スペシャル・トレンドレポート

英国合意なき離脱の可能性急低下 英ポンド/米ドルは底堅く推移へ(竹内 典弘氏)

2019年3月8日
アシスタント・マネージャー :「英国のEU(欧州連合)離脱をめぐる交渉ですが、合意なき離脱の可能性は回避されそうな勢いになってきましたね」
チーフディーラー :「そうした可能性が浮上してきたみたいだけど、仮に議会が合意したら、その先の展望はどうなるのかな?」
アシスタント・マネージャー :「不透明感が一掃され、英国に投資資金が戻るかもしれません」
チーフディーラー :「素直に「英ポンド」買いか?」
アシスタント・マネージャー :「それはまだ断言できませんが、戦略としてはありかもしれませんね」

すでに日産自動車は、英国中部のサンダーランド工場での次期SUVの生産を取りやめ、九州工場での生産に移行と発表している。この報道に続いてホンダも2022年までに英国工場を閉鎖、従業員3500人を解雇するとし、英国内には動揺が広がった。

2016年6月に実施された「英国のEU離脱の是非を問う国民投票」で「EU離脱」に票を投じたのは地方が中心で、その結果、現地の雇用が奪われるという皮肉な結果となった。こうしたグローバルで生産活動を続ける有力企業の投資撤回は、英経済には大打撃でEU離脱そのものを疑問視する声が高まった。

こうしたなかで、英国のメイ首相は、2月26日(火)の議会での演説で3月29日(金)とされているEUからの離脱方針を転換した。初めて3月末の離脱期限の延長の可能性を示唆し、「合意なき離脱」は『議会の明確な同意がある場合だけ』とした。

「自身の合意なき離脱」に対する内外の批判に応えたかたちだが、これにより「合意なき離脱」が回避される可能性が一気に高まった。さらに英国内では最大野党労働党のコービン党首もこれまでの姿勢を転換、「EU離脱の是非を問う2度目の国民投票を支持する」とした。

3月末のEU離脱期限が迫るなか、英国内でのこうした政治情勢の変化もあり、これを好感するかたちでここまで「英ポンド/米ドル」は比較的堅調推移が継続する。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

この先の展開だが、メイ首相は3段階での議会採決を迫る。

①、3月12日(火)までに、英国/EU間で現在協議されている「修正済みの合意案の議会採決」を実施する。

②、①が否決の場合、3月13日(水)までに「合意なき離脱の是非を問う議会採決」を実施する。

③、再度②が否決の場合、3月14日(木)に「離脱延期を問う議会採決」を実施する。

①が可決となった場合、ポジティブ・サプライズで「合意ある離脱」が自動的に成立する。②は、すでに1月29日(火)の「離脱協定案の採決」で「合意なき離脱を318対310で否決」していることから、可決の可能性は低い(否決濃厚)。

③で否決する可能性は、②の否決の結果と矛盾する。

このようなロジックで考えると、一番高いオッズは「3月29日(金)の離脱期限の延長」となりそうだが、カギはEU側の判断。「合意なき離脱」が経済、特に金融市場への悪影響を懸念するのは英国だけでなくEU側も同じだ。こうした点を考慮すると「離脱延期」がさらに現実味を帯びる。

図表:筆者作成

ではコービン党首の支持する2度目の国民投票の可能性はどうか?すでに確定している1回目の結果を翻し、再実施を実現するハードルは高い。それでもここまでの世論調査等を考慮すると、再投票ではEU残留となる可能性が高く、「合意なき離脱」の可能性はさらに狭まる。

昨年、英国のEU離脱後の見通しが立たないなか、BOE(イングランド銀行)のカーニー総裁の任期が迫り後任の人選は難航していた。英国財務省は金融市場に安心感を与えるため、カーニー総裁に任期の延長を水面下で打診してきた。

その結果、英国政府は昨年9月11日(火)、カーニー総裁の任期を2020年1月まで延長すると正式に発表した。従来の任期は2019年6月末までだったが、英国政府の留任依頼に応えた。

BOEは2月、5月、8月、そして11月と四半期に一度、MPC(金融政策委員会)の後にインフレレポートを公開する。直近の2月7日(木)の公開分では期限の迫るEU離脱に際し、11月のレポートからGDPや政策金利の見通し等を大幅に修正した。

GDP見通しでは2019年Q3(7-9月期)の見通しを従来の1.63%より0.99%へと大幅に下方修正した。一方で、その後の景気の見通しは比較的楽観的で、2021年以降は従来の予想より成長が急拡大するとして上方修正した。

図表:BOEより筆者作成

現在、BOEは0.75%の政策金利を維持するが、MPCのみるこの先の見通し、昨年11月分ではフルに1度の利上げを見込むのは2019年Q3(7-9月期)だった。今回公開の2月分ではその時期を2020年のQ3へと1年繰り下げた。

さらにその先を見通した場合、2022年Q1(1-3月期)でも政策金利の予想水準はわずかに1.14%と、現時点から見通す利上げの回数は1.56回にとどまる。広くEU離脱の悪影響を考慮したハト派の内容となった。

図表:BOEより筆者作成

先を見通した場合、仮に円滑なEU離脱が実現した場合、大幅な上方修正の可能性が排除できない。実際インフレレポートのなかでも、GDPの伸びは逆に「大きく上方修正されている点」には注目しておきたい。

英国国家統計局の最新のデータでは、英国内の賃金動向は賞与も含めた賃金上昇率は急上昇をみせる。過去に目を転じた場合、リーマンショック時や、欧州債務危機の余波が残る2014年に一時的に前年比でマイナスに転じたことがあった。直近ではその水準は+3.4%まで高まり、さらに上伸しそうな勢いとなってきた。

チャート:英国国家統計局より筆者作成

以上をまとめると、英国の金融街シティのちょう落までもが指摘されるなか、EU離脱交渉への不確実性の高まりから、対英投資は凍結されてきた。本邦の自動車メーカーに象徴されるように、凍結どころかすでに投下済みの資本すら引き上げる動きも出ていた。

英国政局をめぐる動き、筆者は英政治の専門家はなく、正確な帰すうを読むのは難しい。ただ、離脱に賛成・反対は半ば政治ショーで、ここにきて強硬離脱派の一部も態度を大幅に軟化させている。

この先に「電撃合意」に至った時、または「2度目の国民投票の実施」が現実味を帯びた場合、対英投資が一瀉千里のごとく加速する可能性が浮上する。「英ポンド/米ドル」を筆頭に「英ポンドクロス」の急騰には注意をしておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年3月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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