スペシャル・トレンドレポート

グローバルで株式市場が動揺、「米ドル/円」当面浮上の目途立たず(竹内 典弘氏)

2020年3月6日
チーフディーラー :「新型肺炎の感染拡大から、世界の金融市場が大きく動揺しているが、この先の展開をどう読むかな」
アシスタント・マネージャー :「金融市場はここまで新型肺炎の収束が近いとかなり楽観視していましたが、今まさにその反動がでているといえます」
チーフディーラー :「確かに…。欧州ではイタリア、アジアでも韓国などで感染者、そして死亡者も急増している」
アシスタント・マネージャー :「一部の金融市場参加者は、株式市場は売られ過ぎとの意見ですが、やはり収束の目途が立たないと、底入れは当面見込めないかもしれません」

新型肺炎の世界的な感染の拡大に直面したことで、金融市場は投資マネーの引きあげが進み、リスク資産である株式を手放す動きが加速している。グローバルで動揺した株式市場の行方、アシスタント・マネージャーの意見を借りれば「新型肺炎の感染の収束がみえてこないと、底入れはまだ先」との見解のようだ。

「米ドル/円」は2月19日(水)、年初来高値の110.29円を上抜け、翌日20日(木)にかけて112.23円まで上伸した。この背景については諸説が取り沙汰されていて、①新型肺炎への政府の対応が後手に回ったことでの日本売り、②国内機関投資家の外国債券投資の加速、③短期の投機筋の損失確定のための米ドル買い・円売り等が指摘された。

詳細に検証してみると、①はこの前後で日本株、日本国債は値を崩しておらず、日本売りとの論調には無理がある。②は日本の財務省が2月27日(木)に公開した対内及び対外証券売買契約等の状況からは、国内の機関投資家の外国債券買い越し額はわずか6600億円にとどまった。①②共に裏付けに乏しいことから、背景は③であった可能性が高い。

ただ翌週以降は、世界的な株価の下落からリスク回避の動きとなり「米ドル/円」は大反落、3月4日(水)の早朝、FRB(注)の50bp(0,50%)の緊急利下げの影響もあり106.93円まで下げ幅を拡大した。

(注)米国の中央銀行

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

図表:日本の財務省より筆者作成

中国湖北省武漢市で発生した新型肺炎は、近隣の韓国や日本に続き、欧州ではイタリア、中東でもイランなどで感染者が急増し、パンデミック(世界的な大流行)の様相を呈してきた。初動ではアジアだけのリスクだとみなされてきたが、感染の拡大から世界全体へのリスクへとみなされ始めた。人の行き来が遮断され、企業活動も停滞、景気拡大が11年目に突入した米国経済を冷やす懸念も台頭する。

世界の機関投資家が重視するMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)世界株価指数は、2月の第4週のわずか1週間で-10.5%の下落を演じた。昨年秋、米中が第1弾の貿易協議に合意、リスクセンチメントの改善から、グローバルで株価指数は昨年来高値を更新、ただ、この1週間で昨年秋以降の上げ幅を全て失った。

アジア地域でみられたように、感染拡大の初期においては、軽微な症状から新たに検査を受ける人が急増することから感染者数も自動的に拡大する。この先、欧州や中東のように、感染者数が急拡大するのは不可避とみられ、しばらく金融市場の動揺は続くとみられる。こうしたリスク回避の動きから、「米ドル円」の戻りも限られたものとなる可能性が高い。

チャート:MSCIより筆者作成

新型肺炎の感染拡大で世界経済が委縮、原油需要の減少が叫ばれ始め、長期的な需給の悪化懸念も指摘され始めた。今週は3月5日(木)よりOPEC(石油輸出国機構)臨時総会・プラス会合が開催予定で、協調減産の規模拡大を議論するとみられる。ただ加盟国間の利害の対立は依然根強く、妥協点はみいだせそうもない(本レポート3月4日(水)午前執筆)。

WTI(注)は、こうしたグローバルでの需要減を織り込むかたちで下落、年初の63ドル台から足元で47ドル台へと実に25%を超える下落を演じた。新型肺炎の感染拡大からグローバルで外出を避ける動きが続くと、ガソリン需要の減退からも当面浮上の目途は立たない。供給過剰の懸念もぬぐえず、昨年来の安値を更新、40ドル台前半への下落が視野に入りつつある。

(注)ウエスト・テキサス・インターミーディエート、米国南部で算出される原油の総称。原油先物取引のベンチマーク。

商品市況の低迷、特に原油価格の下落はリスク回避の動きから「米ドル/円」の戻りをさらに限定的にする。

チャート:筆者作成

では金利面からはどうだろうか。FRBは3月4日(月)の早朝、臨時のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、50bp(0.50%)の利下げの実施を発表した。その後のFRBパウエル議長の会見では「今後の動向を注視、経済を支えるために適切な行動をする」とした。この「適切に行動する」との文言、将来の政策変更を示唆する文言として何度も使われてきたものだ。

この政策発表の後、トランプ大統領は「FRBにはさらなる利下げが必要で、一番重要なのは他国と政策を協調することだ。今はFRBが(金融緩和に関して)世界をリードする時だ」とツイッターに投稿した。ただ、FRBの利下げにもかかわらず、当日のダウは利下げを好感して上昇したものの、引けでは785ドル安と市場の動揺は収まらない。

米大手金融ゴールドマン・サックスは、次回3月18日(水)のFOMC会合で通常の2回分に相当する50bp(0.50%)、さらに第2四半期に50bp、年央までに100bpの利下げを予想していた。金利先物市場では、さらなる利下げの織り込みが加速していて、2020年末まで、足元でここから2.74回の利下げを織り込んでおり、「米ドル/円」の戻りをさらに重くしている。

昨年7月以降の予防的利下げから、グローバルで株価は高値追い、米株3指数も年初には史上最高値を更新していた。ただ、政策金利を引き下げても、新型肺炎からの需要の落ち込みやサプライチェーン(供給網)の分断には対処できるはずもない。利下げは一時しのぎで、株式市場等のリスク資産が回復しなければ「米ドル/円」も浮上の目途は立たないだろう。

以上をまとめると、リスクセンチメントの改善には程遠く、利下げの織り込みもここにきて加速してきた。引き続き「米ドル/円」の戻りは売りとみている。

チャート:筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年3月6日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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