(夏休みが終わった)9月から集中的に協議をする」という案である。6月5日の記者会見でも、バルニエ主席交渉官は、「NEW UK DEAL MUST BE SEALED BY OCT.31 AT THE LATEST EUと英国との(漁業権なども含む)全ての交渉は、遅くとも10月31日までに合意されなければならない。」と語っている。

もし新たな期限として、「10月中/下旬に変更」が確認されれば、今後のタイムラインはこんな感じになりそうだ。

ここからのポンド

これだけ悪い材料が揃っているのに、ポンドが大きく上昇している。これについて、日本の個人投資家さん達から何度も質問を受けているが、ドル安の反動という答え以外、申し訳ないが見つからない。私自身は現状でのポンド買いには抵抗があるため、自分が違和感のある相場には、参加しないことにしている。

これはあくまでも私自身の考えだが、ボリスのここからの選択肢としては、①交渉期間延長せず、12月31日までになんらかの合意が得られるように動く。最悪の場合は、合意なき離脱の可能性も視野に入れる、②延長せず、10月末までの合意に向け、死に物狂いで頑張る、③延長せず、早々と合意なき離脱を決め、交渉を早めに終了。空いた時間を準備に使う、④最後の最後に短期間の延長を決める。この4つしかない。個人的には、④の可能性はかなり低く、出来れば②が実現してくれることを祈っている一人だ。

最後に通貨の動きを見てみよう。これは、今年年初からのユーロとポンド、それぞれの実効レートのチャートであるが、ユーロは年初のレベルから大きく上昇。それに対して、ポンドは年初レベルから大きく下落し、最近徐々に戻りかけている最中である。

出典: 欧州中銀、英中銀
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html

https://www.bankofengland.co.uk/boeapps/database/fromshowcolumns.asp?Travel=NIxAZxSUx&FromSeries=1&ToSeries=50&DAT=RNG&FD=1&FM=Jan&FY=2010&TD=11&TM=May&TY=2025&FNY=Y&CSVF=TT&html.x=66&html.y=26&SeriesCodes=XUDLBK67&UsingCodes=Y&Filter=N&title=XUDLBK67&VPD=Y

悪い材料を織り込んだポンドが、遅ればせながらユーロに追いつき追い越すのが、いつになるかはわからないが、今月末のボリスとフォンデアライエン委員長、ミシェルEU大統領との会談で、なんらかの好材料が出れば、ポンドはもう一段の上昇もあるだろう。

一旦、目先はポンド円の135.50辺りまでの戻しがあると考えている。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年6月10日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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