1)2018年一貫して下落を演じていた上海総合指数と豪ドル。
まず添付図は、2018年の主要通貨の対米ドルの騰落率である。

出典:ブルームバーグ
2018年の米ドルは、日本円を除く全ての主要通貨は米ドルに対して値を下げている。 円だけが対ドルで強い通貨となっていた。
そして主要通貨の中にあって、対米ドルで最も弱く、値を下げているのが豪ドル。
しかし、昨年のオーストラリアは他の主要国に比して、際立ったファンダメンタルズの悪化が見られたわけではない。
ではなぜ豪ドルが際立った下落を演じているのか?
その要因は米中貿易戦争の勃発と、それに呼応した上海総合指数の続落である。
下のチャートは、上海総合指数の週足である。

チャート:ブルームバーグ
このチャートが示すとおり、2018年の上海総合指数は一貫して下落を演じており、上海総合指数が3000を割ってからの下落は、当レポートでも解説している。
その上海総合指数は2019年に入ると、米中通商協議の好転とともに反発を開始。
これに呼応して、豪ドルも今年に入り反発してきている。
豪ドルを続落させた主因が上海総合指数の悪化であるのであれば、今年に入っての上海総合指数の反発が豪ドルを押し上げるのは当然と言える。
豪ドル/米ドルは、今年1月3日のフラッシュ・クラッシュの急落により、一時0.6741米ドルの安値まで急落。 (YJFXのレートでは、0.67991米ドルまで下落。)

チャート:YJF!XMT4チャート
ただこの動きは、翌日には0.7000米ドル台を回復し、その後も底堅く推移した。
では、この豪ドル反発の動きが今後も続くのかどうかを検証してみよう。
2)米中通商協議、為替組み入れで暫定合意との報道も豪ドル/米ドルのサポート要因に
上海総合指数の反発に加え、豪ドル/米ドルを底堅くさせているのが人民元の反発。
米トランプ政権は中国に対して、貿易交渉の一部として人民元相場の安定を維持するように求めていると関係者が語ったとの報道で一時広範に米ドルが下落。
米国の狙いは、為替市場での人民元安への誘導を抑制すること。つまり中国が人民元を切り下げることで、米国が課す関税の効力をなくそうとする手段を封じることにある模様。
Bloombergによれば、米中両国は最終合意の枠組みに人民元安定の保証を組み入れていることで暫定合意しているとのこと。
添付図はドル人民元の日足。

チャート:ブルームバーグ
オフショアのドル人民元は、一時1米ドル=7.00元レベルまで売り込まれていたが、米中貿易協議の進展でじわじわと人民元が上昇した。
加えて前述の「米中は為替組み入れで暫定合意」との報道で「ドル安、人民元高」がさらに進行。
豪ドルは疑似人民元ともいわれるほど中国との相関性が高く、人民元の上昇が豪ドル/米ドルをさらの底堅く推移させている。
一方、豪ドル/米ドルの弱気な材料もある。
今月初旬RBA(オーストラリア中央銀行)のロウ総裁が「金利見通しは均衡している」というハト派なコメントをしたことで豪ドル/米ドルは一時反落。
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豪中銀総裁、利下げに道開く 金利のシナリオ「均衡」
オーストラリア準備銀行(中央銀行)のロウ総裁は6日、シドニーで講演し、失業が増え、インフレの停滞が続く場合、利下げが適切になるとの考えを示した。経済の下振れリスクが強まる中、利下げに道を開き、これまでの引き締めバイアスからシフトした格好だ。
ただ、豪経済の成長は依然トレンドを上回り、失業率は徐々に低下するというのがメインシナリオだとした。
豪中銀は2016年8月から政策金利を過去最低の1.50%で維持。ロウ総裁は繰り返し、次の動きは利下げよりも利上げになるとの見方を示してきた。
しかし、総裁は6日、政策金利は上下どちらの方向にも向かう可能性があると発言。「ここ1年間は、次の金利の動きは下に向かうよりも上に向かう可能性が高かったが、現時点ではその可能性はより均衡しているもようだ」と述べた。
出所ロイター
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ただ本稿執筆時点での豪ドル/米ドルは、RBA総裁のハト派なコメントよりも、上海総合指数の反発や、米中通商協議における為替組み入れで暫定合意といった米中貿易協議の報道のほうが影響力は大きく、年初から底堅く推移。
添付図は豪ドル/米ドル(AUD/USD)の月足。

チャート:ブルームバーグ
TD sequentialで、9-13-9というindicatorが点灯しており、2011年の1.1081からの下落トレンドという相場の終焉を示唆。
( ※トーマスデマークが開発したインディケーターである「TDシーケンシャル」は、set upで9、カウントダウンで13、再びset upの9(9-13-9)をカウントするとひとつの相場の終焉を示唆)
加えて、月足に表示させているBollinger Bandは、中心線が200SMAでプラスマイナス1シグマを表示しているが、このlower Band(-1σ)が0.6925米ドルに位置しており、豪ドル/米ドルの0.6900~0.7000米ドルは重要なサポートラインであることを意味する。
結果、豪ドル/米ドルは今年の前半に底固めをして反発を開始する可能性が高まっている。
昨年は米中貿易戦争の勃発により、主要通貨の中で最大の下落率で続落を演じた豪ドル。
その下落要因である米中貿易協議の好転に伴って反発を開始した豪ドル/米ドルの動向に注目である。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。