スペシャル・トレンドレポート

静かに近寄る米国の景気後退、 「ユーロ/米ドル」は反発へ(竹内 典弘氏)

2019年7月12日
アシスタント・マネージャー :「注目されていたECB(欧州中央銀)の次期総裁ですが、現IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事に決まりました」
チーフディーラー :「極めて閉鎖的な密室の議論だったみたいだが…」
アシスタント・マネージャー :「そうなんですか?」
チーフディーラー :「欧州では、主要ポストを各国で持ちまわる暗黙の了解が裏で存在するんだ。ECBラガルド総裁の誕生は歓迎されるだろうが、この先は多くの難題が待ち受けるだろうな」

2018年の春から続くユーロ安局面、「ユーロ/米ドル」でみた場合、ここにきて1.10の大台を前に底堅く推移する。このユーロ安トレンド、この先も継続するのだろうか。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能。太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

2017年後半に急拡大した欧州景気、その後は米中の貿易摩擦の余波を受け減速傾向を鮮明とする。盟主であるドイツの落ち込みが激しく、2018年のQ3(7-9月期)にマイナス成長を記録、イタリアでもQ3に続きQ4(10-12月期)と2四半期連続で前四半期を下回り、リセッション(注)入りが確定した。

(注)景気後退。明確な定義は存在しないが、通常は2四半期連続でマイナス成長を記録した場合、リセッション認定となる。

こうしたことから、景気の先行指標とされるPMI(購買担当者景気指数)は2017年末前後にピークアウト、ここまで下落傾向を強めてきた。足元で好不況の分かれ目である50を下回るが、ここにきてやや底入れがみられる。

チャート:マークイットより筆者作成

6月28日(金)から29日(土)にかけて開催されたG20大阪サミットでは、米中首脳会談が実現、「貿易交渉の再開」が約束された。こうした背景も一部あり、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が公開する欧州の「経済政策不確実性指数」をみても、ここにきて低下傾向とたどる。

この「経済政策不確実性指数」、新聞紙面上で「経済」、「不確実性」などの複数のキーワードでスクリーニングをかけ算出している。一般的に不確実をもたらす選挙や国民投票の前に上昇する傾向が多く、ここまでも以下のように金融危機時などには上昇を示した。

チャート:ニコラス・ブルーム教授のHPより筆者作成

イタリア政府は7月1日(月)、税収が予想以上に上振れたことを背景に2019年度の予算を修正、財政赤字の見通しを引き下げた。EUからの財政赤字に関する制裁を回避する目的だったが、国際金融市場はこれを好感し、イタリア国債が大きく買い戻されるなか、金利が大幅に低下した。

昨年6月にイタリアで誕生したポピュリスト政権は、その公約のなかに失業者への最低給与保証等にバラマキ政策を掲げた。市場は財政の悪化を懸念し、イタリア国債を手放す動きが続き金利は上昇、信用度の高いドイツ国債との金利差が急拡大(注)、「ユーロ/米ドル」は大きく売られてきた。

(注)欧州域内での金利差の拡大は、信用格差の拡大で単純に「ユーロ売り要因」、一方で金利差の縮小は「ユーロ買い要因」

指標となる10年国債の金利差でみた場合、昨年秋に3.3%付近まで拡大していたが、上述の背景もあり金利差は大幅に縮小、7月に入りその差は2.0%を割れた。こうしたドイツ国債との金利差が縮小する動きは、以下のように域内各国でみられ、信用格差の縮小は「ユーロ/米ドル」のサポート要因となる。

チャート:筆者作成

7月2日(火)に開催されたEU首脳会議において、現IMFのラガルド専務理事が、今年10月末で8年の任期満了をむかえるECBのドラギ総裁の後任に指名された。この人事案はフランスのマクロン大統領が関与し、密室の議論のうえでの結果であり政治色が極めて強い。

ラガルド氏はFRB(米国の中央銀行)のパウエル議長と同じ弁護士の出身で、フランス国内では財務相の経歴も持つ。かつて2016年の講演のなかでは、ドラギ総裁の緩和的な金融政策に関して賞賛を送った経緯もあり、現行のECBの緩和的な政策を引き継ぐものとみられる。

ただ、過去のECB総裁が中央銀行の出身者で金融政策の立案のプロ中のプロであったことに対比すると、政策運営に関しては未知数といえる。世界景気の減速が強まり各国中銀がハト派に転じるなか、ECBも年後半に向け一段の利下げや量的緩和の再開が予想される。

ただ、政策金利の一部である預金ファシリティ金利では、すでに-0.40%まで深堀りが完了、この先の利下げ余地は極めて乏しい。

図表:筆者作成

6月18日(火)~19日(水)に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利を据え置く一方で、「(今後の利上げに)忍耐強く」との文言を削除、「適切に行動する」という文言を加えた。さらに「(今後の)見通しに関し不透明感が高まった」との記述も付加した。

年末年始に株価の下落の洗礼を受け、FRBは今年3回予定した利上げを年明けに棚上げ、「忍耐強く」利上げの再開を模索したものの、半年で軌道修正を迫られた。米国ではリーマンショック後の景気拡大期は7月で11年目に突入、戦後の最長記録を更新する。

失業率も約半世紀ぶりの水準となる3.6%まで低下(6月発表は3.7%)、完全雇用を揺るぎないものとする。ただ、10年債の金利が足元で2.04%まで低下、政策金利の誘導目標である2.25-2.50%を下回り、減速を示唆する。NY連銀が公開する1年先のリセッション(景気後退)入り確率は、足元で30%を上回る。過去に目を転じると、この確率が30%を超えた後には確実にリセッションは到来していた。

図表:NY連銀より筆者作成

足元で米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利先物市場では、2020年末まで約4回弱の利下げを織り込む。2020年に向け、減速が確認された場合、市場はさらなる利下げを織り込み、米ドル安が進行する可能性が高い。

FRBは7月5日(金)、議会に半期に一度提出する金融政策報告書のなかで、「経済成長の持続に向け適切な行動をとる」と記述した。同時に景気の下振れに関し、予防的な利下げを実施する政策変更を強く示唆した。

ECBラガルド総裁が誕生しても現行のマイナス金利のさらなる深堀りには、金融機関の収益悪化といった副作用が伴う。利下げ幅という点でも、ECBには利下げ余地は極めて小さい。一方のFRB、現行の政策金利は2.5%、0.25%の利下げでもゼロパーセントまでは10枚のカードを温存する。

以上をまとめると、グローバルでキックオフとなった緩和競争、緩和余力という観点で、欧州<米国の構図は揺るがない。金利差縮小を伴い「ユーロ/米ドル」は緩やかに反発の機をむかえそうだ。

チャート:筆者作成
※金利差は軸を反転

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年7月12日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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