スペシャル・トレンドレポート

米国大統領選への不透明感が台頭、クロス円は年後半に向け反落へ(竹内 典弘氏)

2019年12月6日
チーフディーラー :「クロス円は8月26日(月)の安値以降の堅調推移が継続だが、来年年明け以降の相場展開をどう読むかな?」
アシスタント・マネージャー :「米中協議の進展や英国のEU離脱への前進が、短期的な相場回復の原動力でしたので…」
チーフディーラー :「分かった、ではそれを差し引いて考えよう」
アシスタント・マネージャー :「単刀直入に来年は4年に一度の米国の大統領選の年、年後半にかけ市場は不安定化、クロス円は下落でしょう」

令和元年が師走をむかえ、令和2年の相場展望が広く市場関係者から予想されるなか、何時も辛辣な相場観を披露するアシスタント・マネージャーの来年の相場展望は厳しい。ただ、足元ではクロス円は夏以降の高値水準に位置しており、反転下落を想定するのは難しい。

振り返ると、今年8月23日(金)、トランプ大統領が「2500億ドル分の中国製品に課す制裁関税を10月1日(火)より当時の25%より30%に引き上げ」と発表した。週明け8月26日(月)の為替市場はリスクオフの展開からクロス円が総崩れ、1月3日(木)のフラッシュクラッシュ(注)以降の安値を記録した。

(注)株式市場や為替市場で一時的に価格が急落する現象

ただ、その後のクロス円は全般回復基調を鮮明とする。その背景にあるのは、米中協議の第1弾への合意観測、そして12月12日(木)に総選挙を実施予定、英国与党保守党の圧勝からEUからの「合意ある離脱」が視野に入る英国情勢が後押ししていることは確かだろう。こうしたリスクセンチメントの改善からのクロス円の堅調推移だが、年明け以降は継続するのだろうか。

図表:筆者作成

今年の為替市場の動きは端的に国際政治ドリブン、つまり中央銀行の金融政策はどちらかというと後付けの意味合いが強い。米中の関税の応酬から、グローバルで絶対額での貿易額が減少、経済規模の縮小を伴い、特に中国向け輸出の大幅減少から、欧州の盟主であるドイツ経済などは混迷の色を濃くした。

IMF(国際通貨基金)を筆頭に世界経済減速を予想、各国中銀は今年の年央以降に「予防的利下げ」と称し、政策金利の引き下げを前倒しで実施、景気の腰折れを未然に防いだ。オセアニアの2中銀を筆頭に、米国の中央銀行であるFRBまでも、ここまで3度で75bp(0.75%)の利下げを実施している。

こうした予防的利下げの効果、過去に目を転じるとFRBは過去1995年、1998年にこうした利下げを実施し奏功している実績がある。ただ予防的利下げ、景気拡大の末期に実施されることから、好景気を反映して高値水準で推移する株価をさらに押し上げ、ややバブルの様相を呈する。

日欧米の主要株価3指数を、2015年初頭を100として指数化、その後の推移を計測すると、足元ではそれ以降の最高値水準、つまり金融緩和が支える過剰流動相場とも解釈できる。ここで疑問が浮かぶのは、この低金利が支えたゴルディロックス(適温相場)、いつまで継続するのだろうか。

チャート:RBA、RBNZ、FRBより筆者作成

チャート:筆者作成

住宅ローンや自動車ローンをみての通り、貸出金利は長期になるほど高い。これは借り手の長期にわたる返済能力の劣化のリスクを、金利水準を高く設定することで、貸し手とのリスクバランスを均衡させている。ただ長期金利は景気拡大の末期となると、将来の景気減速を織り込み低下、短期金利を下回る逆イールドという珍しい現象が発生する。

こうした逆イールド現象、景気拡大の末期にほぼ必ず発生、米国の10年債金利は、今年8月に約12年ぶりに2年債金利の水準を下回り逆イールドが発生した。この先の景気後退懸案からリスクセンチメントが悪化、「豪ドル/円」は一時的に70円の大台を割れた。

その後は、米経済指標の回復、上述の米中協議の第1弾への合意期待、そして英保守党の圧勝観測から逆イールドが大きく解消、「豪ドル/円」も反転上昇を鮮明とする。8月26日(月)以降のクロス円の回復は、「英ポンド/円」や「豪ドル/円」を代表とするとオセアニア通貨がけん引する。

チャート:筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
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米株3指数の一つS&P500 のボラティリティ(変動率)を示すVIX指数(ボラティリティ・インデックス、別名恐怖指数)は足元で14~15、年初来の最低水準で安定的に推移する。このVIX指数は、市場のリスクセンチメントを表す指標として有名で、指数の高止まりはリスクオフから円買い要因、一方で指数の低位安定はリスクオンからの円売り要因となる。

つまり、VIX指数の年初来安値水準での推移は市場安定という観点から、クロス円では買い要因。当面、現在の市場環境が継続する限り、クロス円の高値圏での攻防の継続が予想され、大きな反転下落は望めそうもない。

チャート:筆者作成

米国に目を転じると、2020年は4年に一度の大統領選の年で、金融市場の波乱要因として機能しそうだ。すでに来年11月の大統領選まで1年を切っており、年明け以降は現職の共和党のトランプ大統領の支持率の推移や、対抗馬である民主党候補の選出レースの行方に、金融市場は一喜一憂することになる。

今から3年前、トランプ候補が共和党の支持を取り付け、さらに大統領選で勝利すると見込んだ人は少数派だった。来年の大統領に向け、民主党候補で、GAFA(注)の解体や富裕層への大増税を公約に掲げる左派のエリザベス・ウォーレン候補が、本戦まで駒を進めると読む人は少ない。

(注)グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの巨大企業を代表する相称

ただ、2016年6月の「英国のEU離脱を問う国民投票」の結果をみての通り、選挙や国民投票の予想はまさに『事前予想』であり、あえて事前に正確な意思表示をしない人も多い。これがまさに番狂わせを生む背景であり、来年2020年後半に向け、金融市場、特に為替市場も政策リスク、特に大統領交代の政策変更を一部織り込みにいく可能性は極めて高い。

以上をまとめると、当面、クロス円の高値圏での推移に死角はみられそうもない。しかし、2020年後半に向け金融市場は不安定化、リスクオフの局面到来から、クロス円も調整局面入りから下落に転じるとみている。

図表:筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年12月6日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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