スペシャル・トレンドレポート

米国では利下げの織り込みが進行、「米ドル/円」頭重く推移へ(竹内 典弘氏)

2019年4月5日
チーフディーラー :「今後のFRB(注)の金融政策、どう読む?」
アシスタント・マネージャー :「まず米景気、鈍化しているわけでもないのですが、一部の経済指標はさえませんね」
チーフディーラー :「米政府機関閉鎖の影響から一旦開放されたはずだが、確かに米国の小売売上高が回復しない」
アシスタント・マネージャー :「ここにきて、FRBの多くの高官から次の政策変更は利下げという声が聞こえてきますし、実際そうなのかもしれません」

(注)米国の中央銀行

現地時間で昨年12月19日(水)開催されたFOMC(注)では、年間で4回目の利上げを決定、その後も引き締めスタンスは継続としていた。ところが株価の急落に直面したことで、本年3月20日(水)のFOMCでは一転、利上げの休止を宣言した。

(注)連邦公開市場委員会、米国の金融政策を決める会合

同時に、金融危機後の量的緩和で膨らんだバランスシート(以下、B/S)縮小のロードマップも修正、2019年9月末でこの縮小も停止するとした。FRBのB/S、ピークで約4.5兆ドルを超え、中長期的に2.5-3.0兆ドルまでの減額を視野に入れていた。

この政策変更から、B/S減額の着地点は約3.7兆ドル付近とみられ、危機後の金融緩和が正常化されることなく、今後中長期にわたり緩和効果を温存することとなった。こうした動きから2015年12月から続いた今回の米国の引き締め局面、ここにきて大きな転換点をむかえた可能性が高い。

チャート:FRBより筆者作成

この3月のFOMCの終了後に公開された声明文からは、FOMCメンバーのみる中央値で2019年利上げなし、2020年に1度の利上げ、2021年も利上げなし、長期的な見通しでその後1回と大幅に下方修正した。こうした市場予想を上回るハト派の政策判断が決定されたことで、現在市場では利下げの織り込みが進む。

図表:FOMC後の声明文より筆者作成

FOMC後の為替市場は、米金利の急低下を伴い「米ドル/円」は発表前の111.46/49円から急落となった。こうしたハト派への姿勢の転換で、「政策当局は、市場関係者も知り得ない経済指標の悪化を、事前に入手したのではないか」との思惑まで台頭した。

3月22日(金)には、長期金利がさらに低下、10年債金利が期間3か月の財務省証券を下回る「逆イールド」(注)が発生、米株は急落した。この流れは週明けも続き、25日(月)の東京時間にはアジア株が急落を演じるなか、「米ドル/円」は安値109.70円を示現した。

(注)住宅ローン金利をみての通り、金利は長期に行くほど高い。これは借り手の返済能力の劣化リスクを、高い金利を支払ってもらうことで貸し手とリスクバランスを均衡させている。市場に流通する国債でも同じだか、将来の景気減速を織り込むことで長期金利が低下し、短期金利を下回る逆転現象が発生する。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
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この「逆イールド」現象、昨年12月3日(月)には米国債の2年と5年、そして3年と5年の間ですでに発生済み、当日の米株も急落で取引を終えたのは記憶に新しい。「逆イールド」は将来の景気減速(リセッション)入りの前触れといわれている。

独立系の調査会社ビアンコ・リサーチが過去50年の米国債の状況を調査、期間3か月と10年の金利で「逆イールド」は10営業日継続した場合、平均で311日後に景気後退入りと結論つけた(日経電子版)。

チャート:筆者作成

こうして一旦利上げの休止が宣言されたわけだが、通常、適正な(政策)金利水準は「潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアム」で算出される。ニューヨーク連銀は、ウィリアムズ総裁のもとで、この適正な金利水準を定期的に公開している。

以下のチャートをみての通り、過去の利上げ局面もほぼこの水準付近に到達した時点で利上げが休止どころか打ち止めとなっている。この適正な金利水準を考慮した場合、「利上げの休止宣言は理にかなう」。

チャート:NY連銀、FRBより筆者作成

米国のGDP(国内総生産)の70%を占める個人消費、こちらは景気もさることながら、天候や人々の心理も広く影響する。2018年末から続いた米政府機関閉鎖の影響や株価の急落の影響で、米国の12月の小売売上高は前月比で-1.6%を記録、2009年9月以来約8年ぶりの減少幅となった。

その後も目立った回復をみせず、4月1日(月)に発表となった2月分も前月比で-0.2%と米政府機関閉鎖の影響から一旦開放されたはずだがさえない。この小売売上高、ブレの大きい指標で有名だが、ここまでの結果は米商務省が展開する「米政府機関閉鎖の影響はない」とする見解とやや異なる。

チャート:米商務省より筆者作成

本邦からの資金フローはどうだろうか?財務省が毎週木曜に公開する「対外及び対内証券売買契約等の状況」からは、3月3週に日本の機関投資家は海外の中長期債を約1.8兆円買い越している。一方で海外の機関投資家は日本の中長期債を約1.5兆円売り越している。

この1週で約3.3兆円、年初来の累計では約4.2兆円の「外向き」の資金フローが発生している。この全てが「円売り/外貨買い」を伴っていたわけではないが、1月3日(木)に発生したフラッシュクラッシュ(注)以降の「米ドル/円」相場を下支えした可能性は高い。

今週本邦では新年度を迎えたこともあり、今後、生命保険会社等の機関投資家の新規の外債投資計画の発表が相次ぐ。日銀がマイナス金利やイールドカーブコントロール政策を採用し、長短共に金利が低水準におさえられるなか、国内に目立った投資先はなく、外債投資への意欲は旺盛とみる。

図表:日本の財務省より筆者作成

以上をまとめると、今後の「米ドル/円」相場の行方を占うという点で、押し目ではこうした国内機関投資家からの新規投資の「米ドル」買いは継続しそうだ。一方で米国の金融政策、利上げの休止、B/S縮小の停止がアナウンスされ、一部経済指標の悪化も手伝う。

FRB内部に目を転じると、昨年4月にはハト派の筆頭、ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁が、中枢のニューヨーク連銀の総裁へと転籍した。同年9月にはハト派のクラリダ副議長が就任、徐々に内部のパワーバランスに変化がうかがえる。

新規投資は高値追いで買ってくることはまずない。利下げの織り込みが進行する通貨を積極的に手掛けるのは厳しい。「米ドル/円」、引き続き、戻りは限定的となりそうだ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年4月5日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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