スペシャル・トレンドレポート

マイナス金利の採用が高まる英国、「ユーロ/英ポンド」底堅く推移へ(竹内 典弘氏)

2020年6月5日
チーフディーラー :「令和2年は、春先からグローバルで金融市場が動揺したけど、今年もそろそろ中盤、注目の通貨はありそう?」
アシスタント・マネージャー :「う~ん、そうですね、「ユーロ/英ポンド」でしょうか」
チーフディーラー :「もちろん、上昇を予想しているのだろうけど、理由は何?」
アシスタント・マネージャー :「ユーロ圏を代表する2通貨ですが、背景の違いが鮮明なので…。欧州では復興基金の設立が視野に入ります。英国は、EUからの離脱期限を延長するつもりもないようですし、中央銀行がマイナス金利を採用する可能性があります」

4月30日(木)、直近安値の0.8671まで売られていた「ユーロ/英ポンド」は、一旦底入れ、その後は反発局面入りとなった。5月15日(金)、英国とEUの3回目のFTA(自由貿易協定交渉)が物別れに終わり、英ポンドは急落、「ユーロ/英ポンド」は0.8940までの上昇をみせた。それ以降も堅調推移は継続、29日(金)には直近高値0.9055を示現している。

その後は、米系ファンドから比較的まとまった利食いが持ち込まれたこともあり反転下落、ただ足元では0.89付近で底堅い動きが続く。上述のアシスタント・マネージャーによれば「欧州を代表する2通貨は、背景の違いが鮮明」だという。では、「どう鮮明」なのだろうか。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

ユーロ圏の新型コロナウイルスの感染者数は100万人を超えたが、人口10万人当たりの感染者数や死者数は、ここまで大きくピークアウトしている。欧州で、感染の拡大を最小限に食い止めたドイツでは、一足早く経済活動の再開、商店などの営業などを許可する緩和策を発表している。

欧州で、最初にロックダウン(都市封鎖)を決めたイタリアも、6月3日(水)から全土での自由な往来が可能となる。商店やレストランが休業、景況感の悪化から、ユーロ圏の製造業PMI(注)は歴史的な悪化をみせた。足元で5月の結果は、好不況の節目である50を依然下回るものの一旦底入れ、景況感は徐々に回復基調にある。

(注)購買担当者景気指数、企業などの購買担当者への聞き取り調査の結果。経済指標では、景気の先行指標。

チャート:Markitより筆者作成

5月18日(月)、ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領はバーチャル形式の共同記者会見を開き、復興基金の設立を提案した。欧州景気を下支えするために、EU内で意見対立が広がるなかで、結束を強く印象付けた。4月のEU首脳会議では設立で意見を一致させていたが、その規模や配分をめぐり意見集約は出来ずにいた。

その後、27日(水)には、欧州委員会が基金案を提示、①規模では7500億ユーロ、②内訳は5000億ユーロが返済の必要のない(イタリアなどの南欧への)助成金、③2500億ユーロが融資と増額された。金融市場は、こうした発表をここまで好感、欧州で一番信用度の高いドイツ国債とイタリア国債の金利差は大幅に縮小(注)、こちらはユーロの買い要因となる。

(注)イタリア国債対独スプレッド、金利差の縮小は欧州域内での信用格差の縮小からユーロの買い要因、一方で、金利差の拡大は信用格差の拡大からユーロの売り要因。

ただこの基金、ドイツとフランスが提案したものの、復興基金の実現にはユーロ圏加盟国27か国のすべての動意が必要となる。すでに、オランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンなどの財政健全な北部欧州は反対を表明していて、実現には紆余曲折も予想される。

チャート:筆者作成

新型コロナウイルスの感染拡大から、2月下旬以降、グローバルで金融市場は大きく動揺した。3月に入り英国の中央銀行であるBOE(イングランド銀行)は、2度の利下げを実施、政策金利を史上最低水準の0.10%まで引き下げた。さらにここにきて、BOEメンバーから、将来のマイナス金利の採用に前向きな発言が相次いでいる

カーニー総裁の後を継いだベイリー新総裁は、3月の就任時の議会証言では、「マイナス金利は、我々にとり適切な政策ではない」と発言していた。しかし、その後5月20日(水)、英議会で再度質問を受けた同総裁は「いかなる政策もBOEは排除しない。どう政策を適合させるかが重要だ」と述べ、マイナス金利の導入を排除しない姿勢をみせた。

前後して、テンレイロ委員や、チーフエコノミストをつとめるホールデン氏などからも同様の発言が相次ぎ、BOEのマイナス金利をめぐる議論が一気に活発化した。こうしたなかで、政策金利の動向を色濃く反映する英国の2年国債は、5月に入り史上初めてマイナス圏に突入した。さらに、20日(水)には、3年国債の入札までもが、マイナス金利で成立している。

こうした一連の動きを受け、6月18日(木)のBOEの次回の金融政策委員会でのマイナス金利の可能性が高まりつつある。英国の金利の低下を受け、欧州を代表するドイツと英国の2年国債の金利差は、年明け以降は大きく縮小、為替市場では、この金利差縮小の影響から、足元で「ユーロ/英ポンド」は底堅く推移する。

チャート:筆者作成

グローバルに目を転じると、主要国でここまでマイナス金利を採用してきた国(地域)はスイス、スウェーデン、欧州、日本があげられる。これらに共通するのは経常黒字国(圏)で、マイナス金利を採用しても、通貨の魅力の低下はあっても、国内からの資金流失は免れた。

英国の場合は、経常赤字国で、海外からの継続的な資金流入がないと、自然と通貨安に転じてしまう。多くの新興国と同様に、英国も金融市場で相対的に高めの金利を提示する必要がある、こうした背景もあり、市場関係者のなかには「英国でマイナス金利が採用されるハードルは極めて高い」と指摘する声も多い。

以上をまとめると、今月6月のBOEの会合でマイナス金利が見送られる可能性もあるだろう。上述のように、足元でBOEの政策金利は0.1%まで引き下げられていて、ここからの政策変更の余地は乏しい。ただ、この先もBOEのマイナス金利の採用観測がくすぶり、英金利の低位安定から、「ユーロ/英ポンド」は当面底堅く推移するとみている。

チャート:BOEより筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年6月5日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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