スペシャル・トレンドレポート

ドイツ司法裁判所の判決を巡り揺れる欧州(松崎 美子氏)

2020年5月13日

日本でも報道されていると思うが、ドイツ司法裁判所が、欧州中銀(以下、ECB)が2015年3月に導入したPSPP(国債購入を含む量的緩和策)の一部に対し、違憲判決を下した。

最初はドイツ司法裁とECB間の問題であったが、欧州委員会が正式に判断を下したことを受け、メルケル首相も動き出しそうな気配がする。

ドイツ司法裁からの判決

https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/EN/2020/bvg20-032.html

今回の判決は、ECBが2015年3月に導入した「Public Sector Purchase Programme(PSPP、公的部門資産購入プログラム)」についてである。FXをはじめて間もない方のために簡単に説明すると、PSPPが導入される以前からECBは量的緩和策として、資産担保証券(ABS)やカバードボンドの購入を行なっており、PSPPの購入対象となる加盟国の国債については、財政ファイナンスのリスクがあるということで、導入までに時間がかかった。

今回の判決は3月下旬に発表予定であったが、COVID-19の影響で5月5日まで延期されたいきさつがある。

発表された判決文内容をまとめると、

「ECBのQE策は、財政ファイナンスとは見なされない。しかし、ドイツ司法裁は、ECBの拡大資産購入プログラム(APP)の一部に合憲性の点で疑問を持っている。そして、これらの内容は、ドイツ憲法では合憲性に欠け、EU基本条約に沿っていない政策でもあると考える。そこでドイツ司法裁としては、ECBが実施しているQE策がEU基本条約に100%沿っていることを、3ヶ月以内に証明することを希望する。それができなければ、ドイツ連銀はECBのQE策に参加しない可能性が出てくる。 今回の判決は、コロナ対策に関連する政策は、対象としていない。」となっていた。

ECBからの返答

https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2020/html/ecb.pr200505~00a09107a9.en.html

ECBは判決が出された当日の夕方に非公式会合を開催し、即答している。

「The Governing Council remains fully committed to doing everything necessary within its mandate to ensure that inflation rises to levels consistent with its medium-term aim and that the monetary policy action taken in pursuit of the objective of maintaining price stability is transmitted to all parts of the economy and to all jurisdictions of the euro area. The Court of Justice of the European Union ruled in December 2018 that the ECB is acting within its price stability mandate.」

最後に書いてあるが、「2018年12月に欧州憲法裁が判決を下した通り、ECBは物価安定の維持の責務に基づき行動している」という答えだけであった。

たぶん3ヶ月待ってもECBは、これ以上の答えは返さないであろう。

ドイツ連銀の立場

果たして、ドイツ連銀はどうするのだろうか?マーケットでのコンセンサスは、ドイツ憲法に従うことになり、このままで行くとPSPPに参加できなくなるリスクを挙げている。

(ドイツ連銀が不参加になると) 今までドイツ連銀が買っていた国債は、誰が買うのか?ECBが一括して代理購入するのか?それとも、ECBと他の加盟各国中銀が手分けして、買い支えることになるのか?今のところは、誰にも正解はわからない。

欧州委員会からの発表

ドイツ司法裁とECBとのやりとりに対し、ドイツ政府がどういう動きを仕掛けてくるのかを見守っていた矢先、驚きの発表が5月10日夜に出てきた。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/STATEMENT_20_846

フォンデアライエン欧州委員会委員長からの発表である。ちなみに、フォンデアライエンさんご自身もドイツ人であり、この発表をするのは辛かったろうと思われる。

発表の要点は、以下2点。

EU法 > 加盟各国の法律

「that EU law has primacy over national law and that rulings of the European Court of Justice are binding on all national courts. The final word on EU law is always spoken in Luxembourg. Nowhere else.」

ここで欧州委員会は、「EU法は、加盟各国の法律を超える権限がある。欧州憲法裁の判決は、加盟各国の裁判所への法的拘束力がある。EU法に関する最終決定は、(同憲法裁がある) ルクセンブルクのみである。」と語った。今回のドイツ司法裁の決定よりも、欧州憲法裁の判決のようが権限大であり、身の程知らずも甚だしいというニュアンスが見受けられた。

ドイツ司法裁を相手に訴訟?

驚いたことに、欧州委員会はドイツ司法裁を相手取って、訴訟を起こす可能性を示唆した。

「We are now analysing the ruling of the German Constitutional Court in detail. And we will look into possible next steps, which may include the option of infringement proceedings.

欧州委員会はドイツ司法裁の判決内容を分析中である。この作業が終わり次第、次のステップを検討する。場合によっては、(ドイツ司法裁に対する)訴訟もあるだろう」

本当に訴訟に動くのかは定かではないが、これをきっかけに他のユーロ加盟の裁判所も同様の動きに出るとユーロ崩壊リスクが出てくるため、欧州委員会は予想以上に強気の動きに出るかもしれない。

フォンデアライエン委員長は、「The European Union is a community of values and of law, which must be upheld and defended at all times. This is what keeps us together. This is what we stand for.  EUは絶対に破られてはならない同一の価値観と法に守られた共同体である。これがEUを1つにまとめており、それを守るために我々は死力を尽くしている」とも語っており、ユーロ統一の乱れをかなり気にしているように見受けられた。

ユーロに与えるダメージ

ドイツ司法裁が判決文を発表した日、イタリア国債の利回りが上昇した。その理由は、PSPPに問題があるのなら、今年3月に発表されたPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)も、ドイツにとって違憲と見なされてしまうのでは?という疑問が生じたからである。当然、ユーロにも良い材料ではない。

上述のように、「ECBはこれ以上の返答をしないだろう・・・」と書いたが、もしECBがドイツ司法裁からの3ヶ月以内に証明するという要請に従った場合、自らの非を認めたことになる。その場合、今後ECBが政策変更に動く時は必ずドイツ司法裁にお伺いを立てなければならなくなる。そうなると、ECBの独立性そのものに疑問符がついてしまう。

ドイツ司法裁の判決が出た当初は、ドイツ連銀のPSPP参加の有無が問題であった。しかし、欧州委員会が正式にあのような声明を発表したことを受け、加盟国相手に訴訟も辞さないという恐ろしい話しになりかかっている。

たぶんであるが、ドイツ政府がなんらかの仲介役を引き受けない限り、泥沼化しかねない。

ここからのユーロ

先週は、アメリカの政策金利が年内にもマイナス圏に入るという見方が台頭し、ドル売りが観測された。今週は四半期定例入札もあり、債券利回りの動きが非常に気になるところだ。

入札に大きな「問題」がなくスムーズに完了し、ユーロ/ドルの週足がチャート上の藤色ハイライトのレベル(1.07ミドル~1.08ミドル)の下限である1.07ミドルを下抜けせずに推移すれば、一旦1.09台までの戻しを期待したいところである。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年5月13日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について松崎美子氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN