スペシャル・トレンドレポート

好材料は一巡、中東情勢緊迫化から「米ドル/円」下値模索へ(竹内 典弘氏)

2020年1月10日
チーフディーラー :「米中の協議は第1弾の合意から一段落、英国の合意なき離脱も一旦は回避、米国の予防的利下げも終了、一体次の相場材料は何になるの?」
アシスタント・マネージャー :「年初より中東情勢が緊迫化、市場センチメントが悪化してきました」
チーフディーラー :「それ以外だと…?」
アシスタント・マネージャー :「各国中銀の金融緩和の限界論でしょうか。実際に欧州の一部の中央銀行はマイナス金利を解除しました」

アシスタント・マネージャーが指摘する当面の相場材料は、「中東情勢の緊迫化」と「中央銀行の金融緩和の限界論」だという。昨年末まで市場のテーマとなってきた米中協議は、ここまでの報道等をまとめると1月中旬にも両者は署名予定。英国の12月の総選挙でも与党保守党の圧勝で終わり、目先の好材料は一旦出尽くしとなりつつある。

こうしたなかで、昨年後半の市場センチメントの好転に水を差しそうなのが、中東情勢の緊迫化だ。昨年12月末にイラクの米国大使館が襲撃され、イランの関与を疑うトランプ大統領は、軍事オプションを排除しなかった。年明け日本時間1月3日(金)、「米軍、イラン軍の最高司令官2名を空爆で殺害」と報じられた。

東京市場が休場で市場流動性が乏しいなか、為替市場では「米ドル/円」やクロス円が選択的に売られ、リスクセンチメントは大幅に悪化した。「米ドル/円」は報道前の108円台のミドル付近から下落、米国時間にかけて下値を107.83円まで拡大した。

こうした中東情勢の緊迫化の動き、原油の安定供給を懸念する国際金融筋の動きから原油先物価格は高騰、輸送ルートへの不安も台頭する。その後イランは報復を示唆、ホルムズ海峡を航行する船舶なども対象になるとしている。この海峡を通過する原油輸送量は日量約2000万バレル、世界需要の20%を占める(日経電子版)。

原油価格の急騰は、原材料コストの上昇となり各国経済の押し下げ要因、金融市場、特に為替市場ではリスクオフの要因となる。昨年8月26日(月)の安値104.45円より順調に回復していた「米ドル/円」にはネガティブな要因でしかない。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

チャート:筆者作成

約1年前、米国の中央銀行であるFRBは2019年度も通年で2回の利上げを視野に入れていたが、一昨年末に株価の下落の洗礼に直面し断念した。一転して昨年7月以降、FRBは経済の減速を未然に防ぐ目的で政策金利を引き下げる予防的利下げに転じ、FF(フェデラルファンド)金利=政策金利を合計75bp(0.75%)引き下げた。

米ドル高を懸念してきたトランプ大統領は、FRBパウエル議長をホワイトハウスに呼び出したり、直接面会したりして利下げを公然と要求した。中央銀行の独立性を無視した行動だったが、FRBは利下げに転じたことで、米株は昨年末には史上最高値を更新、ただ利下げは金利面から米ドルの魅力のはく落に直結する。

利下げの影響から、政策金利のすう勢を反映する日米の2年債の金利差は、昨年1月の2.77%より足元で1.66%へと約110bp(1.1%)もの縮小をみせた。昨年秋以降、「米ドル/円」は110円の大台乗せに難儀してきたが、こうした金利差の縮小は大台回復をさらに困難なものとする。

チャート:筆者作成

通常は年末に向け、企業の利益送金や年越しの米ドル需要などから米ドルを取り巻く環境はタイト化、為替市場でも需給のひっ迫などから米ドル高となる傾向がある。年明け後は一転、こうした需給は緩みがちで、為替市場ではどちらかというと米ドル安に転じている。

「米ドル/円」の直近20年の1月の騰落を計測すると、9勝11敗で下落が多い。ただ直近10年に限定すると、その勝敗は3勝7敗と大きく下落に偏る。日本では2012年12月に当時の民主党の野田首相が退陣、第2次安倍内閣が誕生、翌年4月には日本銀行に黒田総裁が就任した。

アベノミクス・黒田緩和の効果もあり、「米ドル/円」は2012年12月の80円から2015年6月5日(金)には高値125.86円までの上伸をみせた。こうした上昇相場のなかでも、1月の「米ドル/円」は、直近10年は3勝7敗と大きく負け越している。背景として指摘されているのは、米ドル需給の緩和等で、1月の「米ドル/円」は下落を鮮明とする。

図表:過去のデータより筆者作成

100年に一度とされる金融危機を招いたリーマンショック、その後の欧州債務危機を経てグローバルの中央銀行はマイナス金利政策や量的緩和に着手、その反面で副作用も懸念されてきた。世界最古の中央銀行であるスウェーデンの中央銀行リクスバンクは12月19日(木)、マイナス0.25%の政策金利を0%へ引き上げマイナス金利を解除した。

リクスバンクはECB(欧州中央銀)を主導するかたちで2015年2月にマイナス金利を導入した。スウェーデンではキャッシュレス決済が進み、マイナス金利下でも銀行を筆頭に金融機関の運営は健全で、各国中銀の見本とされてきた。ただ、不動産価格を筆頭に資産価格の上昇や家計の債務の増大等、副作用も多く指摘されてきた。

このリクスバンクのマイナス金利の解除、景気が回復したり、インフレ率が中銀の目標に近づいたからではない。背景は、マイナス金利の長期化から発生する家計の債務増大など金融政策の副作用を議論した結果からだった。これは金融緩和の効果を副作用が上回るリバーサル・レートと呼ばれる理論で、かつて日銀の黒田総裁も2017年11月、スイスの講演でも言及している。

チャート:リクスバンクより筆者作成

チャート:リクスバンクより筆者作成

日本ではどうか。筆者が預金口座を持つ某メガバンクは、昨年10月から自動両替機でのお札の両替を一日10枚限定として、それ以降は手数料を課すことを決定している。銀行側の説明では「運営コスト」に見合わないからだという。つまり日銀がマイナス金利政策を継続することで、貸出金利が一向に引き上がることはなく、銀行の収益が激減している副作用だろう。

日銀が2013年4月に開始した「量的質的金融緩和」の効果で日銀のマネタリーベース(資金供給量)は以下のように大幅に増大する一方で、要所に複数の副作用を刻む。今日明日の話ではないが、今後、リクスバンクのように広く副作用を検証、政策変更に至る可能性もゼロではないだろう。

中東情勢の緊迫化から原油価格が上昇、市場センチメントは悪化してきた。金利面からも「米ドル/円」の援軍は徐々に消え去り、ここに1月の季節性という特殊要因が加わる。以上をまとめると、「米ドル/円」の110円という大台は徐々に遠くなりそうだ。

チャート:日本銀行より筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2020年1月10日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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