スペシャル・トレンドレポート

金融政策を使ったコロナ対策の協調体制は?(松崎 美子氏)

2020年3月4日

今週月曜日、フランス2テレビのインタビューに応じたル・メール経済財務相は、ムニューシン米財務長官と話し合った結果、今週中にG7各国の財務相と電話会議を持ち、コロナ感染による経済的なダメージを最小限におさえる目的で協調したアクションを取るよう話し合うと発言した。そして、翌日火曜日にG7財務相による電話会議が開催。

ヨーロッパとアメリカでどんどん感染拡大しているコロナウィルスに対し、金融政策だけでどこまで対応できるのか?個人的には非常に懐疑的である。

コロナ拡大:ヨーロッパ編

中国ではコロナ感染が少しずつ沈静化してきたと聞いているが、ヨーロッパでは感染がどんどん拡大している。執筆時の欧州各国の様子は、こんな感じである。

フランス

ル・メール仏経済財務相は、G7財務相電話会議では、実りのある意見交換が出来たと語った。同時にラガルドECB総裁にも連絡を取り、ユーロ加盟各国の財務相たちも互いに意見交換を行うことにより、経済的なダメージを最小限に止めるアクションを探していこうと提言している。

同国では特に航空、ホテル、レストラン、イベント業者へのダメージが大きく、中国でコロナ騒ぎが起きた当時は、フランスではGDP0.1%程度の被害が出ると予想していたが、世界的拡大を受け、経済へのダメージは更に拡大したと予想している。ただし、具体的な打撃の規模は発表していない。

ドイツ

感染者数は土曜日の66人から、日曜日は129人、そして月曜日朝には150へと着実に増加している。このうち半数の86人はドイツで最も西に位置しオランダとベルギーと国境を隔てているノルトライン・ヴェストファーレン州に集中している。

イタリア

日曜日に感染者数が1,694人となったイタリア。前日土曜日には1,128人であったことを考えると、1日で50%も増えた計算になる。

週末にイタリア政府は、36億ユーロ規模の経済復興策を発表し、今回の感染の被害を受けた企業への給付金にすると語った。施行は今週末に予定されている。

米国務省は、イタリア北部のロンバルディア州とヴェネト州への渡航禁止を発表。

英国

ボリス・ジョンソン首相は月曜日朝に、英国が国家的危機に直面した際、その危機への対処を主導する代表的な緊急事態対策委員会「COBRA会議」を招集。主要閣僚に加え、スコットランドのスタージョン自治政府首相も電話で参加。

火曜日の首相自らの記者会見によると、英国のコロナ感染に対する対策は、「Contain » Delay » Research » Mitigate.封じ込め→拡大が思ったより速い場合は、感染を遅らせる→リサーチを徹底→感染の沈静化」の4つのステップからなるそうだ。

政府が想定している最悪のケースは、「80%の国民がコロナに感染し、死亡者数は50万人」!!! 驚くほど悲観的な数字が飛び出して、私も面を食らった。当然だが、最初のステップ「封じ込め」に失敗したと判断されれば、自宅勤務や休校が増えるだろう。

私がいつも行くスーパーでは、休校に備えてトイレットペーパーが売り切れ! 32年住んでいるが、このような光景を目にしたのは、はじめてのことである。

もうひとつ恐ろしいニュースが飛び込んできた。2月15日~23日は英国恒例の「ハーフターム」というお休み期間で、イングランド全ての学校が休校となった。英民間調査機関「経済ビジネスリサーチセンター(Centre for Economics and Business Research、CEBR)」によると、この休みを利用してイタリア北部に旅行したロンドン在住者は、推定15,000人。2月23日に旅行から帰ってきたと仮定した場合、まだコロナ感染が確認できない予備軍が大勢いることになる。CEBRは、「もしロンドン全体が閉鎖される事態となれば、自宅勤務が出来ない業界も全てストップしてしまうので、そのシナリオでの経済損失は、1日で100億ポンド規模になる。」と予想している。そう考えると、週末に一気に感染者数が増えるリスクが残っている。

世界中の中銀による協調緩和策導入?

アメリカ

先週米株式市場は、約11%の下落を記録。まず先週金曜日、パウエル米FRB議長が短いコメントを出した。
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/other20200228a.htm

「The fundamentals of the U.S. economy remain strong. However, the coronavirus poses evolving risks to economic activity. The Federal Reserve is closely monitoring developments and their implications for the economic outlook. We will use our tools and act as appropriate to support the economy.
米国経済は強いままである。しかし、コロナウィルスによる弊害が出るかもしれない。FEDは今後の状況を注視し、それが今後の経済見通しにどう影響するか注意深く見守る。我々は金融政策のツールを使いこなし、経済をサポートするために適切に動く」

最後の「適切に動く=利下げ」とマーケットは受け止め、ここから流れが大きく変わったことは言うまでもない。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のFedWatchによると、3月18日のFOMCでの利下げ幅は、25bpsではなく50bpsカットとなることを100%織り込んだ。
https://www.cmegroup.com/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html

ところがである。火曜日にG7電話会議が終了して数時間後、FEDは50bpsの緊急政策金利カットを発表し、パウエル議長は緊急記者会見を開催。G7でこれといった対策が発表されずマーケットが弱気になっていたところに、突然飛び出したニュースでマーケットは大慌て!
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20200303a.htm

日本

今週月曜日、黒田日銀総裁が談話を発表した。単独での談話は2015年ギリシャ債務危機以来であり、極めて異例。

コロナ対策のひとつとして、「潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく」という内容であった。

英国

同じく月曜日の朝、英中銀報道官が以下の声明を発表。

「The Bank is working closely with HM Treasury and the FCA (Financial Conduct Authority) – as well as our international partners – to ensure all necessary steps are taken to protect financial and monetary stability,

英国中銀は財務省と金融行動監視機構、そして世界の主要機関と密接に連携し、金融市場の安定を守るため、必要な措置を講じることを約束する。」

そして火曜日に議会証言を行ったカーニー総裁は、「すべての情報を集め分析をした結果を見て、機能的に動くことになる。政策金利カットと流動性供給目的の量的緩和策(QE)を合わせれば、実質的な緩和幅、200〜250bpsに値する緩和が可能であると思う。」と爆弾発言。これを受け、ポンドは下落。株式指数は上昇。
https://www.bankofengland.co.uk/news/2020/march/governor-statement-to-tsc-on-behalf-of-the-fp-mp-and-pr-committees

金融政策の変更で対応可能なのか?

一気に高まってきた主要中銀による協調体制。2012年7月にドラギ前ECB総裁の「Within our mandate, the ECB is ready to do whatever it takes to preserve the euro. ユーロを守るためなら、何でもやる!」というフレーズを皆さんまだ覚えているだろうか?今回も、コロナウィルスによる経済/金融市場のダメージを払拭するためなら、「なんでもやる」というメッセージを流したが、果たして効果を期待して良いのか?

このマーケットに必要なのは、「やる気」よりも「効果ある対策」だ。もちろん最も効果的な発表はワクチンの完成であるが、早急には期待できそうにもない。

「効果」という意味では、中銀の協調利下げや流動性供給は、短期的にはマーケットのサポートとなるかもしれないが、根本的な問題解決にはならないと私は考える。

経済指標の悪化を覚悟する

月曜日のアジア市場では、各通貨が大きな窓明けでスタートした。これは、週末に発表された中国の購買担当者景気指数(PMI)の悪化が大きく影響している。

中国PMI

中国統計局が2月のPMIを週末に発表した。

①中国 製造業PMI
1月50→2月予想45→結果35.7

統計局発表開始以来、最低の数字
http://data.stats.gov.cn/english/easyquery.htm?cn=A01

②中国 非製造業PMI
1月54.1→2月予想51→結果29.6
http://data.stats.gov.cn/english/easyquery.htm?cn=A01

③中国 総合PMI
1月53→2月28.9

私は今までずっと、中国統計局の数字は実体経済を反映せず、なんらかの細工がしてあると思い一切信じていなかったが、今回の数字はかなり強烈だ。

ちなみに、今週はCaixin/MarkitのPMIが発表される。
3月2日 日本時間 10:45に 発表されたCaixin/Markit製造業PMIは、1月51.1→2月予想47→結果40.3となり、2004年にこの数字が発表されて以来、最悪の数字となった。


出典:Markit社

3月4日同10:45には、サービス業と総合PMIが続く。サービス業PMIは、1月51.8→2月予想48.5。同時に発表される総合PMIは、1月51.9→2月予想なし。こちらも予想を下廻る数字となる可能性が高い。

それ以外の国々

ユーロ圏PMI

3月2日に発表されたユーロ圏製造業PMI改定値を見て、違う意味で驚いた。1月47.9→2月速報値49.1→改定値49.2となっており、改善していたからだ。欧州でコロナ感染が拡大したのは2月下旬からであり、本格的な景気減速は3月以降の数字になるのだろう。


出典:Markit社

イタリア

2月製造業PMIは、48.7となり、2ヶ月ぶりの弱さ。しかし、息を呑むほど悪い数字ではない。

調べてみると、イタリアで最初の感染者が出たのは1月31日で場所はローマ。問題のイタリア北部:ロンバルディア州で16人の感染者が出たのは、2月21日となっている。そうなると、3月の数字が崩れるリスクが高いだろう。


出典:Markit社

英国

イタリア同様、2月末から感染が確認された英国の数字は、1月50→2月速報値51.9→改定値51.7となり、1月より改善している。やはり影響が出るのは、3月の数字からのようだ。


出典:Markit社

ここからのマーケット

3月18日FOMCで追加利下げがあるか?

私が最も注目しているのは、ドルである。3月3日に緊急50bpsカットをしたからと言って、3月18日のFOMCで何もやらない保証はどこにもない。ただし、もし18日に追加利下げをした場合、マーケットは、「わずか2週間で2回の利下げ。パウエル議長は米経済は安定して強いと仰っているが、本当はもっと弱いのか?何かを隠しているのでは?」と疑心暗鬼になる気がする。そうなると、3月18日FOMCで新たな利下げに踏み切った場合、下げても株下げ、据え置いても失望で株下げという負のループにはまるリスクが出てくるだろう。

しかし、そのような複雑なマーケット心理などおかまいなしのトランプ大統領は、3日の緊急カットを受け、FEDに感謝するどころか、もっとカットしろ!と野次を飛ばしている。
https://twitter.com/realdonaldtrump/status/1234869067892305923?s=21

The Federal Reserve is cutting but must further ease and, most importantly, come into line with other countries/competitors. We are not playing on a level field. Not fair to USA. It is finally time for the Federal Reserve to LEAD. More easing and cutting!

FEDはやっと金利をカットしたが、まだまだ下げなければいけない。重要なのは、他の国(競争相手)と同じくらいの金利水準まで下げなければ、意味がないということだ。そうでなければ、アメリカにとって不公平ではないか?これをきっかけに、アメリカがもっともっと緩和をして、世界をリードしていく番ではないか?」

トルコのエルドアン大統領と変わらない変な理屈である。

独米長期金利差とユーロ/ドル

次に、ドイツとアメリカ10年物国債利回り格差(イールドスプレッド)とユーロ/ドルとの関係について考えてみたいと思う。

まず最初は黄色いハイライトの時期である。この時期には、アメリカ10年物国債利回りが3%台を行ったり来たりした「金利が高い時期」と重なる。ユーロ/ドルでも「ユーロ安/ドル高」が確認できる。

次は①の縦線。この時期から、ドイツ10年物国債利回りがマイナス化した。ユーロ/ドルを見ると、ユーロ安となっている。

最後の②の縦線の時は、アメリカ10年物国債利回りが2%を割れて下がり始めた頃だ。この時だけは例外的に、ユーロ/ドルでのドル安にはなっていない。

最近マーケットでよく聞くのは、独米金利差縮小でユーロ買いがしやすくなったという話しである。しかし、少なくともこのチャートを見る限り、そういう反応にはなっていない。

ユーロという通貨のファンダメンタルズを見ると、ヨーロッパでのコロナ感染拡大、トルコからの難民流入が今後深刻化するリスク、英国が離脱した後の予算不足など、悪い材料が山積みだ。しかし、世界経済の屋台骨であるアメリカで、このようなアグレッシブな利下げが断行される以上、簡単にドルを買う気にはなれない。

まとめると、①コロナ感染が欧州や米国でパンデミックとなるか?、②アメリカの緊急利下げがゲーム・チェンジャーとなるか?③他の主要国中央銀行が協調利下げ(緩和)に動くか?④利下げに続き、アメリカは財政拡大に踏み切るのか?これが確認されるまでは、ドルの頭が重い展開を予想する。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年3月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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