スペシャル・トレンドレポート

『日本の消費増税は「米ドル高/円安」要因か』~過去をさかのぼって検証~(竹内 典弘氏)

2019年9月6日
アシスタント・マネージャー :「消費増税後の「米ドル高/円安」説がささやかれていますが、どうでしょうか」
チーフディーラー :「購買力平価説(注)から考えると、そうかもしれないが…」
アシスタント・マネージャー :「ただ前提とするのは、完全な自由貿易と習いましたよ」
チーフディーラー :「その通り。さらに、ここまでの消費税の導入時や増税時には特殊な事情が多数存在した(後述)」

(注)ある国の通貨の購買力は、他の国でも等しい水準となるように為替レートを通じ調整されるという説

日本では消費増税が10月に迫るなか、8月23日(金)、トランプ大統領は「2500億ドル相当の中国製品に課している関税を10月1日(火)から25%より30%へと引き上げる」と発表した。当日の米株市場ではダウが急落、リスクセンチメントの悪化から「米ドル/円」も105.26円まで下値を拡大した。

これを受けた週明け26日(月)のシドニー市場では、節目とみられた105円が決壊、「米ドル/円は」1月3日(木)のフラッシュクラッシュ(注)以降の安値を更新する104.45円を示現した。その後は国内の機関投資家等から広く「米ドル」買いが集まり、相場は反転上昇、29日(木)には戻り高値106.68円まで上伸した。

(注)金融市場などで突発的に価格が急落する現象

一旦、105円を割れた「米ドル/円」だが、底入れから上値追いとなるだろうか。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。
太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

米中の追加関税の応酬に端を発する金融市場の混乱は新興国にも波及、グローバルで運用を手掛ける機関投資家等は、リスク資産を処分する動きを継続する。ロイターが8月29日(木)に伝えたところでは「8月上旬以降、新興国からネットで138億ドルの資金が流失、トランプ候補が大統領選に勝利した2016年11月以来の流失超」だという。

こうした動きは新興国の株価の下落となって現れ、さらなる資本流失の可能性が高まる。米大手金融モルガンスタンレーが公開するMSCI(モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル)の世界新興国株指数でみても、年初の水準こそ上回るものの、4月の戻り高値より10%以上の下落を演じる。

こうした資金の行き先、グローバルで安全資産とされる信用度の高い国債の買いとなり金利は低下、「米ドル/円」では売り要因となる。

チャート:MSCIより筆者作成

世界景気の減速が視野に入るなか、これに対応するかたちでグローバルで中央銀行はハト派に転じ、利下げを競う。景気悪化を事前に食い止める予防的利下げが各国で相次ぐが、世のなかから金利が消える可能性に危惧する投資家が、安全資産とされる債券買いに走り、一層金利が低下する事態に陥る。

世界的にみても長期金利の低下が鮮明で、米国では10年債金利が2016年7月以来の1.44%へ低下した。驚くべきはイタリアで、米国債より遥かに格付けが低いイタリア10年国債まで買いが集まり金利が低下、一時過去最低水準の1.0%割れまで低下、「ユーロ/円」の下落を伴い「米ドル/円」の頭をさらに重くする。

図表:筆者作成

2016年11月のトランプ候補の大統領選勝利後の「米ドル/円」のラリーを起点に、シカゴのIMM通貨先物残高でみても「円」の売り持ちは大きく増加した。ただその売り残高も2017年11月14日(火)の135999枚をピークに減少を続け、2019年8月6日(火)には10561枚の買い持ちに転じた。

この「円」の買い持ちが増加する動き、足元で33607枚まで拡大してきた。このIMM通貨先物の残高の動向、「米ドル/円」の動きと強い相関があるが、「買い持ち」と「売り持ち」の間のゼロは「分水嶺として機能」していることが分かる。一旦「買い持ち」に転じた市場の動き、この先もさらに継続しそうだ。

チャート:CFTCの公開する建玉等の数値から筆者作成
※建玉の残高は軸を反転

日本では消費税の税率は、10月1日(火)に8%から10%への引き上げが予定されている。消費増税は約5年半ぶりだが、ここにきて消費税増税後の「米ドル高/円安」を指摘する声がある。過去に目を転じ、1989年の「3%の導入時」を振り返ると、導入前に100円で買えたものが103円となるわけで、自動的に3%のインフレが進行したことになる。

つまり通貨「円」の価値が下落していることになり、購買力平価説(上述)の理論を駆使すれば、「米ドル」の上昇により均衡されることになる。この購買力平価説は、輸出入関係の収支やそこから発生する関税等を考慮しておらず、日本の消費増税が「米ドル高/円安」に直結するという意見には距離を置く。

実際、過去の「3%導入の1989年」、「5%への増税の1997年」、そして「8%への増税の2014年」を個別に振り返ると、確かに1年後には「米ドル高/円安」に振れている。ただし、当時の状況を正確に回顧すると、増税(または導入)とは全く関係ない理由が多数存在していた過去が存在する。

図表:筆者作成

図表:筆者作成

ここまで低下傾向を継続する米金利だが、経済指標の好転などから、反転上昇する可能性はないのだろうか。2016年9月12日(月)、FRBのブレイナード理事はシカゴでの講演で「2014年以降に進んだ約20%の米ドル高は、FRBの計量モデルで200bp(2.00%)の利上げに等しい」と結論付けた。

ここにきてグローバルで各国の中央銀行が利下げに転じる理由、それは通貨安を通じ、輸出採算の改善をはかり緩和効果を高めるため、つまり利下げ幅以上の利下げ効果を得るためだ。上述のFRBの計量モデルからは、2018年末までの米国の引き締め(利上げ)局面で実質の利上げ効果は、“4.50%”近かったことになる。

チャート:筆者作成

以上をまとめると、米中摩擦の着地点が見いだせないなか、安全資産である債券買いの動きはしばらく継続、来月に迫る消費増税も、為替相場、特に「米ドル/円」には中立要因として機能しそうだ。さらに米ドル高の進行から、米国では利上げ幅以上の引き締めが事実上完了、緩和局面入りが間近い。

唯一のアップサイドのポテンシャルは、米中の電撃合意からの米株高、金利高、米ドル高となりそうだが、米中摩擦が2大国家の覇権争いとなるなかでは、安易な妥結とはなるまい。引き続き米金利再低下が見込まれるなかでは、「米ドル/円」の戻りは限定的、安値圏での推移が継続とみている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年9月6日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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