スペシャル・トレンドレポート

金融政策の微妙な違いから「豪ドル/NZドル」底堅く推移へ(竹内 典弘氏)

2019年5月10日
チーフディーラー :「為替取引を生業としているのに、主軸の円やユーロが動かないと本当にお手上げだ」
アシスタント・マネージャー :「そんなことないじゃないですか、いまホットなのはオセアニア通貨ですよ」
チーフディーラー :「ただなぁ、色々と情報面で疎くなるからな」
アシスタント・マネージャー :「何をおっしゃいますか。情報なんて自分で取りにいけって教えたのは先輩ですよ」
チーフディーラー :「…」

今、オセアニア通貨がホットだという。米国から制裁関税を課せられた中国と貿易関係を通じて強い結びつきがあることから、豪州やNZは中国景気の影響を大きく受ける。昨年末から年初にかけてグローバルで株価が大幅な調整を余儀なくされたこともあり、中国マネーは大きく委縮した。

カナダやオセアニアなどでは、中国からの住宅購入が手控えられ、そして売却等も相次いだことから不動産価格は下落基調を鮮明にする。こうしたことから、住宅ローンの焦げ付きも相次ぎ、四大銀行を中心に融資の審査基準は厳格化され、この影響は新規の住宅着工にも現れ始めている。

日本がゴールデン・ウイークの10連休中の5月3日(金)、豪州の連邦統計局が発表した住宅着工許可件数は、前年比で-27.3%と9か月連続で前年の水準を割れた。こうした住宅関連の指標は、経済指標のなかではどちらかといえば先行指標、景気実態を強く反映する。

チャート:豪州連邦統計局より筆者作成

中国に制裁関税を課す米国は年初から株価が急回復、ナスダックなどは史上最高値を更新する。5月3日(金)に発表された米国の4月の雇用統計では、失業利が約半世紀ぶりの水準である3.6%まで低下、完全雇用を揺るぎないものとしている。年末年始に米政府機関が史上最長の閉鎖期間記録を更新、一旦足踏みしかけた経済指標も足元で回復を鮮明とする。

こうした景気実態を反映し米国では昨年末まで利上げが継続、米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利は、オセアニアの2つの中央銀行の政策金利を上回る。かつて高金利通貨として持てはやされたオセアニア通貨の輝きはなく、もはや完全に過去のものとなっている。この結果「豪ドル/米ドル」、「NZドル/米ドル」は直近10年程度の安値圏での推移が続く。

チャート:米国の労働省より筆者作成

チャート:FRB、RBA、RBNZより筆者作成

チャート:筆者作成

雇用が堅調で、失業率が約半世紀ぶりの水準まで低下する米国でも物価は過熱することなく低迷する。背景にあげられるのは、コールセンターを郊外などに移す動き、国境を超える安価な労働力の流入、非正規雇用の常態化、そしてネット通販が拡大することによる比較サイトの存在等が指摘されている。

こうした動きはグローバルで拡散し、オセアニアでも例外ではなくCPI(消費者物価)は失速する。NZ統計局が4月17日(水)発表したQ1(1-3月期)のCPIは前年比で+1.5%と低迷した。続いて豪州の連邦統計局が4月24日(水)発表したQ1のCPIも前年比で+1.3%にとどまり、前期の+1.8%から大幅に鈍化、約3年ぶりの低水準を記録した。

こうした背景もあり、豪州でもNZでもRBA(豪州準備銀)とRBNZ(NZ準備銀)が物価目標とする2.0%を大きく下回ったことから、利下げ期待が高まっていた。

チャート:豪州連邦統計局、NZ統計局より筆者作成

年明け以降FRB(注)がハト派に転じたこともあり、RBAは2月の金融政策委員会で「引き締めバイアス」を転換した。その後のロウ総裁の会見では「金融政策は均衡、利上げも利下げもどちらのシナリオも存在する」と「利下げの可能性」も示唆した。

(注)米国の中央銀行

CPIが低迷するなか、RBAは5月7日(火)に定例の金融政策委員会を開催し、政策金利を30会合連続で、過去最低の金利水準である1.5%に据え置いた。この会合では事前に市場の「利下げの織り込み」が50%程度に到達していて、利下げへの期待は高まっていたが、RBAは据え置きとした。

声明文のなかでは、据え置きと判断した理由について「雇用の堅調さ」を強調した。低迷する物価に関しては、2019年度内にインフレ率は1.75%まで改善するとして、2020年のインフレ率はRBAの目標とする2.0%に回復するとした。こうしたややタカ派の声明もあり、次の6月会合での利下げの織り込みも20%強まで急低下、発表直後の為替市場では「豪ドル/米ドル」は買い戻しが優勢となった。

RBNZは昨年後半を通じて雇用の堅調さなどを背景として、その先の金融政策に関し中立的な姿勢を堅持してきた。しかし、年明けに隣国のRBAがハト派に転じたことで、2月13日(水)の会合で歩調をそろえた。さらに翌月3月27日(水)の会合では「利下げ」を示唆、ハト派色を鮮明にした。

これらの会合の後に公表した声明文のなかでは、景気の減速を意識し、自国通貨安を標榜する文言なども見受けられ、「NZドル/米ドル」は頭重く推移してきた。こうしたなかで、RBNZは5月8日(水)の会合後、2017年2月以降16会合連続で据え置いた政策金利を25bp(0.25%)引き下げ、RBAと同様の1.5%とした。

通貨で対比した場合「豪ドル/NZドル」は、この10年程度の推移のなかでは安値圏での低迷が継続してきた。ただここにきてRBAとRBNZの政策判断の違いから、「豪ドル/NZドル」は足元で1.07台に迫り堅調推移が継続する。

チャート:筆者作成

チャート:MT4チャートより筆者作成
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以上をまとめると、オセアニアを代表する豪州とNZ、経済規模や国力では豪州が勝る。「豪ドル/NZドル」、2つの通貨の強弱を計測しても2015年には一時パリティ(等価)付近で低迷していた時期も存在するが、ここにきて底入れを鮮明とする。その背景は、中央銀行の政策判断、RBNZの方が「より下向きのバイアス」を強くする

米系金融機関や豪州の四大銀行の一角などは「豪ドル/NZドル」の見通しを上方修正し始めた。背景の大部分は金融政策の強弱、筆者も目先「豪ドル/NZドル」は比較的底堅く推移するとみている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年5月10日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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