スペシャル・トレンドレポート

米金融政策・利上げの打ち止めから「米ドル/円」は再度下落へ(竹内 典弘氏)

2019年2月8日
チーフディーラー :「こんな早い段階でバランスシートの縮小(注)休止の議論開始とは…。まさか株ファースト?」
アシスタント・マネージャー :「明確に株ファーストですね(笑)」
チーフディーラー :「影響はどうでるのかな?」
アシスタント・マネージャー :「米国で新たに量的緩和が始まるわけではありません。しかし、ここまでの金融正常化路線からの修正ですから、緩和効果を温存したことになり、金利低下からの米ドル安はどうしても意識されやすくなりますね」

(注)リーマンショック後の金融危機に対応するため、FRBが2008年11月より実施した量的緩和で膨らんだ資産の圧縮。

世界の中央銀行は、事前に政策変更を匂わせるか、一国を代表する経済紙に意図的に一部の情報をリーク(漏洩)させることで、政策変更の激変を緩和している。かつて米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙(以下WSJ)では、ヒルゼンラス記者がFRBが発信するメッセージを、あくまで「観測記事」として取り上げてきた。

そのWSJが日本時間1月26日(土)早朝、「FRB、バランスシートの縮小の休止へ議論開始」と報じた。翌週にFOMCを控えていたことから、市場にはサプライズだった。直後の為替市場の反応は「米ドル」売りで、高値圏で推移していた「米ドル/円」は反落、当日の安値109.46円を示現した。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

現地時間30日(水)のFOMCの結果は、「利上げの打ち止めを示唆、バランスシートの縮小の休止へ議論開始」と見事に26日(土)の記事の内容と符合した。26日(土)の記事は、その後FEDウォッチャーのティミラオス記者の作成と判明した。

12月のFOMC会合後の記者会見でFRBのパウエル議長は、「米経済は好調そのもので、2019年度も2回の利上げが適切」と明言していた。しかしその後の株安に直面、1月の会合では政策修正を余儀なくされた。

2015年12月に始まった今回の利上げ局面だが、利上げの打ち止めに加え、バランスシートの縮小の柔軟化までもが視野に入ってきた。

2008年11月よりFRBが断続的に実施した量的緩和、かつてFRBは“Fed Note”のなかでその効果を「米10年国債の金利で105bp(1.05%)」の押し下げ効果(緩和効果)と試算していた。

今回の決定で、そのかなりの緩和効果が温存される可能性が高まった。この決定を株式市場は好感したが、為替市場では米金利の低下から「米ドル」売りで反応した。

かつてのバランスシートの縮小議論、2017年当時にFRBはその減額シナリオのシミュレーションを公開していて、その着地点を2.0~2.5兆ドルとしていた。ただ今回の記者会見から判断する限り、次回3月の会合で終了時期を決定、3.5兆ドル程度で終了する可能性もある。

チャート:FRB等より筆者作成
※B/Sはバランスシート

チャート:FRBより筆者作成
※B/Sはバランスシート

パウエル議長は「米景気の好調さ」を強調する。2月1日(金)に発表となった1月の米雇用統計は、失業率では4.0%へと悪化したものの、非農業部門雇用者数の増加幅は+30.4万人、平均時給の前年比伸び率も+3.2%と6か月連続で3%の水準を超えた。

自宅待機となった政府職員には、給与が支払われることが確定し就業者扱いとなった。一方で、失業率の計算では失業者とみなされたことから、数値のねじれが生じてしまった。

チャート:米労働省より筆者作成

ただこの雇用統計、経済指標のなかでの位置づけはハードデータつまり「遅行指標」であり、景気の底入れや、ピークアウト感を計測するにはふさわしくない。今回の米景気拡大、2018年7月より10年目に突入、戦後最長が視野に入るがここにきてソフトデータである「先行指標」の一部にやや陰りがみえ始めた。

昨年秋より、すでに多くの国際機関が世界景気の減速を指摘する。IMF(国際通貨基金)もダボス会議に先立つ1月21日(月)、世界の成長率見通しを+3.5%へと引き下げた。

ここまでの9回にわたる利上げの影響で、金利負担の増大から住宅関連の指標に悪化がみられる。ソフトデータに近いNAHB(全米住宅建設業協会)指数を前年比でみた場合、直近のピークから大きく低下している。

過去30年程度までさかのぼって検証した場合、このNAHB指数の低下時には、FRBは利下げや利上げの停止といった政策判断を下していて、今回のFRBの「利上げの打ち止め判断」にも合致する。

図表:筆者作成

チャート:FRB、全米住宅建設業協会より筆者作成

年末年始に大きく動揺した米株だが、FRBの政策変更を好感し、ここまで米株は大きく回復した。ダウは、アップルが中華圏の減速から利益見通しの大幅下方修正を発表し、急落となった当日の安値22686ドルからここまで+12.0%の劇的な回復をみせた(本レポート執筆は2月6日(水)午前)。

こちらを支援したのがここまでのFRBの決定、つまり「株ファースト」という政策判断だが、本来のFRBの責務である物価の安定と雇用の最大化と称されるデュアル・マンデートからやや外れる。

この結果、米金利の低下のなかでリスクセンチメントが改善、株価の急回復が実現した。為替市場での「米ドル/円」は株価の回復には反応薄で、金利の低下の影響を受けたままで、ようやく110円水準を回復したに過ぎない。

当面の間、米株が戻り高値付近で推移すれば、来年度の大統領選で再選を狙うトランプ大統領にFRBは「株ファースト」のメッセージを送ったことになり、大統領は最大の賛辞で返すだろう。ではこの先、経済指標、ソフトデータや企業業績の落ち込みなどから、株価が再度下落に転じた場合はどうなるだろうか?

足元で政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利先物からみた場合、ここから2020年末まで、0.70回の利下げを織り込んでいる。この先に経済指標等の好転から、この利下げの織り込みが全て解消しても、その織り込みの水準が示唆する「米ドル/円」の水準は110.56円に過ぎない。

図表:FF金利先物から算出し筆者作成

以上をまとめると、経済指標の悪化や株価の下落を招いた場合は、再び大きくこの先の「利下げ」を織り込むことになるだろう。今度の政策判断、FRBが指摘するように「経済データ次第」という側面は大きそうだが、利上げの織り込みが加速する状況下でもなく、「米ドル/円」の戻りは広く売り場と捉えておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年2月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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