スペシャル・トレンドレポート

半期為替報告書が公開、利下げの議論もあり 「米ドル/円」上値重く推移へ(竹内 典弘氏)

2019年6月7日
アシスタント・マネージャー :「遅れていた為替報告書(注)がようやく公開になりましたが、いろいろ意図がありそうですね」
チーフディーラー :「中国が念頭にあるのは明白だが…」
アシスタント・マネージャー :「まさか日本もでしょうか?」
チーフディーラー :「トランプ大統領は選挙公約のなかに、貿易赤字の削減を主張し当選したわけだから、来年の再選へ向け、日本に対しても結果を出さなければならないはずだよ」

(注)米国の財務省は毎年10月と4月を目途に、主要貿易相手国との交易状況や金融政策の現状を広くまとめ議会に報告する。

例年より約1か月半遅れで、米国の財務省から半期為替報告書が公開されたが、注目された中国の為替操作国認定は見送られた。報告書は、①対米貿易黒字、②経常黒字、③為替介入の額を調べ、このなかで3つ当てはまると「為替操作国」認定となり制裁対象となる。2つ当てはまれば「監視リスト」入り、日本などは不名誉な常連のなかに名を連ねる。

中国はこのなかでは該当するのは①のみだが、「対米貿易黒字が巨大かつ不相応」であることから、別項目が設定され、最終的に2つに該当する。ただ今回も「為替操作国」の認定は免れたが、過去に目を転じると、中国は「為替操作国」に認定されたこともあり、それは1994年にさかのぼる。

報告書のなかでは、中国の通貨政策に関しては、「大きく失望」と結論つけていて、その背景として為替介入の実績が示されていないことや、政策運営が極めて不透明と批判している。こうした「為替操作国」や「監視リスト」の存在、貿易相手国の通貨安をけん制する狙いがあり、為替問題を今後の貿易交渉などでの切り札として温存する狙いが透ける。

トランプ大統領が令和になり初の国賓として5月25日(土)から28日(火)まで来日、27日(月)には日米首脳会談が開かれた。このなかで、為替問題等は飛び出さなかったが、トランプ大統領は会談の冒頭で「8月に発表がある。貿易不均衡の問題を早く解決したい」と意欲を示した。

夏の参議院選を考慮し、安倍首相に貸しを作った格好だか、この先にはタフな貿易交渉が待ち構える。これまで米国は韓国、カナダ、メキシコと貿易交渉を妥結、このなかに通貨安誘導を禁止する「為替条項」を盛り込んでいる。

麻生財務相は「為替条項」の受け入れを強く否定するが、日米交渉でもこの成功体験を持ち込まれる可能性は高い。「為替条項」が入っても米ドル安誘導をするわけではないが、こちらの文言の議論の可能性がある以上、どうしても「米ドル/円」の上値を重くする。

チャート:米国の財務省公開の為替報告書より筆者作成

※今回から基準が変更、②の経常黒字のGDP比が3%より2%へ変更、ハードルを下げた。結果、これまでのリストからインド、スイスが除外、新たにアイルランド、ベトナム、イタリア、マレーシア、シンガポールがランクインした。ピンクが基準に抵触。

経済指標のなかでは景気の先行指標、特に米国経済の代理変数と表現しても過言でないISM製造業景気指数が6月3日(月)に発表された。2016年11月以来の低水準を記録、好不況の分かれ目である50に迫る52.1まで低下、昨年8月の61.3をピークに大きく鈍化した。

こうした景況感を表す指数は経済活動の実態を示していないことから、ソフトデータと呼ばれるが、景気の先行指標として広く認識されている。一部エコノミストは、このISM製造業景気指数が仮に50を割り込んできた場合、米国は利下げに動くと予想、英系金融大手バークレイズなどは年内3回の利下げを予想する。

以下のチャートをみての通り、ISM製造業景気指数が50を割る局面では、米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利でみた場合、利下げまたは据え置きへと転じている。こうした景況感の悪化や金利の見通し、「米ドル/円」の上値を再度重くする。

チャート:ISM、FRBより筆者作成

為替市場などに比べ取引高は少ないが、商品市況を俯瞰することで、世界景気のすう勢を眺めることが可能だ。非鉄金属、なかでも銅の国際市況は世界経済の健康度を示すバロメーターとして広く認知されている。銅は自動車、建設用の建材、電子部品等に広く使われ、その国際的な価格は世界の需給を大きく反映する。

年末年始のグローバルでの株価の下落が一巡、リスクセンチメントが好転、米中協議の妥結の期待もあり、銅の国債価格も年初より回復基調をたどった。しかし、足元で4月の戻り高値からの下落率は-10.7%を記録、トレンドの変化を明確にする。背景にあげられるのが、米中協議の決裂による製造業の生産量の減少だ。

すでに米商務省は、中国の通信機器大手ファーウェイへの製品輸出を事実上全面禁止、グローバルの投資家はリスクオフへの備えを強める。こうしたリスクオフの動きの象徴例は「現金化」、日経平均先物6月限では、GW中の戻り高値22490円でトップアウト、現在は2000円以上安い水準で推移する。日経平均先物の下落は「米ドル/円」の戻りをさらに限られたものとする。

チャート:筆者作成

トランプ大統領は5月31日(金)、不法移民対策を講じないことを背景にメキシコからの輸入品に5%の追加関税を課すことを突然表明した。グローバルで株価は下落で反応、リスクオフの展開から「米ドル/円」は米国時間の引け際に108.28円の安値まで沈んだ。

5月30日(木)、FRBのクラリダ副議長はニューヨーク経済クラブでの講演で物価の低迷を背景に利下げを示唆した。6月4日、(火)FOMCで投票権を持つセントルイス連銀のブラード総裁が講演のなかで「利下げ」に言及、米金利は急低下、「米ドル/円」はさらに下値を拡大、107.89円の安値を示現した。

6月5日(水)、FRBパウエル議長のシカゴでの講演でも「新しい緩和手法」を強調、FRB幹部らの足並みがそろってきた。こうした背景からFF金利先物市場では2020年末まで実に3.8回、ほぼ100bp(1%)の利下げを織り込んでしまった。

以上をまとめると、リスクセンチメントが悪化もあり、再度「米ドル/円」の上昇余地は狭まってきた。FF金利先物市場の利下げの織り込みと「米ドル/円」には一定の相関があり、上述の3.8回の利下げを織り込んだ整合的な水準は108.68円付近となっている。

引き続き、「米ドル/円」の戻りは売り場となりそうだ。

図表:筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®で売買シグナルを出すことが可能、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年6月7日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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