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必読!欧州中銀(ECB)金融政策理事会予想松崎 美子氏)

2019年9月4日

9月には、重要イベントがいくつもある。その中で、Brexitと同じくらい重要度が高いのが、9月12日に開催されるECB金融政策理事会である。

今回のコラムでは、理事会での発表内容について、考えてみよう。

6月ECB年次フォーラム

6月中旬、ポルトガルのシントラで開催されたECB年次フォーラム。ドラギ総裁のオープニングスピーチでは、「このまま、インフレ上昇の兆しが見えなければ、追加緩和が必要となる。今後、理事会メンバーの間で、物価安定の維持が著しく脅かされるリスクへの対応策を協議することになるだろう。その際には、量的緩和策(QE)を含む全ての政策手段が対象となる。EU条約には、ECBの金融政策の目的(責務)を達成する義務が規定されている。つまり我々は、今後も物価安定の維持を追及するため、全力で取り組む意向である。」と語り、追加緩和実施を確実とした。

7月ECB理事会での発表

7月25日に実施されたECB金融政策理事会。発表された声明文で、フォワードガイダンスについて以下の変更がなされた。

① 時間軸は据え置き
「少なくとも2020年中盤までは」の部分は、そのまま。

② 金利水準は下方修正
それまでのフォワードガイダンスは、「現状の金利水準が継続」という内容であったが、7月の理事会では、「at their present or lower levels 現状、或いはより低い金利水準が継続」へと変更された。

フォワードガイダンス以外の変更としては、将来のQE策導入にも触れ、「 options for the size and composition of potential new net asset purchases. サイズや購入対象の拡大」にも触れている。

ECB声明文(2019年7月)

その日の定例記者会見でドラギ総裁は、今後の金融政策の選択肢について、協議したことを認め、「かなり大規模な金融緩和策が必要となるであろう。」と語っている。これを受け、マーケット参加者の間では、9月のECB理事会でかなり大規模の緩和策発表は避けられないというコンセンサスが出来あがってきた。

緩和策パッケージ発表となるか?

8月中旬にユーロ圏消費者物価指数(HICP)7月分改定値が発表された。速報値+1.1%から+1%に下方修正されたことを受け、9月ECB理事会でのバズーカ緩和期待が高まってきた。

その数日後に公開された7月ECB理事会の議事要旨では、「policy package」「a combination of instruments」という表現を繰り返し使用しており、単発の緩和策よりも、いくつかの緩和策を組み合わせたパッケージを発表する可能性について協議されたことが、明らかになった。

これを受け、その日のWSJ紙は、「議事要旨によると、ECBの緩和策の例として、政策金利カット、QE策の再開、フォワードガイダンスの変更などの選択肢を挙げており、景気浮揚目的の緩和策パッケージを紹介することになりそうだ。その内容は、市場参加者の予想を遥かに上回る規模であると、ECB関係者が語った。」という記事を載せた。

9月理事会に向け、一気にマーケットの期待感が高まった瞬間である。

9月12日 ECB金融政策理事会予想

緩和手段① 預金金利のカット

マイナス0.4%の預金金利を10bpsか20bpsカット。エコノミストによっては、3つの政策金利(貸出金利、レフィ金利、預金金利)全てに対し、10bpsのカット実施という予想もある。

マイナス金利をこれ以上、深堀をして大丈夫なのか?そういう疑問が沸くが、ECBは報告書の中で、「マイナス金利は景気に良い影響を与えており、極端なネガティブな副作用は見受けられない」と結論付けている。つまり、ECBがマイナス金利を認めている以上、緩和策として一番手っ取り早く分かりやすいのは、政策金利のカットとなるだろう。
https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/scpwps/ecb.wp2289~1a3c04db25.en.pdf?

ただし、マイナス金利の深堀となれば金融機関の負担が増すため、それを緩和する目的で、段階的措置を設定するという予想もある。ただし、これについては、複数の理事が反対している模様。

緩和手段② TLTRO3 の貸出金利の変更

6月6日のECB理事会では、貸出条件付き長期資金供給オペ第3弾(TLTRO3)について、2種類の貸出金利が発表された。

・ECBの設定した金額よりも多くの資金を民間に貸し付けた銀行は、預金金利(-0.4%)より10bps高い金利 = -0.3%

・ECBが設定した金額より低い額しか貸し出しをしなかった銀行には、レフィ金利(0%)より10bps高い金利 = +0.1%

マーケットでは、両方の金利を更に下げるという予想がある。

緩和手段③ 国債や社債購入を含むQE策の再開

政策金利カットと同じくらい分かりやすいのが、昨年末で終了した国債購入を含む量的緩和策(QE)の再開であろう。

しかし、これには問題がある。それは、購入可能な国債が足りなくなってきている国(ドイツなど)が出てきていることである。

この問題について、ECBは報告書を出している。
https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/annex/ecb.sp190612_1_annex.en.pdf?2d307434d47a666ab13328449673082d

ECBのQE策は昨年末に終了したが、ECBが保有している債券が償還された際の再投資については、「長期間」に渡り継続するとしており、再投資終了の具体的な日程等は発表されていない。つまり、現在も再投資分の国債は、粛々と購入されているということだ。上述のリンクの報告書によると、「再投資分の購入」規模は、ドイツが2019年・20年共に(国債発行残高の)30%弱。フランス・スペイン・イタリアは、15%以下。

ここで問題になるのが、ECBの国債買い入れ上限である。これは、加盟国の国債購入が財政ファイナンスにあたらないことを確実にするため、欧州憲法裁は購入上限を33%に設定しているため、ECBがQE策を再開したとしても、ドイツの場合、購入できる「余力」はわずか3%。フランス・スペイン・イタリアが20%かそれ以下になってしまうということである。そうなると、QE再開となっても、強烈なイニンパクトは示せないことになる。

それもあり、今回は国債よりも社債や地方債の配分を増やすことが考えられる。

緩和手段④ 日銀のパクリ:加盟国の株購入

これは、私個人的の意見であるが、「絶対にあり得ない!」と予想する。

総括すると、個人的には、金融政策が行きつける限界まで来たのではないか?という考えを捨てていない。つまり、ここからは各国の「財政政策」が景気を引っ張っていく役割を果たさなければいけない。ただし、その場合は昨年のイタリアのように、EUが定めた安定成長協定の赤字上限を超えてしまう国が出てくることが予想され、EUが協定内容の変更に動かない限り、期待できないのも事実である。

タカ派メンバーからの牽制球

マーケットでは、9月12日のECB理事会で大型緩和策がパッケージで発表されるというコンセンサスが出来あがっていたが、先週複数のECB関係者が火消し役に廻った。

たまたまかもしれないが、デギンドス副総裁を除く発言者はタカ派メンバーであったため、「9月理事会では、緩和策パッケージの発表が見送られる。」という予想が出ていた。しかし、そう考えることには、無理があるかもしれない。と言うのは、25名のECB理事会参加者のうち、タカ派はせいぜい5~6名しか存在しないからである。

バイトマン独連銀総裁

「確かにヨーロッパ経済は弱くなってきており、金融政策の面からも、何らかの手助けが必要かもしれない。ただし、ECBが大規模な緩和策を実施すると言う考えには、賛成しかねる。」

デギンドス副総裁

「ECBの金融政策は、経済指標等の経済的基礎に基づいて決定される。決して、マーケットの思惑で決定されるものではない。」

ノボトニー (オーストリア)中銀総裁

「中央銀行とは、マーケットの思惑通りに動くものでもないと、マーケット参加者を落胆させることができる。ヨーロッパでは、量的緩和の手段としての株の購入は、行わない。」

ノット (オランダ) 中銀総裁

「9月のECB金融政策理事会にかける期待は、過大すぎる。現時点で、量的緩和策(QE) が必要とは思わない。本当に危機が迫ってきたときのために、手段は残しておくべきである。」

ここからのユーロ

1.10台を下抜け、ユーロ安が加速したユーロ/ドル。これは見方を変えれば、ドル高であり、早速トランプ大統領が不満のTweetを載せた。

私はかねがね、 ドル高に対するトランプ大統領の我慢の限界は、ECBが予想を超える大型の緩和策を発表し、ユーロが大きく下落する時である・・・という考えを披露してきた。その絶好のタイミングが、9月12日なのである。

果たして、アメリカが本気で市場でドル売り介入をするかわからないが、トランプ砲の回数は増えてくるであろう。それも含め、9月の相場はBrexit・ECB・トランプ砲などで、相当ボラティリティーが高まるリスクがある。

それではユーロとドル、それぞれの実効レートを見てみよう。最初は、ユーロ。ピンクの下降チャネル内での推移となっており、過去のサポートライン(グレー線)でちょうど止まっている。

チャート:ECBホームページ

次は、ドル・インデックスをチェックしてみよう。ユーロとは対照的に、グイグイ上昇しており、2年来の高値を更新していた。これでは、トランプ大統領が吼えるのも仕方ない。

出典:Stockcharts

ここからのユーロ/ドル予想は、9月12日のECB理事会からの発表内容に大きく左右されるが、ユーロ圏経済が予想外に回復しインフレ率の上昇と安定維持が確実にならない限り、ユーロは1.1800レベルをターゲットとして徐々に下落するイメージを持っている。

チャート:筆者作成

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2019年9月4日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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