スペシャル・トレンドレポート

コロナ感染を巡り ユーロ圏崩壊危機リスク浮上(松崎 美子氏)

2020年4月1日

スペインが感染拡大防止のため、今週から経済活動を一部の例外を除き全面的に停止。イタリアでは、感染による死者が先週末で1万人を越えた。

この緊急事態を受け、先週はビデオコフェレンスという形で、ユーロ圏財務相会合やEU首脳会議が実施された。しかし、そこで繰り広げられた内容は、一歩間違えばユーロ崩壊リスクを示唆するものであった。既に、私の大好きなFT紙のドイツ人記者:ウォルフガング・ムンヒャウ氏もその点について警鐘を鳴らしている。

今回のコラムでは、どういう経緯でこのような展開になってしまったのかを伝えたいと思う。

ユーロ圏財務相電話会議

3月26日のEU首脳電話会議(EUサミット)に先駆け、24日に開催されたユーロ圏財務相ビデオコンフェレンス。

この会議のずっと以前から、伊コンテ首相は欧州中銀(ECB)のコロナ対策を含む超緩和策では不十分であり、EUはなんらかの救済支援をすべきと力説。その支援手段のひとつとして、「ユーロ共同債構想」を発表しており、同国とフランスがあちこちに根回しをしたとも言われている。

財務相会合では、イタリア、フランス、スペインが、何らかの形でEU (欧州委員会)による財政支援の必要性を主張。そして後日伝えられたところによると、ラガルドECB総裁も、「今回1回だけで構わないので、コロナ共同債の発行を前向きに検討して欲しい。」とほぼ土下座状態でお願いしていたらしい。

しかし、オランダとドイツは、ECBが発表した大規模緩和策の効果を見極めてからでも、遅くないと言う意見。特にドイツのアルトマイヤー経済財務相は、コロナ共同債構想そのものを完全否定。オランダのフックストラ財務相は、モラルハザード甚だしいと怒り出したそうだ。

最終的に、コロナ危機で最も被害を被ったイタリアは、コロナ共同債構想が無理であれば、ギリシャ債務危機当時に発足したESM(欧州安定メカニズム)による何らかのヘルプを提案し、幕を閉じた。

9ヶ国による嘆願書

電話会議の翌日、またしても驚きのニュースが出てきた。

ユーロ加盟19ヶ国のうち、イタリア・フランス・ベルギー・ギリシャ・ポルトガル・スペイン・アイルランド・スロベニア・ルクセンブルグの9ヶ国の大統領/首相が連名で、ミシェルEU大統領宛に嘆願書を送ったということ。

ちょうど同じ時期に、ドラギ前ECB総裁がFT紙に寄稿し、コロナ共同債とは具体的に言及していないが、早急に欧州各国政府やECBを含む公的機関は、十分な対策を示すべきだと訴えた。

https://www.ft.com/content/c6d2de3a-6ec5-11ea-89df-41bea055720b

同じイタリアのマッタレッラ大統領も、2度にわたり欧州委員会にSOSを送っている。

EU 首脳電話会議(EUサミット)

3月26日、EU首脳電話会議(EUサミット)が開催。

https://www.consilium.europa.eu/en/meetings/european-council/2020/03/26/

ここでのメイン・トピックは、「コロナ共同債構想」。結論から先に申し上げれば、結局なんの合意も出来ず、ひとまずユーロ加盟各国の財務相に構想概要を作成させ、2週間後に発表というところで落ち着いた。

当然であるが、嘆願書に署名した9ヶ国と、共同債に反対しているドイツ・オランダ・オーストリアが激しくぶつかり合ったと報じられている。

このサミットで最も話題を集めたのは、各国首脳はライブで参加したが、メルケル独首相のみ姿を見せず写真を画面に貼り、声だけで参加。同首相は現在自主隔離中なので仕方ないという声もあるが、一部の関係者の間では、本当にやる気があるのか?という批判の声も出たそうである。

若干態度が軟化したように見えるオランダ

EU電話サミットの翌日、オランダ中銀ホームページに載っていた年間レポートでの表現緩和が、欧州マーケット関係者の間で話題になっている。

https://www.dnb.nl/en/news/news-and-archive/persberichten-2020/dnb388012.jsp

特にこの部分に注目。

The ECB will not tolerate any financial fragmentation in the euro area, which would undermine the single monetary policy. To prevent this from happening the ECB stands ready to implement every instrument within its mandate as flexibly as circumstances demand.」

ドイツと並び、ECBの国債購入上限33%の一時撤廃に猛反対していたオランダであるが、赤くハイライトをした箇所を見る限り、「ユーロ圏の崩壊は是が非でも避けたい。そのためには責務の範囲内ではあるが、柔軟に対応する。」と若干態度を軟化させている。

オランダ中銀ノット総裁は、タカ派中のタカ派であり、時にはドイツのバイトマン連銀総裁よりも厳しい要求をする方なので、私はこの態度の軟化に驚いた。

ユーロ崩壊リスク、再浮上

文頭でも紹介したが私の大好きなFT紙のドイツ人記者:ウォルフガング・ムンヒャウ氏の記事を読んでみたら、私が普段感じていたことを100%代弁してくれており、心から嬉しかった。崩壊リスクに警鐘を鳴らしているのはこの人だけでなく、他のジャーナリスト達も同様の記事を書いている。

https://amp.ft.com/content/d28914c0-7036-11ea-9bca-bf503995cd6f?segmentid=acee4131-99c2-09d3-a635-873e61754ec6&__twitter_impression=true

コロナ共同債に賛成する9ヶ国

嘆願書に署名した9ヶ国は、イタリア・フランス・ベルギー・ギリシャ・ポルトガル・スペイン・アイルランド・スロベニア・ルクセンブルグ。これらの国は、コロナ債が無理であれば、なんらかの救済資金をEUが早急にまとめるべきだという意見の持ち主。偶然ではないだろうが、ギリシャ債務危機時に「飛び火」して国債利回りが急騰したPIIGS5ヶ国全てが含まれているのもおもしろい。

アイルランドだけはその後、本気で財政均衡に向け努力をしたが、残りのPIIGS各国はもともと財政規律を順守できないことで知られている。

コロナ共同債に反対の国

ドイツ・オランダ・オーストリアが代表的な国であり、ユーロ圏の連邦化をせずに共同債を発行するなどあり得ないという意見。

これはあくまでも私個人の意見であるが、これら3ヶ国は、ユーロ圏連邦化をせずに一度だけでも共同債が発行されれば、結果的にはイタリアやフランスなどの債務を自国の税金でヘルプしてあげることになるので、絶対に首を縦に振らないと思う。

しかし、コロナ感染対策費と言う全く別枠で、欧州委員会が金銭的な援助を求めれば、もしかしたら一度限りであれば、対応するのかもしれないと感じている。

新たなユーロ共同債賛成国が出てきた!(確認できず)

伊ラ・レプッブリカ紙によると、EUサミット翌日に、上記9ヶ国に加え、エストニア・リトアニア・ラトビア・スロバキア・キプロスの5ヶ国が、コロナ共同債にYESのサインを送ったという記事が載った。これが本当であれば、19か国中、14ヶ国の賛成である。

https://rep.repubblica.it/pwa/generale/2020/03/27/news/eurobond_si_allarga_il_fronte_in_quattordici_contro_la_merkel-252507712/?ref=RHPPBT-BH-I252410466-C12-P2-S1.8-T1

いろいろ調べてみたが、英語のニュースソースは見当たらない。今回の記事が最もヘルプを必要としているイタリアの新聞である点がひっかかる。ただし、私はこのニュースを、コンスタンシオ元ECB副総裁のTweetで知ったので、あながちデマとは言い切れないが、公式見解を自分の目でみないうちは、信じられない。

https://twitter.com/VMRConstancio/status/1243989537157722113

ユーロ崩壊リスクが台頭した場合

9ヶ国(14ヶ国?)でのコロナ債発行?

もし今後何も具体的な案が出てこなければ、この9ヶ国だけで「コロナ債」を発行するアイデアもあると聞いている。もちろん、それが合憲的行為であるのかは、私にはわからない。

仮にそれが実現した場合、格付けはどうなるのか?保証は誰がつけるのか?ECBのPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)での購入対象となるのか?数々の疑問が浮上してくる。

ユーロ離脱国が出てくるのか?

私が一番恐れていることは、この9ヶ国(14ヶ国?)が一致団結し徹底的にやりたい放題をした場合、ドイツやオランダがユーロ離脱などということに繋がらないか?

或いは、全く逆にイタリア同盟:サルビーニ党首が提案しているように、第2次世界大戦以降最大の危機であるのに、支援金による援助をお願いできないEUであれば、加盟する価値はない。いっそ離脱してわが道を行こう!という動きが台頭してこないのか?

既に、コロナ感染が悪化している国では、EUの対応の遅さに痺れを切らし、ポピュリズム政党への人気が高まり始めているようだ。来年はドイツの国政選挙、再来年にはフランス大統領選を控えているだけに、ここでポピュリズムの台頭は出来るだけ避けたいところだろう。

ユーロの2分化

いますぐではないにせよ、何かのきかっけでユーロ崩壊が現実化すれば、今回の9ヶ国(14ヶ国?)が一致団結することは間違いないだろう。

9ヶ国と14ヶ国ぞれぞれに★をつけたが、9ヶ国の場合は見事にヨーロッパの南/西に集中している。しかし、14ヶ国となると、事情が変わってくる。

万が一、分裂なり崩壊があれば、線引きは既にされたと言ってもよいだろう。その場合、本気で14ヶ国が固まるとすれば、残った5ヶ国は、ドイツ・オランダ・オーストリア・フィンランド・マルタだけとなる。


図表:筆者作成

ここからのユーロ

3月中旬まで、ヘッジファンドや投資家による換金売りで、ドル需要が急増。その勢いもここにきて収まり、主要通貨に対しドルの下落が目立ってきた。

私はこの相場では、株価と通貨、長期金利(10年物国債利回り)と通貨の関係を、それぞれチャートでチェックしている。そこで、面白い現象を発見した。

米長期金利とドル

2月下旬まで、逆相関。その後、相関へ転じる。


チャート:筆者作成

独長期金利とユーロ

2月下旬まで、相関。その後、逆相関に転じる。


チャート:筆者作成

長期金利と通貨との関係を探る

これらのチャートを見て分かったことは、1枚目と2枚目のチャートの相関/逆相関の関係が正反対であることだった。そして、特にヨーロッパでのコロナ危機がスタートした期間に、独利回りとユーロとの関係が逆相関となっていることである。

どうしてこうなるのか?本当に時間をかけて考えたが、ひとつしか答えが浮かばず・・・  それは、2枚目の「独長期金利/ユーロ」のユーロの形状が、ユーロ/ドルとほぼ同じである。そのため、ドルが相関となれば、当然ユーロは対ドルで逆相関になるということである。

そうなると、ここからのユーロ/ドルの動きを考えるとき、米長期金利とドルとの相関関係が継続する間は 、少なくともユーロ/ドルは逆相関のポジションを取ることになるかもしれないということであろう。つまり、「米長期金利上昇=ドル高=ユーロ売り/ドル買い」、「米長期金利下落=ドル安=ユーロ買い/ドル売り」というシナリオだ。

果たして、なにがきっかけで、米長期金利とドルとの相関関係が崩れるのか?現在、私はその答えを持ち合わせていない。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年4月1日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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