スペシャル・トレンドレポート

110円が次第に重くなり、米ドル/円はじり安の展開か?(西原 宏一氏)

2020年1月29日

1)リスクオフからリスクオンへ回帰

為替マーケットでは、1月は円高というアノマリーがある。
例えば昨年2019年の米ドル/円は、1月3日(木)に一気に104.87円まで急落。
(ただこのフラッシュ・クラッシュの後、1年を通して米ドル/円は105円~110円のレンジ相場へ)

そこで、2009年からの月足勝敗表で、1月の円高のアノマリーを確認してみよう。

図表:筆者作成

過去11年間での1月の米ドル/円相場は、3勝8敗と円高傾向が際立ってる。
ただ、クロス円(円と、米ドル以外の通貨のペア)で見ると、明確な傾向がなく、むしろ目立つのは「8月の円高」。
つまり、米ドル/円に限っては、1月に円高傾向があるが、これはドル売りの可能性もある。一方、8月は円が全般に買われ米ドル/円、クロス円で円高傾向があり円が買われる傾向が見えてくる。

こうした点から、マーケット参加者はフラッシュ・クラッシュとは言わないまでも、1月の米ドル/円相場の円高方向は、おのずと警戒していたのであろう。

そうしたマーケットの米ドル/円の円高への警戒感が高まる中、今年もマーケット開始早々に円高になった。

きっかけは、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害との発表だった。 米国とイランは、映画「アルゴ」にもなったように、在イラン米国大使館が襲撃され、大使館員や海兵隊員などが人質となった1979年からの因縁の関係がある。

マーケット参加者は、こうした地政学について理解しているので、「米国がイランの司令官を殺害した」、というニュースは中東での緊張を急速に高めた。
この米国の軍事行動をきっかけに、市場ではイランと米国の対立によるリスクオフ相場で2020年相場がスタート。

ツイッターでは、ハッシュタグ「#ww3」(world war 3=第3次世界大戦)が流行し、翌週1月6日からの金融市場は緊張感が極度に高まった。

殺害されたソレイマニ司令官は、イランでは「影の司令官」とも呼ばれる大物だったそうだ。

ソレイマニ司令官殺害について、トランプ大統領は、「戦争をやめるためであって、戦争をしかけたわけではない」と説明している。
前述のように米国とイランは対立関係にあるが、現在の状況では多くの米国民はイランとの戦争を望んではいない。こうした国内世論の中で仮にイランとの戦争に発展すれば、トランプ大統領の再選は、かなり難しくなるだろうし、トランプ大統領もそれは承知しているはずだ。大統領の説明は、イランと開戦する意図で司令官を殺害したわけではない、ということのメッセージである。

そんな米政府の思惑とは裏腹に、イラクの米大使館付近や米軍基地が砲撃された。またイランは「もはや核開発に制限はない」と宣言したため、マーケットでは緊張が高まった状態が続いた。
そして1月8日(水)、イランが米軍の駐留するイラクのアル・アサド基地にロケット弾数発を発射し、「殉教者ソレイマニ」作戦を開始。

この1月8日のイラン側の報復攻撃で、マーケットは、米国側が報復を繰り返し、本格的な米国対イランの戦争に突入する可能性を見据え、急速にリスクオフに傾斜。為替市場では円が全面高となった。
米ドル/円は、一時107.65円、リスクアセット通貨の豪ドル/円は、一時73.76円まで急落。アノマリーの通り、急激な円高となった。

しかしその後、注目のトランプ米大統領は声明で「イラクの米軍駐留基地に対するイランの攻撃で負傷した米国人はいなかった」と発表。

トランプ大統領が、重要視しているのは、米国民が犠牲になっているかどうかである。ソレイマニ司令官の殺害前にも昨年10月からイラン側からの攻撃を受けていて、ここで米国民間人が亡くなっている。

つまり、米国人の犠牲に対する償いはソレイマニ司令官殺害で終了しており、その後のイランの報復でも米国人に犠牲が出ていないため、戦争は回避されるだろうとの推測から市場は急速に緊張緩和となった。

トランプ大統領は国民の支持を得られない戦争をうまく回避し、リスクオフ相場は沈静化。
短期的に大きく売り込まれた反動もあって、米ドル/円は一時110.29円まで反発。

マーケットは昨年同様、リスクオフのマーケットは1月初旬に終わり、リスクオンに回帰する動きとなってきた。

2)コロナウィルス危機

米国対イランの緊張が緩和したマーケットだが、1月後半から意外な材料により再びリスクオフに傾斜していく。

その要因は新型コロナウイルスによる経済への悪影響。

=====

新型コロナウイルス、中国経済成長の新たなけん引役の脅威に-S&P
投資に代わる中国経済の重要なけん引役になった個人消費が新型コロナウイルス感染拡大による打撃を受けそうだと、S&Pグローバル・レーティングは指摘した。

アジア太平洋チーフエコノミストのショーン・ローチ氏は旧正月(春節)の大型連休で多くの人が旅行に出掛ける矢先に感染が拡大した新型ウイルスについて、自由裁量の交通費や娯楽費などの支出が10%減少すれば、国内総生産(GDP)伸び率は約1.2ポイント下がると概算した。

ローチ氏は「中国の家計支出、特に屋外の活動の影響を受ける産業は、感染拡大から最大の経済的打撃を受ける公算が大きい」と述べ、「リスク回避と金融情勢のタイト化が、投資を含めて影響を増幅しかねない」と分析した。

新型コロナウイルスへの感染が最初に確認された湖北省武漢では旅行や公的な集会の規制が実施されており、近隣の複数の都市でも同様の措置が講じられている。地元当局や国営メディアによると、香港と北京の当局は春節行事予定を中止する。

出所Bloomberg

=====

マーケットは当初、このコロナの経済への影響を重要視していなかった。

しかし新型コロナウイルスによる中国国内の死者数が25人に達する中、事態は深刻化。
一時24,000円台まで上昇していた日経平均だが、1月24日のNY市場では日経平均先物(3月限)が23,610円へと反落。

米ドル/円も下落。
添付図は米ドル/円の日足。

チャート:筆者作成

イラン危機を上手くのりきった米ドル/円相場は1月17日には110.29円まで上昇。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大報道により、1月24日には109,17円まで下落。
筆者が使用している*TD-sequentialは9-13-9を完了し、昨年の8月に105.05円から始まったドル円の上昇相場の終焉を示唆。
(TD-sequential=筆者が使用しているテクニカル指標。Setupの9, countdownの13、setupの9を完了するとひとつの相場の終焉を示唆)

米ドル/円は調整局面入した可能性が高まっている。
NYダウも1月17日に29,373ドルの高値に到達して以降、反落。

チャート:筆者作成

今年は米大統領選の年。
再選を狙うトランプ大統領にとって株価の急落は避けたいところ。
そのため米株の暴落は考えにくいのだが、大きな押し目もなく上昇してきたNYダウが調整局面入りする可能性が高まっている。

新型コロナウイルスの感染拡大という新たなリスクオフ要因が加わり、上値が重くなった米ドル/円の動向に注目。

西原 宏一氏プロフィール

西原 宏一(にしはら こういち)
株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。

本記事は2020年1月29日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、西原宏一氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について株式会社CKキャピタル、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN