1)米ドル円は狭いレンジでの膠着、ポンドの上昇トレンドは変わらず
早いもので、今年も残りわずかとなった。
2019年のドル円はわずか8円にも満たないレンジ圏でのもみ合いに終始。
本邦機関投資家からの「ドル買い円売り需要」と、FRBの連続利下げによる「ドル売り圧力」がドルの需給を拮抗させ、米ドル円は方向感なく、105~110円の狭いレンジに落ち込んでいる。
そのため、多くのマーケット参加者の視線は動かない米ドル円から、他の通貨ペアに向かっている。
マーケットにテーマがあると言う意味で最も注目を集めているのが、先月このレポートでも取り上げたポンド。
ボリス・ジョンソン首相の高度な政治手腕により、イギリスは「no deal Brexit」を回避。
そして「合意あるBrexit」に向けて邁進中。
呼応してポンドドルは10月初頭の1.22台から1.30台まで急反発。
1.3000台回復に少々時間を要しているが、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった大手米銀もポンドドルについては2020年初頭に向けて強気継続。
モルガン・スタンレーはターゲットを1.4000として、ポンドドルのlong(買い)を推奨しているようだ。
2)RBNZが緩和合戦離脱!
キウイは上昇トレンドに
そのポンドに次いで、市場の注目を集めているのがキウイ(= ニュージーランドドル)。
今月初旬にマーケットを驚かせたのがRBNZ(=ニュージーランド準備銀行)の金融政策。
11月13日(水)日本時間10時に、RBNZの金融政策決定会合の結果が発表された。
結果は、市場の大方の予想に反して、政策金利を据え置き。
そもそもRBNZは2014年から2015年にかけて政策金利を3.5%まで高めていたが、その後利下げを繰り返し、2016年から今年初めまで1.75%を長く維持していた。それが今年に入り米中貿易戦争の影響による世界経済縮小懸念から再び利下げに動いてきた。

(添付図は2011年1月から2019年11月のRBNZ政策金利推移=筆者作成)
もともと、今回のRBNZの金融政策に関しては、利下げと据え置きで見方が分かれていた。
しかし、11月6日(水)発表のNZ第3四半期雇用統計が弱い結果に終わったこと。加えて、11月12日(火)のNZ中銀四半期インフレ見通し発表で、見通しの引き下げが行われたことなどの材料が重なり、発表直前のOIS(Overnight Index Swap=翌日物金利スワップ)での利下げ織り込み度は、72.3%まで高まっていた。市場の多数はRBNZが利下げに動くと考えていたわけだ。
ところが、結果は据え置き。
NZドル米ドル(NZDUSD)は金融政策発表後0.6330ドルレベルから、一気に0.6400ドル台まで急騰。
RBNZは、今後の金融政策についてはデータ次第と強調しているため、いずれ利下げせざるを得ないと見る市場参加者が多数。
ただニュージーランドの金利先物市場によれば、来年の3月までにRBNZが0.25%利下げすることを50%も織り込んでおらず、極めて流動的。

図表:IMMより筆者作成
加えてIMM(国際通貨先物市場)によれば、キウイのpositionはまだかなりキウイ売りに偏っている。

チャート:筆者作成
11月19日に終わった週のデータによれば、投機家のキウイのネットショートは10月上旬の記録的な42,474のshortから減少したが、依然として35,099という大幅なネットショートのままであることから、キウイ売りに傾いている反動で、キウイの上値余地は拡大中。
ここでキウイのチャートをチェックしてよう。
添付図はキウイドル(NZDUSD)の日足。

チャート:筆者作成
Bloombergでは、キウイは10月1日に0.6204という安値まで到達。
筆者が頻繁に使用しているTD-シーケンシャルというオシレーターでは10月初旬にカウントダウンの13を点灯し、ボトムアウトを示唆。
そして前述のようにRBNZが政策金利を据え置いたことをきっかけに、キウイドルはボトムアウトから上昇トレンドに入り、一気に0.6400台まで反発。
その後は0.6400レベルでもみあっているが、前述のように、RBNZの政策金利が緩和傾向から中立に戻る可能性が高くなったこと、そしてIMMのpositionがかなりキウイshortに傾いていることから、キウイは7月19日に到達した高値である0.6791へと反発する公算が高まっている。
いくつかの大手米銀も2020年の注目通貨のひとつにキウイを取り上げている。
例えば、モルガン・スタンレーは2020年の注目通貨のひとつにキウイをピックアップ。キウイドルのlongを推奨しており、そのターゲットは0.6900としているようだ。
こうした年間の予測は、新しい年が始まる前、つまり年末年始の方が予測の精度が高い傾向がある。
そのため今年の年末に向け、ポンドドルに加え、キウイの反発にも注目。
YJFXのMT4で表示した日足のディナポリチャートでも、3本の移動平均線の上側となりつつあり、上昇の可能性が示されている。

チャート:YJFXMT4チャート
昨年の米ドル円も大きな動きはなかったが、新年早々のフラッシュクラッシュで米ドル円は急落。前述のモルガン・スタンレーによる2019年の米ドル円の目標値の104円台に、一気に到達したのは多くのトレーダーの記憶に残るところである。
来年に向けて注目通貨としてピックアップされているキウイの動きに注目。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。