スペシャル・トレンドレポート

『強弱感がきっ抗、「米ドル/円」は106~109円推移へ』(竹内 典弘氏)

2019年10月4日
アシスタント・マネージャー :「FOMC(注1)内では利下げに反対する勢力に直面、トランプ大統領には利下げを迫られ、FRB(注2)パウエル議長の居場所がありません」
チーフディーラー :「向かうところ敵だらけ…」
アシスタント・マネージャー :「まさに四面楚歌…」
チーフディーラー :「FRBの今後の政策運営、注目が集まるのだが、情報発信も含め、薄氷を踏むことになりそうだな」

(注1)米国の金融政策を決定する会合
(注2)米国の中央銀行

9月に入り、前月からの流れを引き継ぎ106円台の前半で取引開始となった「米ドル/円」は、3日(火)に安値105.74円を示現した。その後は香港で逃亡犯条例が撤回、米中の閣僚級の通商協議が10月に再開と発表されたこともあり、米金利上昇から「米ドル/円」は回復をみせた。

FRBは現地時間の9月17日(火)~18日(水)にかけて開催されたFOMCで、7月の会合に続いて政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の25bp(0.25%)の利下げを決定した。次回会合以降の利下げを示唆する“will act as appropriate to sustain the expansion”(景気拡大を支援するために適切に行動する)文言は残ったが、一旦は材料出尽くし、「米ドル/円」は戻り高値108.48円を示現した。

FRBパウエル議長は、FOMC後の記者会見で「米国経済の現状に関し、良好だ」としながらも「サウジアラビアの油田が攻撃されたことを念頭に、地政学リスクの高まり」も警戒した。トランプ大統領からの執ような利下げ要求に対しては「政治は関係ない、FOMCは金融政策を決定するだけだ」と自身の考えを強調した。

このFRBの政策決定に関し、トランプ大統領は「パウエル(議長)とFRBは失敗だ。根性も先見性もない」とツイッターに投稿した。50bp以上の大幅な利下げを求めていたとみられ、露骨に不満を表明した。ただ米景気、その拡大が戦後最長の11年目に入り、特にダウを筆頭に米株が史上最高値圏で推移するなか、それほどの利下げが本当に必要なのか疑問がわく。

雇用統計のなかで発表される失業率は、約半世紀ぶりの水準である3.6-3.7%水準まで低下、完全雇用を揺るぎないものとしている。NFP(非農業部門雇用者数)の前月からの増加幅はやや鈍化傾向をみせるが、完全雇用だからこそ、絶対数の求職者は減っているわけで極めて健全な雇用状態が維持されているといえる。

さらに、米中の貿易協議再開との報道もありグローバルで株価が上伸、金利の市場では8月15日(木)に2019年末まで1.58回の利下げを織り込んでいたが、足元で1.02回まで縮小した。この利下げの織り込みの解消、「米ドル/円」では買い戻し要因、仮にこの利下げの織り込みを全て失うと「米ドル/円」の整合値は108.46円となる。

チャート:米労働省より筆者作成

図表:筆者作成

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成
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日経電子版が10月1日(火)に伝えるところでは、世界最大の機関投資家である「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は外国債券の運用を拡大予定」としている。背景にあげられるのは国内の低金利、日銀がマイナス金利政策を導入していることから、日本国債の投資妙味は小さく、運用枠の拡大を外国債券に求める。

現在のGPIFの運用総額は約160兆円、HP上には外債投資枠はこの15%±4%との記載があり、事実上のその投資枠は11~19%と解釈できる。足元で外国債券投資の残高は18.05%(2019年第1四半期)、つまり、この枠全てを使い切るかは不明だが、19%の上限まで約1.6兆円の増額幅が存在することになる。

この外国債券投資の拡大、全てが実弾の円売りを伴うオープン外債とはならないだろうが、「米ドル/円」の下落時には一定の下支えの買い要因になりうる。実際に「米ドル/円」が、年初のフラッシュクラッシュ時以降の安値である104.45円を示現した8月26日(月)には、こうした米ドルの買いは市場関係者の間で広く指摘されていた。

図表:GPIFより筆者作成

9月17日(水)、米国で短期資金を調達する市場であるレポ市場で、翌日物金利が急上昇した。背景は法人税の支払いのために企業が短期市場から資金を引きあげたこと、さらに米国債の入札が重なったこと等が指摘されている。加えて、FRBがリーマンショック後のQE(量的緩和)で膨らんだバランスシートの縮小を、2017年10月から開始した影響だと指摘する市場参加者も多い。

実際、新債券王と称されるダブルラインキャピタルのジェフリー・ガンドラック氏はロイター社とのインタビューで「FRBはいずれQEを再開する」と指摘している。こうしたガンドラック氏の発言から、当日は主要通貨に対して米ドル安が進行、この先にQEが再開された場合、広義の金融緩和であることから米ドルは売り要因となる。

図表:FRBより筆者作成

9月27日(金)、「トランプ政権は米国から中国への投資に関し、複数の選択肢を検討」と報じられた。このなかには、米国の証券取引所に上場する中国関連企業の上場廃止も視野に入れているとみられ、米中の対立は貿易面から資金取引の分野に拡大してきた可能性がある。

米国の議会内でも対中の強硬派の議員より、公的年金等による中国株投資を規制する案が浮上しており、トランプ政権の意向に沿う。実現するか否は現時点では判断しかねるが、中国企業への資金供給を絞ることになり、金融市場にとり、一定の不確実性を残すことになる。

こうした投資制限の報道、10月10日(木)から再開される見込みである米中の閣僚級会合で、中国側より譲歩を引き出す戦術との見方も多い。ただこれまでの貿易協議をみての通り、米国側が段階的に関税を導入したり、一貫しない交渉姿勢を見せてきたことを踏まえれば、小出しの投資規制に移行する可能性は非常に高い。

図表:筆者作成

以上をまとめると、9月上旬以降のリスクセンチメントの改善などから米国の利下げの織り込みが解消してきた。GPIFの運用方針変更の正式な発表は未だだが、この先の運用姿勢の変化は「米ドル/円」では一定の下支え要因として機能しそうだ。米国のQEの再開観測、対中投資の制限等は「米ドル/円」では上値を抑える要因。ここにきての強弱入り混じる要因、引き続き「米ドル/円」は106~109円程度のレンジ内で方向感に乏しい展開とみている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年10月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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