スペシャル・トレンドレポート

地政学リスクで幕を開けた2020年(松崎 美子氏)

2020年1月8日

新年あけましておめでとうございます。本年も引き続き、英国と欧州からの情報を配信いたしますので、楽しみにお待ちください!

2019年は新年早々、フラッシュクラッシュで幕開けとなった。今年はそういう兆候も見られず、一安心か・・・と思っていたら、突如として思わぬ事件が起きた。

それは、イラク・バグダッドで、アメリカ軍がドローンを使い、イランの軍事司令官を殺害するというニュースであった。

この問題を受け、各国はどう反応したのか?第三次世界大戦を引き起こすのか?マーケットへのインパクトは、どうなるのか?いろいろ考えてみたい。

私が住む英国での反応と政府の動き

今回の動きで一番の驚きは、軍事面では最もアメリカに近い同盟国である英国は、この計画についてアメリカから一切報告を受けていなかった。この殺害を知った政府関係者の間では、かなり動揺と怒りが走っている。

この問題は、同地域に駐留する400名を越す英国軍事関係者の生死に関わる問題であり、通常このような行動に出る場合、同盟国には事前に通達し、関係者の身の安全を確保してから攻撃に動くのが、常識的な動きである。しかしトランプ大統領は、この掟を破った。

この動きが起きた時、ボリス・ジョンソン首相(以下、ボリス)は、カリブ海で冬休みを楽しんでいた。普通の首相であれば、休みを切り上げて帰国し、緊急閣僚会議を招集するが、ボリスはそうしなかった。これについて、保守党幹部は中東危機を甘く見たボリスを快く思っていないとも伝えられている。

事件の第一報が伝わると、ボリスに代わり、ラーブ外務相が、「We have always recognised the aggressive threat posed by the Iranian Quds force led by Qasem Soleimani. Following his death, we urge all parties to de-escalate. Further conflict is in none of our interests
イランのソレイマニ司令官のアグレッシブな動きには、常々脅威を感じていた。同氏の死を受けて、関係各国の動きが収まることを我々は希望する。これ以上の混乱は、誰も望んでいない。」とコメントを残した。
https://www.gov.uk/government/news/iran-uk-responds-to-us-airstrike-on-military-commander-in-iraq

外務省はこれに続き、イラン・英国の二重国籍者のイラン渡航禁止。英国人の中東(トルコを含む)への渡航には、十分気をつけるよう、警告している。

動き始めたのは外務省だけでなく、ウォーレス国防大臣は、2隻の英国海軍軍艦をペルシャ湾に向かわせ、英国籍の民間船の保護を命じた。それに加え、キプロスからは英空軍RAF戦闘機を中東に向けて飛ばすよう、命令。

英独仏からのメッセージとアメリカからの反応

1月5日に休暇から戻ったボリスは、早速ドイツとフランスに連絡し、3カ国共同でコメントを発表。

「我々は、イランやイラクで、この動きが拡大することを望んでいない。今後も、我々は力を合わせISIS(イスラム国)と戦うことを優先する。そのためにも、特にイラク政府には、(ISIS撲滅に向けた)協力をお願いしたい。必要であれば、いつでも話し合いに応じる用意がある。」

この動きに対し、ポンペオ米国務長官は、「英独仏3カ国は、アメリカの取った行動に協力的でないことに、遺憾を感じている。」と発言。

首相レベルだけでなく、この3カ国の外務相たちも動き出した。今週月曜と火曜日に、英独仏各外務相が話し合いを持ち、今週木曜日にラーブ外務相が渡米、ポンペオ国務長官と会談を実施する予定。

英国各紙の一面報道

1月5日の英国各紙日曜版の一面は、当然であるが、米国の攻撃について報じている。その中のいくつかを紹介しよう。

タイムズ紙

タイムズ紙日曜版の一面タイトルは 「一触即発の危険な場所に陥れられた英国人兵士たち」

内容としては、「(攻撃があった)イラクに駐留する英国の兵士達には、イランが復讐の動きに出た場合、自分たちの身と、現地に駐在する英国人の安全を守るために、攻撃に出る許可が与えられるようだ。

ボリスの休暇中に起きた出来事であるが、このような極度の緊急事態発生にもかかわらず、休暇を早めに切り上げると言う迅速な判断に欠けたボリスに対し、議員の間でも不信感が高まっている」

ガーディアン紙 (日曜版は、オブザーバー紙)

オブザーバー紙一面タイトルは、「イラン司令官殺害の正当性に対する疑問と今後の復讐リスク」

内容は、「イラクのバグダッド、イランのテヘランそれぞれで行われたイランの司令官の葬式には、多数の人が参列した。

参列した人々は、今回の殺害を心から悲しみ、復讐を叫びながら、アメリカがとった行動の正当性に疑問を投げかけた。」

テレグラフ紙

同紙一面タイトルは、「ペルシャ湾での英国籍の民間船の安全確保のため、英国防衛庁は軍艦を手配」

内容は、「ウォーレス国防大臣は、2隻の英国海軍軍艦をペルシャ湾に向かわせ、英国籍の民間船の保護を命じた。

金曜日の攻撃を知らされていない英国であるが、政府関係者は土曜日ずっと意見交換を行った。休暇中でその場にいなかったボリスは、首相として最も重要な外交危機を解決しなければならない」

市場関係者の見方

週末にも関わらず、休みを切り上げ緊急ミーティングを行った金融機関やシンクタンクなどが多数あったようだ。

さすがに、今回の動きが第三次世界大戦に繋がるという意見はなかったが、あまり軽く見ない方がいいという意見。逆に、たぶん数週間で終わるため、株が下がったところは絶好の仕込み場となるという意見など、さまざまであった。

それぞれの意見は、こんな感じである。

  • 少なくとも1ヵ月程度、株式市場は苦戦を強いられると予想。目先のリスクがハッキリするまでは、投資家は安全資産に避難するだろう

  • 今回の殺害は、中東の地政学リスクを高める起爆剤になった可能性がある

  • マーケットでは、中東での全面的な戦争/紛争勃発は全く織り込んでおらず、今後の動きが はっきりするまでは、最強の安全資産 : 金(ゴールド) が強くなるだろう

  • 安全資産と言う面では、ドルや円も選択され、ボラティリティーが高まることが考えられる

  • 我々は、米株は下がったところは 「絶好の買い場」と見ている。特に、テクノロジー関連株が良いだろう

  • 今回のイラン司令官殺害は、米国とイラン間の対立リスクを指摘。これを受け、せっかく底打ちが見え始めてきた世界経済が、再度弱体化するリスクが出てくる

  • 米国とイランの対立が、中東/北アフリカ全域に飛び火するかどうかは、今後の各国の対応次第

  • イランが捨て身の動きに出て、ホルムズ海峡を閉鎖した場合は、世界的な原油価格の高騰を引き起こすことになりかねない

  • 今回の問題を受け、市場はあまり過剰反応すべきでないと考える

  • 2019年の株式市場は、2013年に続く上昇を遂げた。今回のこの問題を受け、この上昇トレンドが損なわれるとは、考えていない

  • この攻撃を受け、イランはたぶん報復するだろう。その場合は、確かに不透明感が高まる。しかし、現在の上昇トレンドが、それによって損なわれるとは考えられない

  • 投資家たちは、過度な動揺せずに、ストラテジーの大幅変更は待つべきであろう。 米国のイランに対する経済制裁の影響で、イラン経済はかなり傷んでいる。そして、イラン政府関係者は、米国を相手に、本格的な戦争に持っていこうとは考えていないだろう

  • 大規模な戦争を仕掛ける代わりに、誘拐や暗殺など、小規模の報復を繰り返すリスクもある。もし、このような小規模ではあるが長引く報復が実現すると、原油市場には悪い影響が出て、原油価格の上昇と言う形になって現れるかもしれない。

総合すると、今後数カ月にわたり様子を見ない限り、今後のインパクトを正確に測ることは難しいという意見が大勢であり、私も同感である。

しかし、株式は下がったところが絶好の買い場という意見が、ここまで多いのには、正直驚いた。どれだけマーケット参加者が、株に強気なのかを改めて思い知らされた。

市場へのインパクト

それでは最後に、今回の動きが金融市場に及ぼす影響について考えてみよう。

まず、今回の殺害を受けた金融市場の動きは、国債価格上昇 (利回り下落)/株安/円高/金、原油高と、典型的なリスク・オフの動きとなった。

今後のマーケットの反応次第とも言えるが、昨年9月にサウジアラムコの石油施設がドローン攻撃を受けた時、原油価格は15%上昇をしている。その時と比較すると、今回の原油市場での反応は、今のところ小さい。万が一、世界全体の原油の30%を供給するホルムズ海峡閉鎖などの緊急事態となれば、原油市場が荒れ、最悪の場合、原油価格が90〜100ドルまで急騰すると予想するエコノミストも、いるようだ。

イランがどのタイミングで、どのくらい過激な報復攻撃を仕掛けてくるかが重要だが、イラクはOPEC第2位の産油国で、イランの2倍の産出高となっている。今後もイラクを舞台に攻撃が続いた場合、原油供給の調整が必要となってくるだろう。

ないことを願うが、中東全体が不安定となり、世界規模のリスク・オフとなってしまった場合は、これだけ株式に対して強気な関係者が多いことを考えると、株価の大幅調整というシナリオが出てくる可能性も排除はできない。

為替においては、スイスに代わり避難通貨代表となった日本円が強くなることが考えられる。ただし、個人的には、第三次世界大戦にならない限り、106円台が当面の下限と予想している。

最後になるが、今回の動きがトルコにまで拡大するリスクが完全に払拭されるまでは、トルコリラも苦戦を強いられるかもしれない。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2020年1月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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