スペシャル・トレンドレポート

四面楚歌のユーロ、対米ドルで当面安値圏での推移へ(竹内 典弘氏)

2018年11月28日
チーフディーラー :「最近のデータを振り返ると、トランプ減税(注1)の効果が米国への資金還流として表れてきた」
アシスタント・マネージャー :「その資金還流とは、米企業の海外現地法人の本国への利益送金のことですよね?」
チーフディーラー :「その通り。今回は前回2005年の動き(注2)と比較して、その影響が限定的との意見が大多数だったが、実際は違った」
アシスタント・マネージャー :「だとすると、その動きは年末に向けさらに加速する可能性もあるということでしょうか?」

(注1)昨年末に米議会を通過したトランプ減税(Tax Cut and Job Act 2017)
(注2)2004年成立した米国本国投資法(Homeland Investment Act)の影響

トランプ減税の効果だけではないだろうが、確かに年初来でみても「ユーロ」は対「米ドル」でここまで大きく減価している。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

トランプ減税の効果は、米国内での需要喚起からの好景気のみならず、国際的な資金移動にもその影響が確認され始めた。今回の減税では、米企業の海外現地法人の稼いだ利益の本国還流に8.0-15.5%という大幅な減税が盛り込まれた。この海外の現地法人が積み上げた利益は、ここまで市場推定で2-3兆米ドルに達すると推計されてきた。

地理的には大半は欧州とみられ、ECB(欧州中央銀行)が一部政策金利にマイナス金利を採用していることから、現地通貨建て(ユーロ)ではなく大半をすでに米ドル建てに転換済みとみなされていた。こうした理由から、仮に大きな利益送金が発生しても為替市場での転換(ユーロ⇒米ドル)は、ほぼ発生しないとみられていた。

米商務省の統計では、2014年以降の4年間での年間の米企業の海外現地法人からの本国への年間利益送金の総額は、おおむね1900億ドル程度で安定していた。それが2018年に入り第1四半期で2949億ドル、第2四半期でも1695億ドル、結果上半期だけで4644億ドル、今年の前半だけで平年の2.3倍超へと急増した。

この動きにさらに拍車をかけそうなのは、年末特有の利益送金を急ぐ動きだ。昨年までの海外現地法人の留保利益も現地では「全てが米ドルに転換されていたわけでもなく」、仮に10%でも現地通貨建てであった場合、利益送金となった場合、大きな米ドル買いを伴う。

図表:BEAより筆者作成

米中の貿易戦争の余波は欧州にも飛び火、特に米国に完成車を多く輸出する欧州の大国ドイツへの影響は大きい。排ガスの不正問題も尾を引き、大手自動車メーカーのフォルクスワーゲンの株価は、年初来高値から10月に入り30.3%と下落幅を拡大した。

通常、高値からの下落率で20%を超えた場合、ベアマーケット(弱気相場)入りと判断することから、フォルクスワーゲンの株価の回復を当面予想するは厳しい。この影響もあり、ドイツの総合株式指数であるダックスも年初からは大きく下落を演じ、こちらもベアマーケット入りが視野に入る。

こうした背景から、ドイツの民間調査会社であるZEWが公開する景気の先行指標であるZEW景況感指数は、年初より下落をたどり足元では-24.1まで悪化した。この水準、時をさかのぼる欧州債務危機以来の水準で、景況感の鈍化どころのレベルではなく、悪化の域を拡大する。

チャート:筆者作成

チャート:筆者作成

景況感の悪化は企業心理にも大きく影響し、ドイツのIfo経済研究所が発表する「ドイツ企業の事業不確実性指数」でみても、リーマンショック後の不確実性の低下局面は終了した。数値でみる限り、2009年以降の下落トレンドを転換し、ここにきて57.1へと大きく上昇した。

2017年後半に急拡大した欧州景気、年明けからの減速・鈍化はインフルエンザのまん延、ストライキ、南欧での降雪、イースター休暇のずれ等が真因とされてきた。ただここまでの景気指数の悪化は、そうした要因だけでは説明がつかない。

欧州各国に目を転じても、PMI(購買担当者景気指数)(注)も大きく悪化。イタリアに至っては、2019年度の予算案をめぐるイタリア政府と欧州委員会との対立から好不況の分かれ目である50を下回る49.2まで悪化した。そもそもこのPMI、景気の先行指標であり「ユーロ/米ドル」の相場をけん引していることがわかる。

(注)Purchasing Managers` Indexの略で、日本語名では「購買担当者景気指数」。製造業などの購買担当者へのアンケート調査をまとめ指数化したもの。

チャート:Ifoより筆者作成

チャート:筆者作成

CFTC(米商品先物取引委員会)が公開するIMMのポジション残高でみた場合、「ユーロ/米ドル」の建玉は歴史的な高水準の買い残を記録した1月9日(火)の144691枚の買い残は全て消えた。ここにきて「ユーロ/米ドル」の下落に伴い、順調に売り残は拡大、ただ11月13日(火)時点でも37019枚と低水準にとどまる(注)。

(注)通常、毎週火曜引け時点の数値が金曜に発表される。米国の感謝祭の影響もあり11月20日(火)の数値は週明け11月26日(月)米国時間引け前後に発表予定。本稿執筆は日本時間11月26日(月)午前。

このIMMのポジションの見方、ポジションが拡大したから「その決済で相場が反転する」と読むのではなく、ポジションの拡大は純粋に相場加速への潤滑油とみておきたい。

図表:筆者作成

では金利面ではどうだろうか?ECB(欧州中央銀行)は、量的緩和の一環であるAPP(資産買入れプログラム)の年内終了をすでに発表している。政策金利も最短で来年夏までの据え置き(=利上げなし)を6月の理事会で決定済みで、当面の政策変更は見込めない。

このECBの政策下、政策金利の一つである預金ファシリティ金利を史上最低の-0.4%を継続することで、欧州の主要国債の金利は短期を中心に依然マイナス金利に埋没する。

チャート:筆者作成

2015年12月に始まった米国の利上げ局面、ここまで8回の利上げが終了、今年12月の9回目が視野に入るなか、徐々に終盤戦へと近づく。この金利の上昇で、金利負担の増大から先行指標である住宅販売、自動車販売等には陰りがみられる。この結果、好調のはずだった米景気の減速を指摘する市場関係者も増えつつある

以上をまとめると、この米景気の減速は米金利の低下から「ユーロ/米ドル」では買いの要因であり注意を要する。ただ欧州、その通貨である「ユーロ」を取り巻く環境は四面楚歌の状態で、特に欧州でマイナス金利を嫌気し域外に流失した資金、ドイツ銀行は4兆ユーロに達すると試算していた。

米景気の減速に注意を払いつつ、引き続き「ユーロ/米ドル」は当面安値圏での推移が続くとみている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年11月28日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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