スペシャル・トレンドレポート

欧州景気の減速、「ユーロ/円」は再度下値模索の展開へ(竹内 典弘氏)

2019年1月11日
チーフディーラー :「年明けから、為替市場がフラッシュクラッシュ(注1)に見舞われるとは…」
アシスタント・マネージャー :「悪材料が重なり過ぎましたね」
チーフディーラー :「この場合、悪材料とは?」
アシスタント・マネージャー :「米政府機関の閉鎖、アップルの業績下方修正、さらにフラッシュクラッシュが発生したウェリントン、シドニー市場は両市場合わせても一日の為替市場の出来高の2.1%(注2)しかありません」

(注1)金融市場、特に株式市場や為替市場で瞬間的に価格が急落すること。
(注2)BIS(国際決済銀行)が3年に1度公開する最新のデータ(2016年度)より。

正月気分冷めない1月3日(木)午前7時半過ぎ、為替市場でフラッシュクラッシュが発生、「米ドル/円」を筆頭に「クロス円」が急落した。背景等は複数指摘されているが、主なものは以下の通りだ。

トランプ大統領は、不法移民対策としてメキシコ国境との壁建設の予算を要求、暫定予算が一部失効し米政府機関は閉鎖に至った。昨年12月22日(土)に始まった政府機関閉鎖は本稿執筆時点の1月9日(水)時点で18日目(現地時間ベース)に突入、過去最長の21日超えが完全に視野に入ってきた。

この長期化の影響、かつて米大手金融ゴールドマン・サックスや大手格付け会社S&Pグローバル・レーティングなどは政府機関閉鎖が1週間継続した場合、GDPの押し下げ効果を-0.2%と算出していた。こうしたことから経済活動の停滞は当然として、経済指標の発表の延期、米国債の利払いの停止といったネガティブな影響も看過できない状態となっていた。

年明け1月2日(水)、アップルは中国経済の低迷を背景として2018年Q4(10-12月期)の売上高予想を大幅に下方修正した。この報道でアップルの株価は、昨年の上場来高値233.47からの下げが加速、発表後の急落を経て安値142.01を示現、下落率で実に-41.8%、この間で同社の時価総額は約4800億ドルが吹き飛んだ。

東京市場が始まる前のウェリントン、シドニー市場は上述の様に一日のなかで極端に流動性が乏しい。「ユーロ/円」は新年初営業日である1月2日(水)に昨年来安値125.62を下回っていたこともあり、このフラッシュクラッシュのなかで下げが加速、118.64の(銀行間市場の正式)安値を示現した。

チャート:筆者作成

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成
※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

ここまでの主要国の株価の調整は、世界景気減速懸念が指摘されるなか、欧米を筆頭に先進国でのリーマンショック後の量的緩和からの正常化、つまり緩和の資金の引き揚げが一因だった。ECB(欧州中央銀行)も昨年末で2015年3月以降に継続したAPP(資産買入れプログラム)を打ち切った。主要3中銀では、日銀のみが依然マネタリーベースの増加を目指すが、この3中銀全体でみた場合でも、この先は絶対額での資金供給額は減少し歴史的な転換点を迎える。

図表:ECBより筆者作成

図表:日本銀行、ECB、FRBより筆者作成
※通期で1米ドル=110円、1ユーロ=125円換算

EU(欧州連合)の執行機関である欧州委員会は12月19日(水)イタリアが再提出した2019年度の修正予算案を正式に受理した。財政ルールに逸脱しているとして修正を求めてきたが、財政の赤字額を減少させたことで承認した。イタリア発の混乱は制裁手続きへ移行することなく、一旦幕引きとなり通貨「ユーロ」には不安材料が一つ消えたかにみえた。

一方でフランスに目を転じると、マクロン政権が引き上げを目指した燃料税に抗議デモが相次ぎ、マクロン大統領は就任以来の支持率の低下に拍車がかかるなか、この引き上げを見送った。この結果、財政赤字が拡大する懸念が浮上、フランス国債には売りが集まり金利が上昇、域内で一番信用度の高いドイツ国債との金利差が拡大(注)した。

(注)域内での金利差の拡大は、「格差の拡大」から「ユーロ」売り要因。一方で金利差の縮小は「ユーロ」買い要因。

ただここにきて、こうした金利差の拡大は以下のチャートの様に周辺国にも伝播しており、ユーロ上昇への阻害要因になってきた。

チャート:筆者作成

こうした混乱に加え、米国発の貿易摩擦から欧州域内でのPMI(注)は軒並み悪化、イタリアに次ぎフランスでも12月の数値は好不況の分かれ目である50を下回り49.7まで落ち込んだ。PMIは経済指標では景気の先行指標、その悪化は「ユーロ/円」を押し下げる。

(注)Purchasing Managers` Indexの略で、日本語名では「購買担当者景気指数」。製造業などの購買担当者へのアンケート調査をまとめ指数化したもの。

チャート:筆者作成

世界景気の減速を先取りし昨年秋に急落した原油先物価格、欧州で指標となる北海ブレント(注)も回復には程遠く低迷する。この原油先物価格、前年比でみてもその水準を下回り、ユーロ圏のHICP(消費者物価指数)を押し下げる。そのHICP、12月の数値はわずかに+1.6%とECBの目標とする+2.0%を下回る。

(注)別名をロンドン原油、英国領北海油田で生産される硫黄分の少ない軽質の原油。主要消費は欧州であることから、欧州の物価情勢に大きな影響を与える。

昨年2月、「ユーロ/円」を137円台まで押し上げたのは、最短で昨年内のECBの利上げ観測だった。現在見込まれる最短の利上げは今年夏、ただこのHICPの低迷から判断する限り利上げの後ずれは必至で、利上げの正当性を訴えるのは厳しい。

チャート:筆者作成

「ユーロ/円」の動向、日独の金利面からはどうだろうか?日本では日銀のイールドカーブ・コントロールのなか、10年債では概ね0%を中心に上下0.2%で推移している。一方でドイツ国債は欧州景気の減速を先取りして大きく低下、この結果、ここにきて金利差は大きく縮小、「ユーロ/円」の頭を抑える。

チャート:筆者作成

以上をまとめると、「円」固有の材料が乏しいなかでは「ユーロ/円」の方向性はどちらかといえば「ユーロ」単体の要因の影響が強い。「ユーロ/円」は「クロス円」の一角であることから、「米ドル/円」の影響も強く受ける。その「米ドル/円」、1月の騰落は、直近10年では3勝7敗と月足でみれば7回が下落で終わっている。

これは年末の「米ドル」需要の剥落が一部要因で、その反動の影響が年明け1月に出たことになる。世界景気減速、特に欧州景気の減速を受けた経済指標の悪化が続く限り、「ユーロ/円」は下値模索の展開が継続とみておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2019年1月11氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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