スペシャル・トレンドレポート

Brexitまで残り2週間、EUサミットと19日が重要日(松崎 美子氏)

2019年10月16日

今月に入り、Brexitを巡る動きが、急に慌ただしくなってきた。特に先週は、合意に向け大きくセンチメントが改善した。

今月2日に英国政府がEUに提出したBrexit条件に対し、EUは受け入れられないと否定的な返事を返してきた。これを受け、先週前半は、「合意なき離脱路線、ほぼ確定」という雰囲気が英国中に漂った。しかし、10日に突如としてボリス(ジョンソン英首相)とアイルランド共和国バラッカー首相の秘密会談が、英国のリバプール近郊で行われ、一気に「奇跡の条件付き離脱路線」への修正が行われた。一番びっくりしたのは、他でもない英国に住む人々であろう。

FXマーケットでも、ポンドのショート・カバーにより、ポンドは全ての通貨に対して、上昇して終了している。

チャート:筆者作成

今回のコラムでは、ここからの重要イベントを紹介しながら、注意点や予想される展開について、考えてみたいと思う。

10月2日に提出されたボリスのBrexit条件

全ての動きは、この日から始まった。英国のボリス・ジョンソン首相(以下、ボリス)がこの日にEUに提出したBrexit条件が、先週のポンド急騰のベースとなっていることは疑いの余地がない。そこで、まずこの条件をきちんと調べておこう。

ボリスが提出した書類は、2種類ある。それぞれのリンクは、以下の通り。

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/
file/836029/PM_letter_to_Juncker.pdf

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/
file/836030/Explanatory_Note.pdf

気になる内容を簡単にまとめると、

・ 北アイルランドを含む英国連合王国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)は、移行期間終了後の2021年から、欧州関税同盟から離脱する。

・ 北アイルランドを含む英国連合王国全ての国が、共通の関税システムを導入する。

・ しかし、ベルファスト合意を遵守する目的で、北アイルランドだけはその後も、農産物とその他の品目において、EU規制に従う。
ただし、これについては、北アイルランド議会の承認が必要となる。つまり北アイルランド議会で合意を得られれば、アイルランド共和国(南)と北アイルランド(北)は、統一したEUルールに従うことになる。

・ 理屈上は、このルールは永久に継続されることになるが、この統一ルールの継続については、4年ごとに北アイルランド議会での合意を必要とする。

・ 北アイルランドとアイルランド共和国の統一ルールが適用された後、それ以外の英国連合王国と北アイルランド間の物資の移動については、電子書類での確認と、一部の物資に限り、国境とは離れた場所で最小限のテクニカルのチェックが行われる。

2つの国境にNOを突きつけた北アイルランドDUP党

2つの国境

ボリスのBrexit条件では、北アイルランドは、実質的に「2つの国境」を有することになる。

① 赤い国境
英国連合王国全てが、共通の関税システムを導入。そのため、北アイルランドとアイルランド共和国との間には、関税についての「目に見えない国境」ができる。

② 青い国境
ベルファスト合意遵守の目的で、北アイルランドは、EU規制(単一同盟ルール)に従う。北アイルランド以外の英国連合王国は、単一市場から離脱するため、アイリッシュ海に、「目に見えない国境」ができる。

図表:筆者作成

DUP党ドット副党首のインタビュー

この週末に、イタリアのラ・リパブリカ紙のインタビューに応じたDUP党ドット副党首。
https://www.repubblica.it/esteri/2019/10/12/news/
dup_s_nigel_dodds_rejects_double_customs_brexit_solution_it_cannot_work_-238366257/

それによると、北アイルランドは英国連合王国全体が離脱後に形成する関税システムに残ることが保証されなければ、今回の条件には合意できないと語っており、同時に「2つの国境」に対しても不満を隠していない。

実は、先週開催されたボリスとバラッカー首相会談で、どのような条件が提出されたのか、未だ全容が発表されていない。しかし数々の報道を読むと、10月2日のボリス案をベースに、若干の修正を加えていることは間違いなく、たぶんこのような内容になっていることが予想される。

・ EU離脱後、北アイルランドを含む英国連合王国すべての国が、共通関税システムを形成。

・ 建前上は、共通システムに所属する国同士の物品移動に対しては、関税は発生しない (例 : イングランド ⇄ 北アイルランド)。

・ 南北アイルランド間のハードボーダー設置を避けるため、北アイルランドのみが、EU関税ルールを遵守する。

・ これが意味することは、北アイルランドの企業が、残りの英国連合王国から物品を輸入した場合、関税支払い義務が生じる。

・ しかし、実質的に北アイルランドも英国連合王国関税システムの一員であるため、輸入した物品が再度EU加盟国に輸出されない限り、支払った関税は、後ほど返金される。

EUが指摘した問題点

ボリス/バラッカー会談の翌日から、集中交渉が続いた。一時は「合意なき離脱は、避けられそう」という期待が高まったが、この週末EU関係者の口から漏れてきた言葉は、「まだまだ予断は許さない」という厳しいものであった。

英国でも13日夕方に、ボリスが閣僚に向けコンフェレンスコールを実施したが、そこでも「まだ確実に合意に至る保証は、ない」と語ったそうだ。

EU側が抱く懸念材料は、「密輸」の部分が一番多い。今週火曜日にもバルニエ首席交渉官から、正式な見解が発表されると伝えられているが、週末に伝わってきた問題点は、以下の通りである。

・ 大前提として、北アイルランドは英国連合王国全体の「共通関税ルール圏」に参加。
それと同時に、南北アイルランド間では、EU規制に従う。

・ もし、物品がイングランド→北アイルランドへ動く場合、輸入者はEU規制に従い、関税をまず支払い、後ほど支払い分が返金される。ただし、これは、その物品が北アイルランド国内に留まるという前提。

・ イングランド→北アイルランドへ移動した物品が、その後アイルランド共和国へ移動する場合は、EU規制による関税の返金は、ない。

・ バルニエ交渉官が提起した問題点は3つ
① 関税の返金システムが、移行期間終了の2020年1月末までに完成するか、微妙なところ。
② システムそのものに、抜け道が多すぎる。
③ 「北アイルランドに留まる」条件で輸入された物品が、本当に北アイルランドに留まる保証がない。
→→→ ここでは砂糖を例に挙げて説明しよう。イングランドから北アイルランドに輸入された砂糖を使い、飲料水を作る。その飲料水が、アイルランド共和国や、それ以外の国に輸出された場合、どうなるのか?

少なくとも、この点を解決しない限り、合意は難しいということだろう。

ここからの重要日:10月17日〜19日

EUサミット 10月17/18日

泣いても笑っても、この日で全てが決まる。ここで合意され、英国議会でその合意内容が可決されれば、英国は晴れて10月31日に条件付き離脱が可能となる。

もし、合意ができなければ、交渉期間延長が提案されるかもしれない。ボリスは、「野垂れ死しても、延長には応じない」と語っているが、サミットを前に英国政府からEUへ提出された書類では、交渉期間延長に応じると書かれているということだ。
https://www.consilium.europa.eu/en/meetings/european-council/2019/10/17-18/

英国議会緊急招集 10月19日

10月9日、ボリスはEUサミット翌日の土曜日(19日)、議会を緊急招集すると発表。

https://www.parliament.uk/about/faqs/house-of-commons-faqs/business-faq-page/
議会のホームページによると、1939年から現在に至るまで、土曜日に議会が緊急招集されたのは、3回のみ。

1回目は、第二次世界大戦が始まる前日。
2回目は、1956年 スエズ戦争の時。
最後は、1982年のフォークランド紛争開始の前日。

全てが歴史を塗り替える出来事の前日での招集となっているだけに、今回のボリスも、相当の覚悟での招集と思われる。

10月19日に起こりうること

上述のように、北アイルランドDUP党は、現在交渉中の条件に対し反対しているため、EUサミット合意した場合でも、そのまま英議会で可決する保証は、どこにもない。

Brexit合意案に対する議会の採決予想

先週中盤までは、もしサミットで合意されれば、英国議会での採決では、「賛成 322 vs 反対 317」となり、ギリギリ可決という予想がコンセンサスになりかかっていた。内訳は以下の通りである。

***ボリス案賛成 322票
保守党 277
労働党 10
DUP党 10
無所属 25

***ボリス案反対 317票
労働党 234
SNP党 35
自民党 18
無所属 10
Change UK党 5
プライドカムリ党 4
緑の党 1
保守党 10

しかし、その後の発言内容などを総合すると、DUP党が賛成から反対へ。労働党の賛成議員が、当初の10名から19名に増えた結果、投票予想はこのように変わる。

***ボリス案賛成 321票
保守党 277
労働党 19
無所属 25

***ボリス案反対 318票
労働党 225
SNP党 35
自民党 18
無所属 10
Change UK党 5
プライドカムリ党 4
緑の党 1
保守党 10
DUP党 10

2度目の国民投票

もし、ボリスのBrexit案の合意が得られなかった場合、21名の元保守党造反残留支持議員を含む野党連合は、ボリス案への審判を下す目的で、2度目の国民投票を実施し、国民の真意を問うことを求めるようだ。

この日の決定内容によっては、21日(月曜日)朝に大きく窓を開けることも十分にあるため、注意が必要。

ここからのポンド

今月に入ってからのポンドは、イベント・ドリブン相場となっており、テクニカルが通用しない値動きとなっている。そのため、要人発言に注意しながら、ポジションを調整して対応することが必要である。

念のために英中銀が発表するポンド実効レートをチェックしてみたが、急反発していることが確認できる。次のレジスタンスは80となるが、

① 今週木曜日からのEUサミットでBrexit合意ができない。
② 今週土曜日の英議会緊急招集で、可決せずに他の結果(2度目の国民投票実施や、内閣不信任案決議など)となってしまい、不透明感が改めて台頭する。

このような状況となれば、テクニカルなど関係なく、また上昇/下落が待っている。

くどいが、イベント・ドリブン相場では、利食い千人力となるため、小刻みな利食いを心掛けることを忘れずに!

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2019年10月16日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について松崎美子氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

YJFX!口座開設者限定コンテンツ「プレミアムレポート」のご紹介

為替業界の著名人や当社のマーケット分析を担当するスペシャリストが執筆したYJFX!のためだけの限定レポートです。PCの取引画面やCymoアプリからご利用いただけます。

みんなのオーダー

YJFX!で取引されているお客さまのポジション状況をグラフ化し毎日更新しています。

YJFX!オリジナル ウィークリーレポート

証券アナリストの資格を持つYJFX!マーケット分析チームが前週の振り返りと今週の注目ポイントをわかりやすく説明しています。

スペシャルレポート

為替トレーダーやアカデミー講師のスペシャルレポートが読めるのはここだけ!他では読むことができない限定レポートをご提供!

プレミアムレポート閲覧方法

ご覧いただくには外貨exの口座をお持ちいただく必要があります。

外貨exの口座をお持ちの方

【スマートフォンをご利用のお客さま】
>Cymoアプリのダウンロードはこちら
①「Cymoアプリ」にログイン
②「ニュース」→「プレミアムレポート」

【パソコンからをご利用のお客さま】
>パソコン版取引画面へのログインはこちら
①取引画面にログイン
②左側メニュー「投資ツール」→「ニュース・レポート」→「プレミアムレポート」

外貨exの口座をまだお持ちでない方

新規口座開設(無料)はこちら

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社は
ヤフー株式会社のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN