スペシャル・トレンドレポート

2019年の米ドルは米金利の下落ともに反落、「米ドル/円」は105円へ(西原 宏一氏)

2018年12月18日

1)過去2年間、米ドル円相場が膠着した背景

本年はまもなく終了するが、2018年の為替相場は極めて値動きの少ない展開に終始した。
特に今年の「米ドル/円」の値幅は、本稿執筆時で、わずか9.9円。
年間の値幅が10円にも満たない稀にみる膠着相場で1年が終わりを迎えそうだ。

この低volatilityを演出したのが2016年の大相場である。
2016年の為替相場は、6月のBrexitという歴史的サプライズとなった英国EU離脱の国民投票の結果を受け、「英ポンド/円」が75円も急落。連れて「米ドル/円」も急落。ところが同年11月には、こちらも米大統領選でトランプ氏が勝利をおさめるというサプライズの結果を受け、米ドル円は急騰。年末までの1ヶ月強で約18円も急騰するといった大相場を演じた。

「米ドル/円」月足をYJFXのMT4チャートで見てみると、アベノミクスの高値が2015年12月の125.859円。そこから半年後の2016年6月にはブレグジットで98.907円まで27円も急落。さらに5か月後には米国大統領選挙でトランプ氏が勝利し、2016年12月までの1カ月強で118.661円まで急騰している。つまり、2015年12月から2016年12月の1年間で米ドル円相場は27円急落して、20円急騰する大相場となっている。

チャート:YJFX!MT4チャート

流石にこれだけ短期間にBrexitとトランプ米大統領の誕生という歴史的に重要なイベントで乱高下した為替相場はその後、方向性に欠け、変動率が低下。
為替市場全体のvolatilityの低下に伴い、「米ドル/円」の値幅も徐々に少なくなり、12月となった現在、今年の「米ドル/円」は年間の値幅が10円にも到達しないというまれにみる膠着相場に陥っている。

こうした値動きの乏しいマーケットは、多くのトレーダーの収益を圧迫する。

しかし唯一の例外はoption traderである。
金融機関のoption traderは、方向性だけではなく、変動率に対してトレードを行う。
つまり、今年の「米ドル/円」のように相場がレンジに陥り始めると、彼らは「更に「米ドル/円」相場が膠着すること」にリスクを傾ける。

結果、今年のドル円のように終始相場が動かなくなると、膠着することに賭けた彼らの収益力は極めて高いものになる。

しかし、Option traderにとって収益力の高い膠着相場が長期に渡って続くことはない。それは2016年に大きな値幅を伴い多くの為替トレーダーに多大な収益をもたらした相場が長く続かなかったことと同様である。

つまり、膠着相場を見込んで彼らはoptionを売っているわけだが、実際に少しずつマーケットが動意を見せ始めると彼らは売ったoptionを一気に買い戻さないといけないことになる。膠着相場が長いほど、optionも膨大となる。そして、2016年の大相場から既に2年が経過し、optionは十分過ぎるほど溜まっているはずである。
よって、optionの買戻し、巻き戻しの動きが始まると、為替市場では突如volatilityが急騰し、「米ドル/円」も一転して明確な方向性を見せ始めることになる。

こうした流れから過去2年間の膠着相場を経て2019年の「米ドル/円」相場は大きく変動することが予想される。

2)FRBの政策金利の引き上げとともに上昇した米ドルは大幅に買われ過ぎ

膠着した「米ドル/円」相場を横目に、今年の主要通貨では「ユーロ/米ドル」を筆頭にじわじわと米ドルが買われた展開となった。

添付図はBIS(国際決済銀行)が算出している名目実効為替レート。

出典:bloomberg

このBISが算出している名目実効為替レートは、通常このレポートで紹介しているドルインデックスと同様に、米ドルがどのくらい強いのか?を表している。
この名目実効為替レートによれば、現在の米ドルは、2002年以来の米ドル高値圏に到達していることを意味している。

次のチャートは「米ドル/円」月足チャート。

出典:bloomberg

2002年といえば、「ドル/円」が135円台の高値に到達した局面である。
BISの名目実効為替レートによれば、現在の「米ドル/円」は、2002年以降の高値圏に到達している。つまり名目実効為替レートでは、「米ドル/円」は極端に買われすぎの状態となっていて、この先の相場が大きな調整を迎える可能性が高まっていることを意味する。

では、「米ドル/円」が大きく調整するきっかけが何かを探ってみる。

過去数年間に渡って米ドルの底堅さを演出してきたのは、FRBの利上げである。
その利上げがまだ継続中であるというのが11月中旬までのマーケットのコンセンサスであり、その意味において、米ドルはさらに続伸するのではないかという意見が大半だった。

逆説的にいえば、FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を中立と判断した局面で、米ドルは続伸する理由を失いピークアウトするとも言える。

3)FRBのスタンスの変化がgame changeとなるか?

FRBの金融政策は、FOMCやFRB高官の発言で探ることになるが、11月29日に講演したパウエル議長の発言が極めてハト派なコメントとして、マーケットが注目している。

まず、パウエル議長の過去の発言を確認すると、10月3日(水)の講演では「中立金利には程遠い」とコメントしていた。
このコメントを受け、10月から米株が急落したことは記憶に新しいところ。「中立金利」に届いていないとFRBが判断しているのであれば、今後も利上げが継続されるだろうと考えられ、米金利の上昇が継続するからである。

しかし、その同じ人物が、わずか2ヵ月弱経過した11月28日(水)の講演では、「中立金利をわずかに下回る」と発言し、もうまもなく「中立金利」に到達しそうだ、とハト派なコメントをして状況は一気に変わった。

パウエル議長の講演内容が様変わりしたのは、原油の急落の影響もあるだろうが、このところの米国住宅市況の低迷が大きく影響している。
加えてこれまでパウエル議長が粛々と利上げを続けてきたことが、インフレ抑制に十分な効果が出てきたということではないかと考えている。

この「中立金利をわずかに下回る」という表現は、11月16日(金)の講演でクラリダ副議長も使っていて、この日、米ドルは一気に売られた。

つまり、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)を前に、FRBの正副議長が続けて同じ表現を使っているということは、FRBがうまく連携してマーケットに「FRBのスタンスの変化」のサインを送っているということではないか。そして、そのサインの意味を理解しているトレーダーは、素直に反応した。

これらから、FRBの金融政策が「中立金利」に近づく時期がマーケットのコンセンサスより前倒しとなり、米ドルの反転時期は、さらに近づいたと想定している。

4)2019年に向けて、米系金融機関の米ドル弱気派が増加中

FRBの政策が次第にハト派色を強める中、主要大手米銀行の2019年の米ドルの予測も次第にドル弱気派に変わってきた。

まず、モルガン・スタンレー。

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モルガン・スタンレー:ドルの強気相場は終了、売り時到来
ドルの強気相場は終了し、売るべき時だとモルガン・スタンレーは指摘する。

出所:Bloomberg

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次は、ゴールドマン・サックス。

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ゴールドマン、円強気に転じる―向こう1年で1ドル=108円に上昇予想
ゴールドマン・サックス・グループは自称、長期的な円弱気派だが、向こう1年には円が上昇すると予想した。

出所:Bloomberg

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この記事にもあるように、ゴールドマン・サックス・グループは円弱気派の印象が強いのですが、短期的に円高派に変わっているようだ。

最後は、レイ・ダリオ氏(※)の極端な米ドル弱気論。
(※注:レイ・ダリオ氏は、ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」の創業者)

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ダリオ氏の目に映る1930年代との不吉な類似

世界最大のヘッジファンド運営会社ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者である資産家のレイ・ダリオ氏は、今の世界が1930年代後半に非常に似ているとブルームバーグ・オピニオンの私の同僚、バリー・リットホルツ氏に19日語った。控えめに言っても、やや不吉な予感を誘う発言だ。

ダリオ氏は「マスターズ・イン・ビジネス」のライブポッドキャストで、米国株が過去最高値に達し、米連邦準備制度が金融政策の引き締めに動く現状を考えると、金融市場は80年前と同じように短期的な景気循環の終盤に差し掛かっており、ポピュリスト候補の台頭という形で、政治の「二極化」も進んでいると分析した。さらに世界は借金漬けの状態にある。多くの先進国で金利がなお過去最低水準近くにあり、各国・地域の中央銀行が数兆ドルもの資産を既に購入していることを前提とすれば、容易な解決策のない長期的問題だ。

筆者が9月のコラムで言及した通り、ダリオ氏はかつて、ドルが準備通貨としての地位を失う状況を米国の最悪の悪夢と表現した。膨らむ米国の財政赤字がいずれ海外の大口投資家をいら立たせることになると同氏は懸念し、ブラックロックのローレンス・フィンク最高経営責任者(CEO)もこうした不安を共有している。連邦準備制度が国債のマネタイゼーション(貨幣化)を行わざるを得ない状況では、「ドルの価値が30%下落する事態も容易に起こり得る」とダリオ氏は2カ月前に主張した。

ダリオ氏は今回のライブポッドキャストで、これらの問題と影響をあらためて指摘した。「ドルの役割が縮小し、ドル建て債のリターンが打撃を被るだろう」と同氏は述べ、「他の通貨の台頭が起きると私は考えている」と発言。ただ、それがどの通貨になりそうかは「大き過ぎて踏み込めないテーマだ」と明言を避けた。通貨危機を理解するきっかけとなった出来事としては、ニューヨーク証券取引所(NYSE)のフロアで勤務していた1971年に当時のニクソン米大統領が金・ドルの交換停止を発表した「ニクソン・ショック」を振り返った。

出所:Bloomberg

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レイ・ダリオ氏の意見はかなり極端だが、主要な米系大手銀行では来年(2019年)の米ドル弱気派が増えてきているようです。

個人的にも、前述のようにBISの実効為替レートが示すように米ドルが大幅に買われすぎていること、そして来年はFRB の政策がハト派に変わり米ドル金利が低下する可能性が高まっていることから、2019年の米ドル円は105円に向けて反落するのではないかと想定している。

2016年には、「Brexitと米大統領選という2大イベント」に湧き、「英ポンド/円」を筆頭に大きな値動きをみせた円相場だが、その反動から「米ドル/円」は過去2年間、膠着相場となった。
そして、2年間という調整相場・膠着相場を終えつつあることで、大きな変動が期待できる2019年の「米ドル/円」相場に注目。

西原 宏一氏プロフィール

西原 宏一(にしはら こういち)
大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。

本記事は2018年12月18日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、西原宏一氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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