スペシャル・トレンドレポート

欧州主要ポストを巡り大混乱のEU(松崎 美子氏)

2019年7月3日

6月30日、G20大阪サミット終了から24時間も経っていないにも関わらず、異例の日曜日にEUサミットが開催された。そして、このサミットは7月2日遅くまで続いた。

本来であれば、6月20/21日のEUサミットで、欧州委員会委員長と欧州中銀(ECB)総裁の後任が選出されていたはずだが、それが出来なかったための特別サミットとなった。

ユーロにも影響を与える内容であるため、今回はこれについて分かっている限りのことをお伝えしたい。

EU要職の椅子取りゲーム

英語では、Musical Chairsと呼ばれる椅子取りゲーム。今年のEUは、要職を巡り、椅子取りゲームが進行中である。

今年中に任期満了となる要職は、以下の通りであり、特に秋に集中している。

この中でも特に注目を集めているのが、ユンケル欧州委員会委員長とドラギECB総裁の後任である。

独仏の対立が際立つ後任選び

1年前までは、ドラギECB総裁の後任として、ドイツのバイトマン連銀総裁の名前が挙がっていた。しかし、昨年8月下旬、メルケル独首相は、ドイツにとって次期ECB総裁よりも、次期欧州委員会委員長職が重要であると発言してから、事態は急変。

ユンケル委員長の後任として、突如浮上してきたのが、欧州議会最大会派:EPP(欧州人民党グループ):ウェーバー議員であった。

2009年にリスボン条約が発効した時に、欧州委員会委員長は欧州議会最大会派から選出される「Spitzenkandidaten」というシステムに変更された。そして、今年5月に欧州議会選挙が行われ、議席数が減ったとは言え、またしてもEPP会派が第一党となったのである。つまり、Spitzenkandidatenシステムでは、EPP会派推薦のウェーバー議員が、横滑りでユンケル委員長の後任となるはずであった。しかし、このシステムに猛烈に反対したのが、他でもないマクロン仏大統領である。

そして、6月に入り、欧州委員会委員長の後任を巡り、独仏の対立は予想以上に悪化した。その結果、本来であれば問題なく後任選出が完了するはずの6月20/21日のEUサミットで決定できず、6月30日から特別サミット開催という流れとなった。

メルケル首相の譲歩

6月29日に閉幕した大阪G20サミットに参加した欧州首脳陣は、そのまま30日の特別サミットに出席。そして、これは火曜日夕方まで続いた。

G20サミットで、トゥスクEU大統領は、「今まではSpitzenkandidatenシステムに沿って、最大会派EPPのウェーバー候補以外の名前が挙がっていなかったが、もう一人の候補者を立てる」という案をEU加盟国代表に伝え、渋々であるがメルケル首相が譲歩した。

この決定により、欧州委員会委員長の後任は、最大会派: EPP ウェーバー候補 (ドイツ)と、 2番目のS&D ティマーマンス現欧州委員会副委員長 (オランダ) の間で選ばれることとなったが、ティマーマンス候補に対する反対が東欧を中心に多く、断念。ウェーバー候補は、マクロン大統領の猛反対に負け、7月2日夕方、候補者名簿から外れることを、本人が承諾。最終的に、ドイツの防衛庁長官であるファン・デア・ライエン氏の名前が浮上してきた。しかし、この選択については、ドイツ連立政権のひとつであるSPD党(社会民主党)が、反対している。

メルケル首相の弱体化を心配するドイツ人

Spitzenkandidatenシステムを無視して、大阪G20でティマーマンス候補を認めたメルケル首相。地元ドイツのメディアやEPP会派の議員たちの間でも、メルケル首相が頑として戦わず、2人目の候補を認めたことにショックを隠せなかったと言われている。

後ほどあらためて書くが、ドイツ人の欧州委員会委員長職を諦めたように見えるメルケル首相は、代わりにECB総裁職を要求した訳でもない。

いったいどうしてしまったのか?過去のEUサミットでは、メルケル首相が欧州の首相として君臨していたと言われる。しかし、最近は一切その雰囲気はなく、代わりに口数が増えているのが、他でもないマクロン大統領である。

ドイツのメディアでは、「戦わずにして負けを認めたメルケル首相」に対し、怒りよりもショックを隠しきれないそうである。

委員長候補の支持国比較

それぞれの候補に対し、反対している国は、いくつもある。特にティマーマンス氏については、あまりに左寄りすぎるという理由で、中東欧の国々の反対が強かった。

委員長選出には、EU加盟国の72%かそれ以上の国(28ヶ国中、21ヶ国かそれ以上)、EU全体の人口の65%かそれ以上が必要となる。

フランス・スペイン・ポルトガルの合計人口数は、約1億2500万人程度。EU総人口は5億人を越えているため、この3ヶ国が反対しても、人口の65%以上は確保できる計算となるが、原稿執筆時の予想では、ディマーマンス委員長決定に限りなく近づいてきたと伝えられている。

日程が詰まっている欧州議会

欧州議会では、7月2~4日にタイヤーニ欧州議会議長の後任選出。そして、7月15~18日に、ユンケル委員長の後任選出が予定されている。

欧州議会カレンダー

http://www.europarl.europa.eu/ireland/resource/static/files/EP%20Calendar/calendar_2019_en.pdf

6月30日から続いているEUサミットで、ユンケル委員長の後任選びが決定しなければ、欧州議会議長の後任も選べない。欧州議会のカレンダーは変更が難しいため、出来るだけ早く後任を選ばないと、時間切れとなってしまう。

ECB総裁の後任人事

サミットの席で、メルケル首相の代わりにプレゼンスが目立ったマクロン大統領。同大統領の主張によると、委員長や総裁、大統領などの人事では、コアと非コア/西と東/男性と女性のすべてにおいて、バランスよくすることを提案している。

そこで突如と出てきたのが、次期ECB総裁は女性説!それも、フランス人!!!

今回のEU特別サミット初日時点でのEU要職の椅子取りゲームに、フランスの名前は見当たらない。ドラギ総裁の前任はフランス人であったが、そんなことはお構いなしであろう。そして、男女のバランス重視の点からも、次期ECB総裁は女性となる可能性が一気に増えた。

そこで候補者として名前が挙がってきたのが、ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事である。

昨年までは、超タカ派のバイトマン独連銀総裁が最有力候補。しかし、メルケル首相が欧州委員会委員長職に興味を示したため、後任総裁はフランス人の手に渡るという予想に変わってきた。そこでにわかに候補者No.1となったのが、フランス中銀のヴィルロワ・ド・ガロー総裁である。タカ派候補が、一転してハト派候補となった瞬間である。

もし、ラガルド氏が総裁となれば、彼女は、タカ派/ハト派どちらなのか?一般的にIMF関係者にはハト派が多いと言われているので、ハト派なのかもしれない。

ここからのマーケット

大阪G20 サミットでの米中和解を受け、ドルが値を戻している。しかし、果たしてどこまでトランプ大統領の言葉を信じてよいのか、あまり自信がない。ここからの下値としては、ドル・インデックスで95(チャート上の紫の水平線)が、当面の鍵となるであろう。

チャート:Stockcharts  https://stockcharts.com/h-sc/ui

私がわざわざここに書くまでもなく、最近のマーケットは、トランプ大統領のTweetひとつで動いてしまう。それさえなければ、米欧ともに「緩和策の再開」という立場は同じであるため、ユーロ/ドルは動きづらいはずだ。

ただし、私の個人的な印象では、G20前にドル売りは一旦出尽くし感がある。今後、新たなトランプ砲が出てこない限り、ここからはECBの追加緩和策を巡り、マーケットへの更なる織り込みが始まるように思えてならない。

そのため、(くどいが、新たなトランプ砲がない限り)ユーロ/ドルは先週の高値をバックに、1.12Low~1.14Lowの動きを予想している。

チャート:筆者作成

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2019年7月3日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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