スペシャル・トレンドレポート

ECB理事会は新体制へ、「ユーロ/米ドル」は将来の緩和余力を織り込み上昇へ(竹内 典弘氏)

2019年11月8日
チーフディーラー :「ECB(豪州中央銀)はドラギ総裁が退任、ラガルド新総裁が就任したが、行方をどう読む?」
アシスタント・マネージャー :「ドラギ総裁の緩和路線を当面継続することは間違いなさそうですが…。」
チーフディーラー :「どうした?歯切れが悪いじゃないか」
アシスタント・マネージャー :「9月12日(木)のECB理事会では、議論の紛糾が判明しています。理事会内をこの先、どうやって立て直していくのかと案じていました」

チーフディーラーに対し、いつも名案などを提案するアシスタント・マネージャーだが今回ばかりは歯切れが悪い。9月12日(木)開催のECB理事会では、利下げ、APP(資産買入れプログラム)の再開、フォワードガイダンス(先行き見通し)の変更を伴う包括的な緩和パッケージが決定されている。

ただこの決定をめぐり、利下げに関しては、理事会内ではおおむね意見集約が成立していた。しかし、APPの再開にはオランダ中銀のクノット総裁を筆頭に、ドイツ、フランスなどから少なくとも7名以上のメンバーが反対票を投じたことが判明している。

こうしたなかで、ドイツ出身のラウテンシュレーガー理事は、任期を満了する前に辞意を表明、10月末で退任した。APPの導入再開への抗議辞任とみられ、理事会内の分裂を象徴する出来事となった。ドラギ総裁は8年の任期を10月31日(木)に終え、ECB理事会は11月より新体制に移行する。

後任の総裁は、元IMF(国際通貨基金)の専務理事を務めたラガルド氏が引き継ぐことになる。ただ退任間際の段階で、こうした積極的な緩和政策を押し切り、理事会内の対立の構図が鮮明となるなか退任することで、今後のラガルド体制に大きな置き土産を残したことになる。

利下げの実施で、政策金利の一つである預金ファシリティ金利は-0.5%まで深堀りが進行、副作用が指摘され始めている。さらに欧州債務危機(2010-2012年)以降のAPPの強化で、ECBのバランスシートは約550兆円程度まで拡大しており、今後の追加緩和の余地は極めて小さい。

チャート:ECBより筆者作成

チャート:ECBより筆者作成
※全期間、1ユーロ=120円で計算

「ユーロ/米ドル」は、2017年後半の欧州での景気拡大の恩恵から、2018年2月に戻り高値1.2555を示現した。ただその後は、米国で利上げが継続、政策金利のすう勢を反映する米独の2年債の金利差は、直近30年では最大まで拡大、「ユーロ/米ドル」の戻りを限定的とした。

その米独の2年債金利差は、2018年11月には一時3.59%まで拡大、この2通貨間では実質キャリートレード(注)が成立する水準まで拡大、「ユーロ/米ドル」の下落の原動力となった。ただ足元で2.20%へと急激に縮小、キャリートレードの縮小が静かに進行する。

(注)この場合、ユーロを借り入れ、米ドルで運用することで金利収益を得られ、これを目的とした取引のこと

2019年にかけては、キャリートレードの拡大から、シカゴのIMM通貨先物市場での「ユーロ/米ドル」の売り残高も順調に拡大した。その売り残のピークは2019年5月7日(火)、一時106105枚まで拡大していたが、「ユーロ/米ドル」の底入れに伴い、足元でその水準は半分程度まで縮小してきた。

この「ユーロ/米ドル」とシカゴIMM通貨先物市場の取引残高、両者の関係をよく観察すると、上昇相場や下落相場の末期では「残高の増加に価格の変動が逆行」するダイバージェンス(かい離)が発生していることが分かる。今回も10月の上旬にかけて発生、「ユーロ/米ドル」の底入れを示唆する。

チャート:筆者作成

チャート:CFTCのデータより筆者作成

米国では現地時間の10月30日(水)、FRB(米国の中央銀行)が3会合連続となる利下げを発表した。昨年12月、FRBパウエル議長は「米経済は好調そのもので、2019年も2回の利上げが適切」と明言していた。しかし、その後の年末年始に株価の下落の洗礼を受け、1月以降に大きく軌道修正した。

米国では、失業率が約半世紀ぶりの水準となる3.5%まで低下、完全雇用を揺るぎないものとする。こうした経済が好調さを維持、この7月に米国では戦後最長の景気拡大が11年目に突入するなかでの利下げは、「予防的利下げ」といわれている。

この利下げの根拠となっていたのは、「着地点のみいだせない米中の貿易協議」や「一向にEU(欧州連合)離脱に向けた議論が進まない英国情勢」からだった。ただここにきて、米中協議では部分合意が成立、英国のEU離脱期限も来年1月末まで延期が確定、合意なき離脱の懸念が遠のいた。

こうした経緯から、30日(水)のFOMC(注)では、投票権のある2人の地区連銀総裁が3会合連続で利下げに反対票を投じた。公開された声明文のなかで、「適切に行動する」という次会合以降の利下げを示唆する文言は削除され、「一旦の利下げ打ち止め」が示唆された。

(注)連邦公開市場委員会、米国の金融政策を話し合う場

1998年に目を転じ、前回の「予防的利下げ」も3回で終了しており、発表後は、米金利の上昇から、「ユーロ・米ドル」は1.1081まで売られた。ただこの動きは続かず、米金利は低下、「ユーロ/米ドル」は直ぐに反転上昇となった。市場反応みる限り、最低あと1回の利下げを織り込みつつある。

チャート:FRBより筆者作成

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

ECB理事会内で政策判断が紛糾、今後の緩和余地が小さくなるなか、足元での米国の政策金利は1.75%、この先に景気減速となった場合でも利下げの余地は大きい。さて、リーマンショック後に日米欧で、国債等を買い入れる量的緩和が実施された影響で、その緩和の大きさを測ることが難しくなっていた。

RBNZ(NZ準備銀)のレオ・クリップナー氏は、こうした量的緩和の効果を政策金利に置き換える研究を継続、RBNZのHPでレポートを公開する。これによると、量的緩和の大きさを加味したECBの政策金利(=影の政策金利)は足元で-6.62%、一方でFRBは1.64%となっている。

つまり、ECBはすでに大きな金融緩和を実施しており、今後の政策変更の余地に乏しい。ラガルド新体制となっても、理事会内の再構築に腐心するとみられ、9月の政策変更の効果を見守る可能性が高い。以上をまとめると、一旦底入れを鮮明とする「ユーロ/米ドル」、英国の合意なき離脱の可能性も低下したなか、引き続き底堅い展開が継続しそうだ。

チャート:RBNZより筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年11月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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