スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」は米金利の上昇に直面、調整局面の到来も(竹内 典弘氏)

2018年10月12日
チーフディーラー :「「米ドル/円」は年初来の高値を更新したが、やや伸び悩んでいるけど、どうかな?」
アシスタント・マネージャー :「米景気の強さは揺るぎないですからね」
チーフディーラー :「下がらない?」
アシスタント・マネージャー :「上値もそれなりに重いのですが、下値は極めて限定的でしょう」

未曾有の金融危機を招いたリーマンショック後の米国の景気回復は、今年7月で10年目に突入し、戦後最長の記録更新が視野に入る。主要国のなかでも独り勝ちの様相で、米中の貿易戦争の悪影響も杞憂に終わりそうな勢いだ。

現地時間9月26日(水)に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)後には、今回の利上げ局面では8回目となる25bp(0.25%)の利上げが実施された。事前にこの利上げは100%織り込まれていたことから、当日の市場反応はセル・ザ・ファクト(注)となり「米ドル/円」は高値113.14から反転下落となった。

(注)“Sell the fact”、「うわさで買って、事実で売る」の後半部分。

翌27日(木)、「米ドル/円」はクロス円の下落を伴い下値を伸ばしたが、安値は112.57に限られた。その後は米国時間に入り1月8日(月)の年初来の高値113.38を約8か月ぶりに更新、10月4日(木)にはこの局面の高値114.54を示現した。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

※インディケーターは筆者開発のTwinCloud®、太さの変わる2本の移動平均とお考え下さい。

為替市場に大きな影響を及ぼす株式市場をみても、米株3指数は今年2月以降の下落幅を全て埋め高値更新が相次いだ。トランプ減税の効果は広く浸透し、企業の自社株買いも手伝い、ダウは10月3日(水)まで5日連騰を記録、年初来の高値を更新した。

チャート:筆者作成

こうした追い風が吹くなかで10月5日(金)に発表された9月の米国の雇用統計は、非農業部門雇用者数の増加幅は予想をやや下回り、前月比では+13.4万人増にとどまった。一方で失業率は実に48年ぶり、つまり約半世紀ぶりの水準となる3.7%まで低下した。

8月分の数値は上方修正され、この9月の+13.4万人という結果も同月にハリケーン・フローレンスが1000年に一度とされる大雨をもたらし、採用活動が停滞したことを考慮すると十二分な結果だった。

FRB(米国の中央銀行)は、失業率で4.5%を完全雇用と判断している。今回この3.7%まで低下した失業率、今後の展開をインフレ指標であるCPI(消費者物価指数)と対比させて考えるとどうなるだろうか?

米国の失業率は、歴史をさかのぼる半世紀以上前1966年2月に4.0%を初めて割れる3.8%を記録、以降は一度も4.0%に戻ることなく3%台が定着、1968年9月に3.4%へと低下した。

一方でCPI、1965年7月はわずかに1.6%、その後1966年8月に3.5%へと急上昇、その後はほぼ一本調子で上昇し、1969年12月には6.2%に達した。

当時はベトナム戦争への兵役から、若年層の労働力が不足していた。さらにケネディ減税の効果でインフレが高進したなど現在と同列に比較できないが、今回も労働需給はこの先さらに引き締まる可能性が高い。

景気を判断するうえでは、この失業率は先行指標で物価指標のCPIが遅行指標とされる。よく考えてみると当然で、労働需給の引き締まりが波及し、最終的に物価を押し上げていると判断出来るからだ。

チャート:筆者作成

この労働需給の引き締まりは、米雇用統計で同時に発表される平均時給の前年比伸び率にも現れ、前月より鈍化したものの9月の数値は2.8%と約9年ぶりの水準を維持する。

物価指標が遅行指標であるなら、この平均時給も物価指標であることから、この伸びは失業率が悪化してもさらに上昇する可能性が高い。

チャート:筆者作成

こうした好景気を長く継続させるために、FRBはこの先も引き締めを継続することになる。引き締めは政策金利であるフェデラルファンド金利の引き上げにとどまらず、リーマンショック後に米国債等を広く買い入れ膨張したバランスシートの縮小(注)にも着手している。

(注)保有の米国債・社債等の満期後の再投資を減らすことで、市場から緩和時の資金を回収する措置。米国債等の利回り(金利)上昇の要因。

すでにFRBは2017年10月より縮小を開始、市場へのインパクトを軽減するために、ここまで四半期ごとに徐々に縮小額を増やしてきた。2018年10月以降はこうした軽減措置はなくなり、この先1年でみた場合はここまでの1年の倍の縮小に踏み切る。

図表:筆者作成

(注)機関債は「政府機関が発行する債券で政府が元本保証しない債券」、MBSは住宅ローン担保証券

こうしたFRBの引き締め(利上げ)やバランスシートの縮小は、広く世界に流通する「米ドル」の回収からの本国への回帰となり、市場に出回る「米ドル」のひっ迫につながる。

今年8月のトルコショックで「トルコリラ」が暴落したのは、こうした米国への資金回帰の副作用で、この先こうした資金の流れは加速することはあっても停止することはない。

リーマンショック後の米国の量的緩和で低金利の「米ドル」は世界に流失し、新興国の「米ドル」建て債務の総額は、国際決済銀行の統計で実に3.7兆米ドルとこの10年で2.3倍となった(日経電子版より)。

利上げはこうした債務には利払いの、さらに「米ドル」の上昇は米ドル建て借り入れの元本の増大を意味する。「米ドル」を調達(し返済)する動きは世界で広まり、ロンドンの銀行間取引(注)でも「米ドル」の調達金利は上昇、約10年ぶりの高水準が継続する。

(注)London InterBank Offered Rate、通称LIBOR(ライボー)

チャート:筆者作成

この動きで、市場の流れは「米ドル」への一極集中となり、「米ドル」の名目実効為替レート(注)でみても126.9と実に16年ぶりの高値をつける。

(注)貿易量等を加味していることから、通貨の相対的な強さを判断することができる。

チャート:BIS(国際決済銀行)より筆者作成

以上をまとめると、こうした「米ドル」を取り巻く環境は対円でも同じで、この先も「米ドル」の不足は継続することになる。ただ「米ドル」の不足は引き締めの結果であり、今後の展開は米株の動向次第とみている。

今年の2月以降の株価の急落を招いたのは、振り返れば金利の上昇が背景であった。金利の上昇は本来、株価の相対的な魅力の低下につながり、金利高・株高の継続的な共存は通常あり得ない。

米国ではこの先の11月、トランプ大統領の任期前半の審判を問う中間選挙を控える。下院では、民主党有利で金融市場の選挙後の一波乱を予想する声も多い。一時的なリスクオフの動きからの「米ドル/円」の調整も考慮したほうが良さそうだ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年10月12日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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