1)10月31日のBrexitはほぼ不可能に
9月初旬にボリス・ジョンソン首相が「のたれ死んだ方がましだ」とまで主張した10月31日のBrexitだが、現状では10月後半の離脱はほぼ不可能の状況となっている。
10月31日の期限を延期せざるを得なくなったのが英国議会の存在。
ここまでの流れを確認すると、英国ジョンソン首相の離脱案提示を受けて、まず10月17日、ユンケル欧州委員長は「英国とEUで離脱合意が成立した」と発表。ジョンソン首相の離脱案を17日開催のEU首脳会合は全会一致で承認。
これで英国議会が離脱合意案を承認すれば、ジョンソン首相の目論見通り10月31日に英国はEUから離脱するはずだった。
しかし、英国議会は、新たな離脱案の採決を先送りすることを決定。英国議会では、まず離脱に必要な関連法が成立するまで、ジョンソン首相の離脱案の採決を留保するよう求める超党派議員の*修正動議が可決されたためだ。
(*修正動議=Letwin amendment(レトウイン修正案)は、「離脱協定法案(WAB)」が可決するまで、下院による離脱協定案承認を棚上げするという内容。これに対し、ボリス・ジョンソンは即座に「関連法案」を提出し議決することで、あくまでも31日の離脱を目指していた。)
そして日本時間23日未明、英国下院はEU離脱協定法案を第2読会で可決。合意離脱の可能性が高まる。これにより、ポンドドルは一時1.3013まで急騰。
しかし、英国議会下院は離脱関連法案を早期に成立させるために内閣が提出した「短期日程」での審議を否決。これにより離脱案の審議は長期化することとなり、英国議会が短期日程で離脱案を審議して10月末までにBrexitするというジョンソン首相の想定するスケジュールは、ほぼ不可能となった。
結果として、ボリス・ジョンソン首相が10月31日から延期するくらいなら「のたれ死んだ方がましだ」とまで主張した10月31日のBrexitの可能性はほぼ消滅。
これにより、ポンドドルは一時1.2789まで急反落。
ただ10月25日の週のポンドドルは依然1.2827の高値圏でクローズしている。
2)合意ある離脱が実現すれば、
ポンドドルは1.45へと反発?
ここで今月のポンドの動きを振り返ってみる。
今回のポンドの急騰は、10月10日のボリス・ジョンソン英首相とアイルランドのバラッカー首相のミーティングから始まっている。EU加盟国のアイルランドと陸続きである北アイルランドの国境をどうするかが、英国のEU離脱の最大の懸案だったが、バラッカー首相のコメントからミーティングは順調だった模様。
この日、Brexit最大の懸案に道筋が見えたことからポンドドルは1.22から21日の1.3013の高値に到達するまで続伸。つまり離脱合意の可能性が見えてきたポンドドルはわずか10日強の間に約800ポイント急騰。
ポンド円も同様で131円~141.50円へと約10円急騰。
その後前述したようにボリス・ジョンソン首相が目指した10月末のBrexitは英国議会の審議状況からほぼ不可能となり、10月10日から始まったポンドの急騰はいったん沈静化。
しかし、ポンドドルは依然高値圏で推移している。
これはマーケットの最大の懸念であった合意なき離脱の可能性がほぼ消滅していることが影響している。
英国とEUの離脱合意は前任のメイ政権でも合意していた。
しかし、英国議会で否決され、英国とEUの離脱合意は頓挫して、メイ首相は退陣。
このため、今回も英国議会の動きが注目。
ただ英国議会の今回の交渉相手はボリス・ジョンソンである。
ロンドンの友人は「ボリスは交渉上手だからまだなにが起きるかわからない」という見解。
ボリス・ジョンソンがようやく手に入れた英国首相の座を、史上最短の在任期間で終わるようなことは当然避け、英国議会の壁もうまく突破するのではないかと個人的には想定している。
つまり、11月中に追加審議が行われ11月末までには離脱協定案が可決される可能性が浮上してきているわけである。
一方、英国議会の動きに対して、ジョンソン首相サイドからは総選挙の声も聞こえてきている。英国議会が前に進まないなら総選挙で国民の民意をあらためて確認してEU離脱を達成しようという考えなのだろう。この場合、もし総選挙になった場合でも、合意なき離脱という最悪のシナリオは避けられる可能性が高まっている。但し、今から解散総選挙となれば10月31日の離脱期限は延長せざるを得えない。
11月末までには離脱協定案が可決される可能性が高いとみているゴールドマン・サックスは、ポンドのlongを推奨しているようだ。
モルガン・スタンレーもマーケットにはまだ極めて大量のポンドのshortが残存しており、上値余地が拡大していると指摘。
合意ある離脱であれば、ポンドドルは1.45レベルへの反発もあるのではとの意見もでている。
ここで月足のポンドドルのチャートをチェックするとsequentialではカウントダウン(=13)を点灯し、中長期的にはポンドドルの上値余地が拡大していることを示唆している。

(チャート:筆者作成)
一方、日足ベースでのDemark indicatorなどはポンドドルの買われすぎを示唆していることから、10月23日からはこれまでと違い、丁寧に押し目を待ちたいところだが、ポンドの上昇基調は変わらず。
YJFX! MT4チャートで見るGBPUSDの週足ディナポリは、25*5DMAを上抜けて上昇しており、MACDもプラス側で上昇。ただストキャスティックスは天井圏で上向きだが、10月最終週に前週高値を上抜けないと少し下げる可能性が出てきそうだ。

(YJFX MT4チャートより筆者作成)
また同様に日足のディナポリは、9月の安値を底に上昇に転じており、高値を更新し安値を切り上げている。このため、1.22を割り込まないと下げにくく、上昇の動きが続いているが、ストキャスティックスは買われ過ぎから少しさげており、10月末から11月にかけての動きが注目。

(YJFX MT4チャートより筆者作成)
結果、日足、週足のチャートでは、買われ過ぎのサインが出ており、幾分かの調整を示唆しているため、高値追いをせず、丁寧に押し目を待ちたいところだ。
ボリス・ジョンソン首相の凄腕で「合意なき離脱の可能性はほぼ消滅」したため、合意なき離脱によるポンドドルの暴落に怯える相場も終わり、ブレグジットは新たな局面に入ったといえる。
暴落リスクが軽減するなか、合意ある離脱の実現ならポンドドルは1.45へと反発するという意見もでてきており、新たな局面に入ったBrexitとポンドドルの行方に注目。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。