スペシャル・トレンドレポート

四面楚歌の「豪ドル」、新型肺炎感染拡大で下値模索へ(竹内 典弘氏)

2020年2月7日
アシスタント・マネージャー :「疾病の感染拡大が金融市場、特に為替市場のテーマになることは少ないのですが、ここにきて中国発の新型肺炎の影響でリスクセンチメントが悪化してきました」
チーフディーラー :「今後の展開を占ううえでは、2002-03年に感染が拡大したSARS(注)が参考になるね」
アシスタント・マネージャー :「先輩、でも当時とは時代背景や特に中国の経済規模は大きく異なるのではないですか」
チーフディーラー :「君の指摘の通り。特に中国経済と強いつながりのある豪州、つまり「豪ドル/円」には売り圧力となるのでしょう」

(注)サーズ、日本語では「重症急性呼吸器症候群」、詳細等は後述

このディーリング・ルームでの2人の会話からは、中国発の新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大はリスクオフの要因、つまり「豪ドル/円」では売りとの判断のようだ。ではその背景や金融市場への影響など、過去の値動きなども振り返りながら詳細に検証してみる。

2019年半ば以降、世界景気の減速に直面したことで、グローバルで多くの中央銀行は政策金利を引き下げる予防的利下げに転じた。昨年まで豪州では実に約29年にわたり景気拡大が継続、RBA(豪州準備銀=中央銀行)の機敏な金融政策も奏功し、この間リセッション(注)に陥ることなく景気拡大が続く。

(注)景気後退局面、明確な定義は存在しないが、欧米ではGDP(国内総生産)が2四半期連続でマイナス成長となった場合を、リセッションとみなす

こうしたなかで、RBAも例外でなく昨年6月以降、3度で合計0.75%の利下げを実施、政策金利を過去最低の0.75%まで引き下げた。過去に目を転じると、リーマンショック直前には、RBAは政策金利を7.25%という高水準に誘導、「豪ドル」は高金利通貨という名のもと、世界から多くの投資資金を集めた。

足元の政策金利0.75%という水準、「高金利通貨」の称号は過去のものでしかない。こうした金融政策から金利面での魅力は大幅に低下、世界からの投資資金が離散する構図が鮮明で、「豪ドル/円」は浮上の糸口をつかめていない。

チャート:豪州統計局より筆者作成

チャート:RBA等より筆者作成

中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染者数は、日々急速な拡大をみせており、その感染者はグローバルに点在する。中国では1月の下旬より旧正月である春節をむかえていたが、数多くの団体旅行がキャンセル、インバウンドの消費に期待する日本にも影響が及ぶ。

ここにきて中国に直行便を運航する多くの航空会社が続々と運航の停止を表明、人の移動の制限から、経済活動の停滞が指摘され始めた。米国を筆頭に、中国からの入国を制限する動きも出ており、日本政府も2月1日(土)、感染者の強制入院や湖北省滞在歴のある外国人の入国を拒否する対策を開始した。

豪州の最大の輸出入先は中国であり、中国景気の影響が極めて大きいことから、豪州景気はいわば中国経済の代理変数といっても過言でない。豪州国内に目を転じても、先年秋からの森林火災の影響が深刻化、1月31日(金)には首都キャンベラがある特別地帯で地元政府が非常事態を宣言、ここまで「豪ドル/円」は下げ足を速める。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

こうした中国経済の変調は、国際商品市況のなかに表れ始めた。新型肺炎の拡大から、中国国内に生産拠点を置く企業は生産の一時停止を余儀なくされ、サプライチェーン(供給網)の分断が指摘されている。原材料消費の減退観測から1月中旬以降、銅の価格が急落、足元で2018年以降の最安値水準で推移する。

銅は電線、自動車、住宅建材等の幅広い分野の原材料の一角を占め、中国景気の先行指標としても広く認知されている。中国はグローバルでの銅の消費量の約50%を占める世界有数の銅消費国で、依然として米国から関税の対象となっている自動車や工作用ロボットにも銅は必須の部材となる。

こちらの銅の先物価格、1月16日(木)の直近高値より急落しており、その下げ幅は約13%に迫る。こうした金融市場の一角である商品市場の需要減、市場のリスクセンチメントの悪化から、リスク通貨である「豪ドル/円」の戻りを極めて限定的にさせる。

チャート:筆者作成

金融市場のこの先の展開、特に為替市場の先行きを読むうえで参考になりそうなのは、2002-03年に感染が広まったSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大の前例だ。SARSは2002年11月16日(土)に初の感染例が報告され、2003年の7月に感染が収束するまで被害は拡大した。

感染者で8098人、死亡者は774人に上り、日経平均株価は2002年11月末の9215.56円から、翌年4月下旬にかけ7607.88円まで率にして-17.4%の下落をみせた。2003年3月20日(金)には、米国の当時のブッシュ政権がイラク戦争を開戦しており、この日経平均の下げが全てSARSのネガティブな影響ではないだろうが、相応の経済の押し下げ圧力はあった。

本レポート執筆時点の2月5日(水)朝現在、中国国内の新型肺炎の感染者は2万人を超え、死亡者も425人まで拡大してきた。さらにこの間では、中国は大きな経済成長を遂げており、GDPは2002年と2018年を比較した場合、その規模は約9.3倍まで拡大、当時とは比較にならないほぼインパクトがある。

そうした中国経済の減速、交易関係を通じ強い結びつきがある豪州経済を押し下げ、「豪ドル/円」の戻りをさらに重くする。

チャート:筆者作成

チャート:セントルイス連銀より筆者作成

図表:筆者作成

この新型肺炎の感染拡大がグローバルで経済に与える影響に関し、各国の金融当局者も警戒を強めつつある。FRB(注)のパウエル議長は1月のFOMC後の記者会見で「米中の貿易に関する不確実性はやや後退した」としながらも「新型肺炎は極めて深刻だ…(略)中国経済には短期的に影響がでる」と締めくくった。

(注)米国の中央銀行

2002-03年に流行したSARSが収束に半年以上かかっていること、さらに今回の新型肺炎の拡大がそれより早いペースで進行していることを考慮すると、この先も相応の期間、経済活動は停滞する。以上をまとめると、リスク通貨である「豪ドル/円」の戻りは引き続き限られたものとなりそうだ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年2月7日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について竹内典弘氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN