スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」弱材料揃い踏み、初秋に向け下値余地拡大(竹内 典弘氏)

2019年8月9日
アシスタント・マネージャー :「梅雨明け後の暑さにすっかりやられていますが、為替市場も熱くなってきたのが救いでしょうか」
チーフディーラー :「今年は本当にここまで動かなかったからね…」
アシスタント・マネージャー :「8月という季節的要因も援軍ですが、日米通商協議や米国の対中制裁関税第4弾の導入の期限も迫り、材料に事欠きませんね」
チーフディーラー :「「米ドル/オフショア人民元」(注)が、節目の7.0を超え、さらに米国が中国を為替操作国認定したこともリスクオフの要因だ」

(注)通貨の表記では「CNH」、中国本土以外で取引されるのがオフショア人民元、投機対象になりやすい

7月29日(月)~30日(火)に開催された日銀金融政策決定会合は、現行の短期金利を-0.1%、長期金利を0%付近に誘導する「長短金利操作付き量的質的金融緩和」を据え置いた。一方で声明文には「ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」との文言を加えた。ただ日銀の今後の政策変更の余地は、やや限られたものなるという見立てが多い。

FRB(注1)は現地時間の31日(水)に終了したFOMC(注2)で、2008年12月以来約10年半ぶりに低迷する物価などを背景に、25bp(0.25%)の利下げを決定した。金利市場では事前に一部50bp(0.50%)の利下げも織り込んでいて、発表直後の為替市場の反応は「米ドル/円」では買い、翌8月1日(木)には戻り高値109.32円を示現した。

(注1)米国の中央銀行
(注2)米国の金融政策を話し合う会合

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。
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FOMCでは、リーマンショック以降の量的緩和の局面で積み上がった米国債等の保有資産を縮小する「量的引き締め」も、予定の9月末を前倒し7月末での終了を決定した。2017年10月から開始された「量的引き締め」、ピークの4.5兆米ドル程度からの減額は約0.8兆ドルにとどまり、「大きな緩和効果」を市場に残すことになった。

FRBパウエル議長はFOMC後の記者会見で、長期の利下げ局面入りは否定したものの、「利下げは一度にとどまらない」として追加緩和を示唆していた。ただ金融市場は、パウエル議長の会見をタカ派ととらえ米株は反転下落、かえってこの先の利下げを再度織り込み直した。

こうした一連の動きから、8月2日(金)にかけて「米ドル/円」は反落となった。トランプ大統領は同日、9月1日(日)よりほぼ全ての中国製品に10%の追加関税を課す対中制裁関税第4弾の導入をアナウンスした。市場は米雇用統計の比較的良好な結果にも反応薄で、引けにかけてこの週の安値106.51円まで下値を拡大した。

「量的引き締め」の終了、株価の下落、伸び悩む物価からの利下げの再度の織り込み、そして対中制裁関税第4弾の導入、この全て「米ドル/円」では売り要因となる。

図表:FRBより筆者作成

チャート:セントルイス連銀より筆者作成

米国のクドロー国家経済会議委員長は7月26日(金)、一部メディアに対し「トランプ大統領と、米ドルの押し下げの為替介入を議論したが見送る決定をした」と発言した。金融市場に無用な混乱を招くことから、本人とムニューシン財務長官が反対したと理由を明らかにした。

ここまでトランプ大統領は、自国の経済に不利に作用するとして、米ドル高けん制を繰り返してきた。昨年末より、欧米の金融機関を中心にトランプ政権の「米ドル売り介入」を予想する声は多い。このクドロー氏の発言、介入は見送ったものの、政権内部での「米ドル売り介入の議論」の存在を裏付けた。

この「米ドル売り」介入、米ドル建て資産の減価を招き、資金流失→債券安・株安→金利上昇を招くことから否定的な見方も多い。筆者の意見も同じだが、テールリスク(注)の一つとして認識しておきたい。

(注)発生する可能性は低いものの、実現した場合、大きな負の効果をもたらすもの

昨年までの直近30年の「米ドル/円」の8月の騰落を振り返ると、11勝19敗で下落回数が上昇回数を大きく上回る。この傾向は他の月と対比して突出していて、ここまで多くの市場関係者等より複数の要因が指摘されてきた。

①8月中旬の米国債の大量償還。通常、機関投資家等が投資する元本部分は、再投資から既発債に向かい為替での売買はほぼ発生しない。一方で利金(利息)は、日本の投資家であれば、ほぼ確実に円転(「米ドル売り/円買い」が発生)され、為替市場で円買いが発生する。

②9月末にヘッジファンド等を解約する場合、45日前までの告知が求められる。つまり8月の中旬以降は、グローバルで株等の換金売り、米ドル建てのファンドであれば必然的に「米ドル」の売りが発生する。

③日本では中旬にお盆をむかえ、輸出入企業を筆頭に実需筋も休戦となる。実質祝祭日と同じで、実需の米ドル買い等も入りにくい。この結果、「米ドル/円」が下落となっても、下値での米ドル買いが発生しにくい等の理由があげられる。

図表:筆者作成

「米ドル/オフショア人民元」は8月5日(月)、防衛ラインとみられた7.0人民元が決壊、人民元安が進行した。ここまでトランプ大統領が中国や欧州の通貨安を批判してきたことから、PBOC(中国人民銀行)は非常にセンシティブにこの防衛ラインを死守してきた。

ただ市場は、米国との貿易摩擦に輸出採算の改善を目指し、意図的に元安に誘導したとみる。こうした人民元安を背景に8月6日(火)、米国時間の引け後にトランプ政権は、中国を自国の輸出に有利になるように通貨安に誘導する「為替操作国」に認定した。

過去に目を転じると、中国は1994年に「為替操作国」に認定された前歴もあり、トランプ政権下ではいつ再認定されても不思議ではなかった。この「為替操作国」に認定される元となった人民元安(誘導)、中国国内からの資本流失を加速させかねない危険な政策で、最近でも市場を不安定にしている。

2015年8月11日(火)、PBOCが景気浮揚を目指し2%の元安誘導を発表した。当日の為替市場はややリスクオフで反応した程度だったが、その後に影響は広がり、わずか2週間程度で日経平均株価は瞬間風速で3000円近い暴落、「米ドル/円」でも高値から9円近い急落を演じ、真夏の悪夢となった。

以上をまとめると、引き続き利下げ局面入りした米ドルは、金利面からの魅力は徐々にはく落する。ここに8月のアノマリー、「米ドル/円」が弱含む3つの要因が加わる。今年の場合、さらに米中貿易摩擦の激化による人民元安、そして中国の為替操作国認定が発表されてしまった。

引き続き、「米ドル/円」は初秋に向け下値余地は大きいとみている。

チャート:筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年8月9日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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